《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》149.勇者、最後の試合に臨む
対抗戦の3日目、午後の部に挑む俺たち、王立學園の面々。
闘技場の廊下を歩いていると、控え室から、続々と選手たちが出てくる。
「やぁユリウス」
「おう、アンチ」
帝國學園の主將・アンチ=フォン=マデューカスと、4人の子生徒たちが出てきた。
「あんち、試合でるです? 正気です? 病院は予約済みです?」
義弟のミカエルが純粋なまなざしを、アンチに向ける。
「こらミカ! ……けど、アンチ。やめといた方が良いんじゃない?」
俺の弟ガイアスが、主將として、友として、アンチを気遣って言う。
「転生者の相手は、今の君たちじゃ無理だよ」
驕るのではなく、戦ったことのあるものの意見として、ガイアスが暗に棄権をすすめる。
だがアンチは、ふっ……と長い髪を手ですいて言う。
「バカを言っては困る。このアンチ=フォン=マデューカス、皇帝の息子として、試合放棄などしてはならぬのだ。背負っているが君たちとは違うからねっ」
かっこつけていう彼であったが、よく見ると、微細にだがが震えている。
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怖いんだろうな。
けど、それを表に出すと、嫁たちにも恐怖が伝染してしまう。
だから、怖いのをああして、我慢しているのだろう。
「やるな、アンチ。さすがだぜ」
ぽんぽん、と俺はアンチの肩をたたく。
「……恐怖を克服するのが一番難しいもんな」
「……きみ、普段ものすごーく鈍のくせに、こういうときだけ敏だね。歴戦の勇者だからかね?」
「……え、俺鈍か?」
「……はいはい」
俺はし考えて、アンチの背中をバシッとたたく。
「どうしたのかね、急に?」
「ん? ま、気合いれてやろうと思ってさ」
「なるほど、もう一発お願いできるかね? し強めで」
「おっけー」
バシッ!
どがぁあああああああああああん!
「やべ」
「「「「アンチさまぁあああああああああ!」」」」
し強めでたたいてといわれ、リクエスト通りにやったつもりだったが、廊下の壁をぶちやぶってしまった。
「兄さん! 試合前からやらかさないでよ!」
「相変わらず加減知らずやなぁ、ユリウスはんは」
がれきの向こうから、アンチがふらふらと立ち上がって言う。
「落ち著きたまえ、君たち。僕は無事だ」
「「「「アンチさま! よかったぁ!」」」」
わ……! と嫁たちが近づいて泣いている。
「……しかし、これは、どういうことかね。が……」
アンチは俺を、じっと見てくる。
「ユリウス。これって……?」
「え、俺何かしたか?」
彼は目をしばたたかせると、ふっ……とほほえんだ。
「まったく、我が友はとてもお節介焼きだね。謝するよ」
「なんのことかわからんが、ま、がんばろーぜ」
俺はアンチと握手する。
「やれやれ、試合前からライバルに檄を飛ばしてどうするのさ」
ガイアスがあきれたように言う。
「がいあす、あにうえがほかの男といちゃついてるから、嫉妬です?」
「ちがう! バカミカ! もう!」
ぐにぐに、と弟がミカエルのほっぺをつねる。
ちょうどそのときだ。
がちゃりと扉が開くと、神聖皇國の生徒たちが出てきた。
「おっす、カズマ」
転生者カズマをはじめとして、3人の生徒たちが出てくる。
選手の一人アルトは、午前中に棄権している。
「…………」
カズマはこちらを一瞥するが、うつむいてしまう。
「かずま、おかしーです? げんきないです? おなか痛い痛いです?」
義弟が心配して、カズマに近づく。
おなかをさすろうとして……俺は義弟の首っこをつかんで後ろに投げた。
「あ、あにうえ? なにを……」
ミカエルがいた場所の床に、斬撃による痕ができていた。
「なっ!? カズマ! なにするんだよ!?」
ガイアスが聲を荒らげると、カズマは靜かに言う。
「……すまない。だが、今は真剣勝負の真っ最中。なれ合いはよくない」
「なっ!?」
「もし始まる前に呪いや遅延系の魔法をかけられては困ると思って、対処させてもらった。では」
カズマはそう言って、きびすを返し、生徒たちとともに歩いて行く。
「ミカ、大丈夫か?」
「あ、あにうえ……たすかったです……」
カズマの斬撃によって、地面がかなりえぐられている。
「な、何をしたのか見えなかったのだが、ユリウス……。カズマは、本當に剣をぬいたのかね?」
アンチが不安げに聞いてくる。
「ああ。抜刀し、ミカエルがいた場所を切った。危ないところだった」
……しかし、俺の見間違え出なければ、カズマが使っていたのは……。
いや、本番、あいつに直接聞くしかないか。
「どういうことだよ。カズマは、あんなことするやつじゃないのに……」
ガイアスも、アンチも、この場にいる全員が、カズマの格(キャラ)を知っている。
常に明るく、フレンドリーで、他者を理由なく傷つけるなんてまねはしないやつだって。
「なにかあったんだろうな」
俺が言うと、全員がうなずく。
「あにうえ、なにかって……?」
「……なにかは、なにかだろう。【あんなもの】使うんだから」
「に、兄さん……あんなものってなに?」
「気にするな」
俺はみんなに言う。
「カズマの件は、俺に任せてくれ」
「し、しかしユリウス……」
「頼む」
「……わかったよ、兄さんに任せる」
俺はうなずいて、気合いをれる。
そして、先へ進んでいったカズマの元へ行く。
「カズマ」
「……なんだ?」
振り返る彼にいつもの笑みはなく、険しい表をしている。
「悩みなら相談に乗るぜ? 俺は、友達だからよ」
カズマは目を丸くする。
……小さく、ほんとうに小さく、「……すまない」とつぶやいた。
だが首を振って、メンバーたちとともにグラウンドへと向かう。
俺もまた、みんなとともに、勝負の場へと向かうのだった。
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