《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》121.勇者、弟と軽く汗を流す
対校戦、2日目の朝。
宿の大部屋にて。
「ふぁー……ん? 弟がいないな」
隣で寢ていたはずのガイアスがいない。
どこかへ行ったのだろうか?
壁の時計を見やると、時刻は6時だった。
「朝練でもしてるかな?」
昨日の様子を思い起こされる。
弟は3回戦後、し落ち込んでいる様子だった。
「大丈夫かなあいつ。うーん……見に行ってみるか」
「むにゃー……あにうえー……」
俺の腰にくっついていたミカエルを剝がし、立ち上がる。
ガイアスの気配を辿って宿を出て、近くの自然公園へと向かう。
「お、いたいた」
林の中で、ガイアスが瞑想している。
目を閉じて、【宙に浮かびながら】、呼吸を整える。
弟のからは莫大な量の魔力と闘気が循環している。
質量を持つほどまでに圧されたそれらで、足場を作っているのだ。
「…………」
朝練の邪魔しちゃ悪いなと思って、立ち去ろうとする。
「待ってよ、兄さん」
目を閉じながら、ガイアスが言う。
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「おはよ」
「うん、おはよう」
俺は弟に近づく。
ガイアスは瞑想をやめて、地面に足をつく。
「何で帰ろうとするのさ」
「朝練の邪魔しちゃ悪いって思ってさ」
「変なことろで空気読むよね。普段まったく空気読まないくせに」
ざぁ……と風が吹く。
空は曇天で覆われている。
季節は10月。
夏が終わり秋にっている。
空気はひんやりとしていて、し寒い。
「兄さん。ごめんね」
「ん? どうした唐突に?」
ぽつり……とつぶやく。
「3回戦のとき、兄さんに迷かけちゃって……」
初日最後の競技は棒倒しだった。
相手のアスモデウスが暴走し、ガイアス達はピンチになった。
そこに俺がって助けたが、しかし選手でなかったので失格扱いされた。
「気にすんな。大會に參加できなくなったわけじゃないし」
単にあの競技で失格になっただけだ。
「でも……本來なら、ボクがエリーゼ達を守らないといけなかったのに……」
ぎゅっ、とガイアスは拳を握りしめる。
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「いつも考えるんだ。こんなとき兄さんだったら余裕で危機を救えるのにって。……いつだって、ボクは兄さんには遠く及ばないんだ」
しょぼくれている弟を見ていると、が締め付けられる。
省は必要だ。
けれど自信を過剰に失ってしまうと、育つモノも育たなくなる。
俺はガイアスに強くなってしい。
それはこいつの本來の兄貴を、俺が奪ったからという罪悪から……というわけではない。
ただ純粋に、俺はガイアスのことが好きなんだ。
頑張り屋で、負けず嫌いな、【後輩(ゆうしゃ)】の年のことがな。
「弟よ。し稽古つけてやるよ」
俺は魔剣を手に取る。
「こんなときに?」
「いいからほら。剣を取れ」
ガイアスは両手に雙剣を持つ。
無雙剣セイバー。
彼の相棒だ。
「先手は譲る。好きにこい」
「いくよ……兄さん!」
その瞬間、世界が凍った。
時間停止なんて生やさしいものではない。
文字通り、時間と空間を、魔法で【凍らせた】のだ。
無雙剣の力だ。
こいつは炎と氷を扱うことができる魔剣。
その力をガイアスが引き出した結果、こうして時空間を凍り付かせるほどまでに長したのである。
「せやぁあああああああ!」
ガイアスは親(おれ)が相手でも決して手を抜かない。
本気で取りに來る。
凍り付いた世界の中で、しかし俺はき出す。
弟の雙剣を見切ってバク宙でかわす。
「なんで時空間を凍らせたのにけるのさっ!」
「え、を質世界から切り離してるからだけだけど……これくらいできるだろ?」
「できないよ!」
著地點にガイアスは炎の剣を振る。
炎の斬撃は巨大な火の鳥になって、俺に襲いかかる。
俺はを空中でひねってかわす。
その風圧で火の鳥はかききえる。
がきぃいいいいいいん!
俺の死角からガイアスが雙剣を振るってきた。
それを魔剣でけ止める。
「……くっ! 完全に意表を突いたつもりだったのに!」
「まだまだ甘いな。殺気が消し切れてない」
「くそっ!」
俺たちは空中で斬り合う。
ガキンッ! キンッ! ガキキンッ!
ズバンッ! ズガガガッ! ガキキキキキンッ!
剣をぶつけ合うたび、伝わってくる。
ガイアスの思いが、試合にかける意気込みが。
「良い剣になってきたな、弟よ」
俺は嬉しかった。
以前の弟の剣には、乗っているモノがなにもなく……軽かった。
切り結ぶたびに、ガイアスの剣の重さが増していく。
それはミカエルだったり、エリーゼ達だったり。
そういった大切なモノを増やしていくたび、ガイアスの剣は重く鋭くなっている。
「せやっ!」
空中でガイアスが雙剣を振る。
俺は魔剣で正面からける。
だが反で吹っ飛ぶ。
そこへガイアスが切り込んでくる。
剎那の間に1000回の斬撃を放つ。
キンキンキンキンキン!
俺は空中に立って、それらをすべてさばく。
ガイアスは斬撃を放ち終わると同時に離れ、剣を構える。
「はぁああああああああああああ!」
から立ち上るのは、莫大な闘気と魔力。
無雙剣は主人の力を吸って、さらに力を発揮する。
天を焦がすほどの炎と、大地を覆うほどの氷。
ガイアスは剣を差するように構えて、打つ。
ごぉおおおおおおおおおおおおお!
莫大な炎は、覆っていた曇天を焼きながら。
凄まじい冷気は帝國の大地全てを凍り付かせながら。
俺の向かって炎と氷の刃が飛翔する。
突きの構えを取り、俺は前方に放つ。
【崩壊剣(アルティマ・ソード)】。
漆黒のは、ぶつかった炎と氷の刃を虛無へと消し飛ばす。
ドンッ……! とガイアスが踏み込んでくる。
大技を放った後の、一瞬の隙を突いて、超高速の斬撃。
俺はそれを回避しようとする。
「お」
だが、いつの間にか俺の足が凍り付いていた。
おそらく先ほどの大技は目くらましだ。
「せやぁあああああああ!」
ガイアスの剣が、俺のクビを取ろうとする。
だが俺は上をそらしてそれを躱す。
すぐさま起き上がり、剣をガイアスの背にたたき込む。
ドガンッ……!
たたかれたガイアスは超高速で吹っ飛んでいく。
それは帝國闘技場をぶち破って、グラウンドに激突した。
俺は転移で弟の元へ行く。
「はぁ……! はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
全汗だくで、ガイアスが倒れている。
隕石が落ちたかのような、巨大なクレーターの中心にいた。
「ナイスファイト」
俺は時間魔法を使って、ガイアスの力を戦う前に戻す。
試合前にヘロヘロになっても困るからな。
「ありがとう、兄さん」
俺はガイアスを見下ろしながら言う。
だがその表は晴れない。
「結局……また負けた。いつも通りさ……」
俺はガイアスの頭をなでる。
「そんなことねーよ。おまえすごいじゃん」
「え……?」
「覚えてるか。前はおまえ、俺をその場から一歩もかすことはできなかったんだぜ?」
しかし今は違う。
弟の攻撃をかわさないといけない。
「回避しなきゃイケナイってことは、どういうことかわかるか? 真正面からけたらヤバいってことだ」
「あ……」
ガイアスと出會ったのは4月。
そこから半年だ。
たった半年で、この新人勇者は、俺に迫るほどの力をつけているんだ。
「大丈夫。おまえは強くなっているよ。この世界の、誰よりも」
ニッ、と俺は笑いかける。
ガイアスは俺を見上げて、ポロポロと涙を流す。
「ボク……ちゃんと兄さんの後ろ、ついていけてる?」
「もちろん。だから泣くな。な?」
ぐしっ、とガイアスが涙を拭く。
俺は彼に手を差しべる。
ガイアスはその手を取って、立ち上がる。
「不覚を取ることなんて人間である以上仕方ないことだ。俺だって昔はよくあった。けどな……」
俺は後輩に教えを授ける。
「人間つまづくことは恥ずかしいことじゃない。立ち直れず、うずくまったまま腐るのが、一番恥ずかしいんだ」
「兄さん……」
ガイアスを抱き寄せて、頭をなでる。
「おまえはすげえよ。何度心をおられても、お前はいつだって最後には立ち上がって追いかけてくる。選ばれし勇者じゃない、ただの人間がだ」
弟の目を至近距離で見て、言う。
「誇れ、ガイアス=フォン=カーライル。おまえは勇者(おれ)に一番近い」
「兄さん……ありがとう」
ぎゅっ、とガイアスがハグを返してくる。
しばらく泣いているガイアスの頭を、よしよしとなでた。
ややあって。
「ボク……頑張るよ」
「おうよ。頑張れキャプテン」
ガイアスが元気になってくれて良かった。
「戻るか。腹減ったしな」
俺たちは壊れたものすべてをなおして、宿に向かう。
闘技場の出り口に、見知った顔がいた。
「腐腐腐……♡ 腐腐腐……♡」
「よう、ダンタリオン。おはよう」
「おはよう……ございます……」
ぺこっ、とダンタリオンが頭を下げる。
「おまえなにしてんの?」
「おかずの……においを……じ取りまして……はせ參じました」
くねくね、とダンタリオンがをくねらせる。
「ガイアス様……」
「な、なんだよ?」
「ご安心……ください。あなたは……強い。アスモデウスは……最強の悪魔。それと対峙して……無事だった。人間では……史上初です」
ダンタリオンが真面目なトーンで言う。
「負けたことは……恥ずかしく……ありません」
「そ、そっか……。その、ありがと」
俺は彼を見やる。
「勵ましてくれるのか?」
「ええ……部下の不始末で……過剰に……自信をなくされいた……様子……でしたので」
「そっか。フォローさんきゅーな」
「いえいえ……ガイアス様」
にゅっ、とダンタリオンが手をばす。
「2日目も……がんばりましょう」
「ああ、がんばろう」
キャプテン同士が、手を握り合う。
こうして友達がどんどん増えていくことが、俺は嬉しかった。
「ところで……ガイアス様」
「なに?」
「朝から……濃な……ぶつかり合い。ごちそう……さまでした……♡」
「は……?」
ダンタリオンがを揺する。
「ぶつかり合う……兄弟……ほとばしる……汗……荒い呼吸……」
「ちょっと待て! ただ朝練してただけだから!」
「そして……朝日をバックに……抱き合う……♡ ふぅ……」
「見てたの!? 見てたんだな!?」
「ええ……一部始終……録畫も……ばっちりです」
「消せ! なにに録畫してたか知らないけど消すんだよぉおおおおお!」
うんうん、ガイアスが元気になってくれて良かった。
「さて、と。2日目。頑張りますか」
【※読者の皆様へ お願いがあります】
「面白い!」
「続きが気になる!」
「ガイアス頑張れ!」
と思ったら、
下の【☆☆☆☆☆】から作品への応援おねがいいたします!
面白かったら星5つ、
つまらなかったら星1つ、素直にじた気持ちで全然かまいません!!!!!!!!
なにとぞ、よろしくお願いします!
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