《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》154.弟、挑む
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ボクはガイアス。
ガイアス=フォン=カーライル。
カーライル家の次男で、兄さん……ユリウスの雙子の弟だ。
落ちこぼれだったはずの兄と、常に比較されて育った。
けれど兄さんは今年の春、急に別人のようになった。
強大な力、この世界の常識をまるで知らないこと、それらはまるで、昔の人が現代に現れたようなじがした。
……事実、兄さんは兄さんではなかった。
正確に言うなら、ユリウスは2000年前の英雄、勇者ユージーンの生まれ変わりだったのだ。
つい最近までは、ユージーンとしての人格と力を忘れてしまっていたらしい。
けれど、頭を打ったことで、全てを取り戻した。
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それから、ボクと兄さんの関係は激変した。
ボクら兄弟の仲はハッキリ言って最悪だった。
でも……しずつ、ボクは兄さんと打ち解けていった。
『それで、今では人同士でありますよね、主?』
……ボクは深々とため息をつく。
ボクがいるのは、対校戦の行われているグラウンド。
その、トイレだ。
ボクの両の腰には、雙剣がつけられている。
無雙剣セイバー。
兄さんが作ってくれた、自我のある魔剣だ。
「黙れ」
『毎日ユリウス様のことを思って眠ってるくせに』
「それは! 兄さんのように強くなるためには、どうすればいいかって寢る前に復習してるだけであって!」
『はいはい』
クッ……! なんだこの剣は。
確かにこいつを裝備すると、ボクは凄まじい力を発揮できる。
霊裝。
霊的な存在と合することで、擬似的に神の力を行使する技。
それがなくとも、この炎と氷の対の剣は、魔法と剣を組み合わせて戦うボクと相が良い。
まあ、格の相は最悪だけど。
『さて、現狀を確認しましょう。現在、対校戦最終競技。トーナメント。相手は神聖皇國』
神聖皇國。
転生者という、人外の化けたちを有した、恐るべき學校だ。
だが、そこの生徒達は、みな気の良い奴ら……だった。
しかし、學園長の謀によって、彼らは呪いをかけられ、殺す気でかかってくるようになった。
『トーナメントは総當たり戦。5VS5。義弟のミカエル様が1勝し、エリーゼ様とサクラ様は2敗。さて、追い詰められていますね』
「わかってるよ……」
1-2で負けてる。
次、ボクが負けてしまったら、大將である兄さんが出る前に負けてしまう。
『ユリウス様からのオーダーは、2つ。なるべく時間を稼ぐこと。そして、2-2で最終戦まで持ち込むことですよね?』
兄さんは、皇國學園長の謀を阻止するために、今裏で暗躍している。
その間の時間稼ぎを、ボクら王立は任されている。
ミカエル。エリーゼ。サクラは、それぞれきちんと自分の仕事を全うした。
あと……あとは、ボクだけである。
でも……ボクのは、震えている。
『怖いのですか?』
「……當たり前だろ。責任、重大じゃないか」
ボクが負けたらその時點で、王立は敗退する。
そしてまだ兄さんが戻ってきていない。
兄さんがやっていることを、ボクのせいで、臺無しにしてしまう。
『しかも主の相手は……あのカズマ様ですからね』
カズマ。神聖皇國の大將。
皇國はひとり落者がいるため、4人しかいない。
5-5のトーナメントだ。つまり、大將が2回戦うことになっている。
副將である、ボクと、大將である、兄さんと。
カズマは二度戦うことになっている。
『カズマ様の規格外の強さは、あなたが一番わかってますよね』
「ああ、今日までの競技で、いやという程ね……それに、兄さんと一度、模擬戦をしたの、知っている」
兄さんは、戦國の世……つまり、まだ魔王が活発にいていて、魔の者たちが今よりも強かった時代の人間だ。
それゆえに、この世界の誰よりも、兄さんは……強い。
兄さんと相対した時點で敵は敗北する。
それほどまでに兄さんは強いのだ。
でも……カズマは、手を抜いた兄さんと
互角に戦っていた。
今まで、そんなことはありえなかった。
兄さんに苦戦など存在しない。
絶対的強者を、手を抜いていたとはいえ、互角に戦って見せた。
そんな……化けが、ボクの相手。
『勝てないとでも?』
「………………」
勝てない、とは言えなかった。
ボクにも、意地があるから。
ボクは兄さんの弟だ。
負けてしまったら、あの人の名前に泥を塗ってしまう。
ボクは立ち上がって、トイレを出る。
『逃げないのですか?』
「當たり前だ。誰に剣を教わったと思っている?」
試合會場へと、ボクは出る。
観客が、今か今かと、試合が始まるのを待ちんでいた。
「ガイアス君!」
控えのエリアに、エリーゼが近づいてくる。
ケガは幸いしてない。
サクラも、無事だ。
「がいあすー。どこいってです?」
義弟のミカエルが、包帯グルグル巻き狀態で、橫たわっている。
「トイレだよ」
「またです? まーったく、がいあすはきんちょーに弱いです。ぼくをみらなってほしいものです」
ミカエルは、中堅。つまり3試合目の試合で戦っていた。
強く、い敵だった。
ミカエルは素早さと手數に特化している。
防力と火力に劣る。
それでも……勝って見せた。
そして時間を稼ぐために、わざと、戦闘フィールドを破壊して、修復する時間を稼いだ。
「がいあす」
んっ、とミカエルが、手をばす。
その手には、ビスケットが握られていた。
「これ、ビスケットです。食べると元気なるです」
「おまえ……」
「あにうえ、ぜったいくるです。だから、まけんな……! です!」
橫たわるミカエルから、ボクはビスケットをけ取る。
よく見れば、ミカエルはにだいぶダメージが蓄積されてるようだ。
しゃべるのも、腕を持ち上げるのも、つらそうだ。
それでも……ボクを勵ましている。
「ありがとう」
ボクはビスケットを食べる。
サクサクしたに、甘いクリームが塗ってある。
「おまえも、人におやつをゆずる心があったんだな」
「ふんだ。いつもならやらんです。きょーはとくべつです。勝ってもらわなきゃ、こまるです」
ミカエルが……サクラが、エリーゼが、ボクを見ている。
勝つ、という、期待のまなざし。
そこには迷いも不安もなかった。
まったく……バカな奴らだよ。
相手は兄さんに次ぐ化け。
ボクは凡才。
敵う相手じゃない……。
それでも……。
「行ってくる」
ミカエルの手を、ぱんっ! と叩く。
サクラとエリーゼも手を出してくる。
ボクもそれに答えて、フィールドへと向かう。
『それでは……副將戦をはじめますよぉ。生徒はリングにあがってくださぁい』
うちの學園長のアナウンスがする。
ボク……そして、正面からは、カズマ。
フィールドの中央で、相対する。
「負けないよ」
ボクは、無雙剣を抜く。
炎と氷の剣。
兄さんが創ってくれた……最強の雙剣。
「おまえも力を貸せよ、セイバー」
『無論です、我が主。勝ちましょう』
ボクは雙剣を構える。
カズマは、巨大な両手剣を、片手で持って構える。
から発するオーラに気おされそうになるけど、耐える。
『それではぁ……試合、開始!』
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