《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》04

シルベ村の南西にタス村はあった。

ガイリーン帝國の侵略によってシルベ村が崩壊したことはすぐに村に伝わった。

「何人かでシルベ村までいくぞ」

タス村の若頭であるエバンは娘のシリカ他數人を連れ、村を出発した。

行く目的は希的観測ではない。たしかに村が殘っていれば良いに越したことはないし、生き殘りがいればそれもまた不幸中の幸いだ。

しかし、伝わってきた話を鑑みると悲慘そのものだろうと予測される。

ゆえに

「冬を越すに必要な資の回収に行く! これまでも関係のあった村だから心苦しいところはあるが、俺たちも生きなければならない」

出発した男たちは資回収のための大きな袋を持ち、エバンとシリカを先頭に歩む。

みな、表が暗い。

見知った顔の者もいた。シルベ村がなければタス村に帝國兵が來ていたかもしれない。そうなると、今から見る景は自分たちも他人事ではない慘狀なのだろう。

が昇りきる前にシルベ村——、があった場所に辿り著いた。

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「こ、これは……」

「……ひどい」

エバン、シリカは絶句した。

家々は全て焼け崩れ、辺りを真っ黒な死累々が埋め盡くす。

後ろを歩いてきた男たちも慘狀を目にし、ある者はその場で嘔吐し、ある者は膝から崩れ、

ある者は自分たちじゃなくて良かったと心の底から安堵した。

「……手分けして、資を探すぞ。シリカも辛いと思うが、これも村のためだ。頼むぞ」

「「……」」

生き殘りなど十中八九いないだろう。

みな、何も言わず頷く。

エバンの指示に従い、各々探索にあたる。

「これが一夜のうちに起きたなんて……」

シリカは周りを見渡しながら歩く。

今年12歳を迎え、まだ人していないが、若頭のエバンの娘ということもあり村の政に既に攜わっている。

髪はばさず、肩の上で切りそろえている。秋に映える麥畑のような金し吊り上がった凜々しい目は、すでに自分を律するだけの覚悟を持っているように見える。早しているが、つきはまだまだ未といったところか。まだらしさに足りない。

「持って帰れるものがほとんど無いわ」

持ってきた袋は、その大きさの半分もあれば足りたかもしれない。

それでも焦げていない木や、整備すれば使える剣、矢を回収する。

一通り探索し終わり、大きくばした。

そこでふと目に留まる。

それは周りと同じように焼け崩れた家だ。

しかしそれは他とは違い、外的に崩壊させられたように山のように積みあがった形であった。

「……なにかある」

それは直観。

なんの拠もなく、希的観測によるものでもない。

シリカは何かに導かれるようにして瓦礫の山へ歩を進める。

瓦礫の山を目の前に、やはり外的なものによる崩壊だと分かった。

木柱が中から砕けるようにして割れている。

いまだ燻っている瓦礫をかき分ける。

生命力を既に失っている木は、払いのける小さな力で簡単に砕け散る。

炭により手を真っ黒にしながらかき分けたその先に、人がいた。

「っ!」

灰によって顔はくすんでいるが、焼け焦げてはいない。

「君! 大丈夫!? 生きてる!?」

必死に聲をかけてみるが、既に遅かったのだろうか。その男の子から反応がない。

男の子の口元に手を當てる。

……息が、ある。かすかだが、今も生死の境だが、生きている。

「……だれか! お父さん! こっちに來て!」

生きてる人を見つけた!

シリカのその言葉は、不気味に靜まり返った死んだ村に響き渡る。

エバンをはじめ、みな手を止め、シリカのもとへ駆け寄ってくる。

「本當か、シリカ!?」

「息がある! 早く助けないとそれこそ死んでしまうわ!」

この狀況下で娘が噓をつく訳がないだろう。

すぐにエバンは男たちに指示をして、男の子の上に被さる瓦礫をどける。

エバンは嫌な予がした。背中を冷や汗が流れる。

「……シリカ。向こうに……、向こうに離れていなさい」

シリカはなぜ、と疑問に思ったが、父がそう言うのなら何か理由があるのだろうと後ろに下がった。

男の子の上に被さる瓦礫を全てどける。

「「……」」

男たちは言葉が出ない。

男の子に、息はある。間違いなく、息はある。

しかしそれはまるで、地獄から現世に帰るために様々なものを犠牲に戻ってきたかのように、——。

「……シリカ。こちらに來てもいいが、覚悟しなさい。そして救い出したお前がこの子の責任を取りなさい」

父エバンの力ない聲に、何かをじ取る。

躊躇した足をかし、男たちの間を抜け、男の子とエバンのもとに著く。

「っ!」

「この子は間違いなく生きている。いや、生き殘ってしまっている。けれど、村の生き殘りもいない中、このでこれからを生きていくのだ。今の時代にこのは酷すぎる。もしかしたら死んでいた方がよかったのかもしれない」

「……」

シリカは肩を震わせ、腳の力が抜け、目からは涙が流れる。

地獄の底から強引に引き上げてしまった自分に、死に逝く男の子を現世に張り付け殘酷な人生を押し付けてしまう自分に、限りない罪悪に責められる。

なんの憂いもないかのように眠っている男の子は、——、左ひざから下と右肩から先を失っていた。

これが、地獄から蘇るエインズと、地獄から救い出してしまったシリカの出會いである。

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