《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》157.弟、誰のために戦うか
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転生勇者ユリウスの弟、ガイアス。
彼は思い出す、在りし日の、兄との出來事を。
対抗戦の直前、自宅であるカーライル公爵家の庭にて。
ガイアスは兄ユリウスに剣の一撃を放つ。
『せやぁあああああああああああ!』
目にも止まらない一撃。
だがユリウスはその攻撃をたやすく回避してみせる。
『この! くそ!』
ガイアスの攻撃はしかし、すべて空を切る。
兄はどんな角度から、どんな攻撃をしようと、常に余裕を持って対処していた。
『くそぉお!』
『焦って隙みせたな』
制が崩れたところに、ユリウスが一撃を強めの一撃をれる。
どごん! という大きな音とともにガイアスが吹っ飛んでいく。
『ぐわぁあああああああああああ!』
風に吹かれた木の葉のようにふっとび、カーライル邸宅の壁に激突しかける。
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だが、兄はふわり、と弟を姫様抱っこした。
『うんうん、上出來上出來』
『は、はなせぇ! ばかぁ!』
『はっはっは、いいじゃあないか』
しばらく兄とじゃれ合った後。
模擬戦を終えたカーライル兄弟は、庭に座って休憩を取っていた。
ガイアスの表は暗い。
『まだ、兄さんには勝てないんだね、ボクは……』
兄が転生者としての記憶と力を取り戻したのが、今年の春。
そこから約半年が経過していた。
兄に稽古をつけてもらうようになってから結構日が経つ。
だが、いまいち強くなっている実がない。
『ちゃんと強くなれてるかな……?』
『おうよ、だいじょうぶ! おまえは強いよ!』
兄が笑顔で、自信満々に答える。
だがそれでも、心の中に抱いている悩みが解消されることはない。
『じゃあ……なんでボクは兄さんに勝てないのさ』
負けが続いて拗ねてしまった。
兄は苦笑しながら、くしゃりとガイアスの頭をなでる。
『今はまだ無理かな』
『剣も魔法も、兄さんに及ばないから?』
『ちゃうちゃう。そこじゃあないよ』
ユリウスが微笑みながら弟にかたる。
『おまえは本當にいいセンスしてるよ。この世界、この時代では間違いなく世界最強だ』
『……お世辭でも、うれしいよ』
『違うよ。お世辭じゃない。これは事実だ。俺にはわかる。おまえが、今の時代の勇者なんだよ』
兄は2000年前の勇者ユージーンの生まれ変わり。
かつての勇者だ。
今の勇者は、ガイアスであるという。
『でもな弟よ。おまえに勇者にとって決定的なものがかけている。それがないから勇者とはまだ言えないし、だから俺に勝てない』
兄の瞳はまっすぐガイアスを見ている。
それは弟を見る目であると同時に、先輩勇者として、後輩を導くような、指導者の目つきをしている。
噓偽りはないのだろう。
自分に何かが足りない。
兄にはあって、自分にはないもの。
『わかんないよ、教えてよ』
兄は笑うと、首を橫に振る。
『こればっかりは、自分で気付かないと意味のないことだからなぁ』
結局、兄は何が足りないのか、ガイアスに教えてはくれなかった。
勇者の條件。今のガイアスに足りない力を。
★
ガイアスは対抗戦にて、転生者カズマと相対している。
窮地を前に彼の耳に屆いたのは、義弟ミカエルからの、聲援だった。
「がいあす! がんばるです! がいあすーーーーーーーーーー!」
いつもは、自分のことを嫌っていたミカエルが、ガイアスのために聲を張っている。
ガイアスも、そしてカズマもまたその場でフリーズしてしまった。
「ガイアス君! がんばって!」
ミカエルに続いてエールを送ったのは、彼の同級生、エリーゼだ。
ハーフエルフの彼は兄のことを好いており、ゆえにガイアスは彼のことが嫌いだった。
いつも突っぱねていた、彼もまた……義弟同様に応援してくる。
「気張りぃやガイアス! みんな見てるでぇ!」
同級生にして極東の姫、サクラもまた、全力で応援してくれる。
「ガイアス!」「ガイアス!」「ガイアス!」「ガイアス!」「ガイアス!」
王立學園の代表メンバーたちに化され、客席からはガイアスを応援する聲が無數に立ち上がる。
「どう、して……?」
意味が分からなかった。
自分は兄ではないのだ。
応援されるようなことを、今までしてこなかったはず。
期待されるような剣士ではない。
最強無敵の兄ではなく、なぜ自分に、応援してくれるのだろう。
どうして、期待してくるのだろう。
「……君がうらやましいよ、ガイアス君」
大剣を下して、カズマが小さくつぶやく。
「君は、彼らにとっての、本當の勇者なのだね。……おれと違って」
何を言ってるのだ?
カズマは兄に近い、尋常じゃない力を持っている。
兄が勇者だとしたら、カズマもまた勇者でなければいけない。
しかし彼は、勇者ではないという。
ならば、ガイアスとカズマを分けているものはなんだ?
自分と兄の違いは、なんだ?
「かてるです! がいあす! おめえなら勝てるです!」
「勝って、ガイアス君!」
「ユリウスはんの、うちらの、みんなのために!」
……仲間の聲援を聞いて、ガイアスは唐突に理解する。
みんなのために。
そう、それが、自分に足りていなかったものだ。
「……そうか。そういう、ことだったんだ」
ガイアスはつぶやく。
理解すれば簡単なことだった。
「なにか、つかんだのかな?」
「……ああ」
カズマがガイアスを見下ろし、対話を求めてくる。
絶好のチャンスだというのにとどめを刺さない。
「ボクは今まで、兄さんに勝つことばかり考えてた。兄さんを見返してやりたい、だから力を付けてきた。でも……兄さんに勝ったことは一度もなかったんだ」
ふらつきながらも、ガイアスは立ち上がる。
全だらけ、骨が何本も折れている。
もう、立っていられるだけの力も殘されていない。
霊裝も解除されている。
だが、このに満ち満ちるパワーはなんだ?
「ボクは技量が追い付いてないから兄さんに勝てないんだって思ってた。でも、それは間違いだったんだ」
ガイアスは落ちてる無雙剣を手に取る。
「ボクが、今まで自分のために戦ってきたから、勝てなかったんだ」
いくら強化しても、それは結局自分が勝つための努力である。
一方で兄は、違う。
兄が力をふるう時、それは、いつだって誰かが困っている時だった。
一度だって、彼は利己的な理由では剣を取ったことがない。
誰かのために刃をふるう兄、ユリウス。
兄に追いつきたいがため、剣を手に取る自分。
勝てなくて當然だ。
その剣に込めている、思いが違う。
「ボクは、本當にどうしようもないやつだった。自分の事ばかり考えて、當主になりたいとか、兄を超えたいとか、今思うとちっぽけで、淺はかな理由で強くなろうとしていた」
でも、今は違う。
「今は、勝ちたい。自分のためじゃない。みんなのために!」
ガイアスは今、みんなの思いを背負っている。
みんなのために、剣をもって、敵の前に立っている。
己のためでなく、人のために、巨悪と戦い勇気あるもの。
それすなわち……。
「ボクは勝つ! みんなのために!」
人は彼らを、勇者と呼ぶ。
そのとき。
ガイアスが宣言した途端、彼のが黃金の輝きを放ちだした。
「な、なんだ!? この力は!」
己からあふれ出るこの強過ぎる力にガイアスが戸う。
その一方で、カズマは笑っていた。
「った、のだね。ガイアス君」
カズマは敵であるガイアスに、敬意を表し、彼をこう呼ぶ。
「勇者ガイアスへと」
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