《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》11
エインズは小屋の中を見渡す。
獣の革で作られたソファ、木製の本棚が壁を埋め盡くすように並んでおり、そこには多くの本が並ぶ。
(ここに住んでた人は、相當お金持ちなのかもしれない)
手書きで製本された本は高価なものである。
実際、一冊あたりの金額をエインズは知らないが、タス村には製本された本が一冊しかなく、それがかなり丁寧に保管されていることからその貴重さが覗える。
本棚に前、左右を囲まれ、大きな機が一つある。機の上には雑に置かれた紙が數多く埃を被っていた。
埃の合から、長く人の出りがされていないのだろうと推測される。
そんな大きな機、革製のソファの間にこじんまりと座り、口ドア前で目を輝かすように見回すエインズを不安そうに見上げる三人。
「戻るって、ここで大人たちを待っていたほうがいいんじゃないのか?」
「エバンさんたちはきっと、君たちを見つけ出すまで捜索を止めない。そして夜の森は魔獣がうじゃうじゃ湧いているよ。これじゃ、時間がかかるだけエバンさんたちが食い殺される可能が高くなってしまう」
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君たちの自業自得なのにエバンさんたちが魔獣に食い殺されるのは間違っているよ、とエインズは結んだ。
三人は自分たちが悪いと理解しているのだろう、苦い表を浮かばせながら、
「とは言っても、魔獣がいっぱいいるんだろ? 戻る時に俺たちが食われてしまうじゃないか!」
一人に合わせて、両脇の二人が「そ、そうだ、そうだ」と同調する。
「いや、僕はここまで一人で來たんだよ。何一つ傷を負うこともなく。君たち三人が増えたところで十分魔獣から守れる自信はあるよ」
それに、とエインズは続ける。
「君たちがそんなことを考えられる筋合いはないんだよ。僕はシリカやエバンさんには命を救ってもらった義理がある。だから二人の命の方が優先される」
エインズは左手を三人に向けて開く。
魔法化が済んでいる『アイスエッジ』を無詠唱で展開する。
手のひらから先端が鋭く尖った氷が現れる。
「な、なにを、するつもりだよ、お前っ!」
聲を裏返しながら真ん中の男の子がぶ。
「どうしても僕に付いてこないっていうなら、ここで君たちの頭だけを持ちかえればそれでエバンさん達も諦めが付く。手っ取り早いでしょ?」
それでも救えなかったっていう罪悪は殘るかもしれないけど、それでも二人の命には代えられない。とエインズは一人頷きながら納得している。
「や、やれるもんな——、」
三人の端一人がエインズを煽り始めるが、その男の子の頬の橫をアイスエッジが通り過ぎる。そのままスカンッと軽い音を立てながら本棚の枠に突き刺さる。
遅れて男の子の頬に赤い線が浮かぶ。
零度以下の氷だが、その切り傷は焼けるように熱い。
「次はない」
エインズの目は冷たく三人を映していた。
「わ、わかったよ。お前について、いくよ」
真ん中の男の子がそう言いながら立ち上がる。それに合わせて両端の子も立ち上がる。
「それじゃ、いこうか」
エインズたち四人は小屋を出た。
すると、小屋から一定の距離をあけて、魔獣たちがエインズたちを囲んでいた。
魔獣たちが口々に威嚇する。
取り囲まれた狀況での威嚇。大の大人でも腰が抜けてしまうほどである。
「も、もう終わりだ……」
三人の顔からの気が引いていく。
「いやだから、君たちを守るなんて容易いって言っているじゃないか。略式詠唱『氷地獄(コキュートス)』」
エインズの詠唱により、気溫が急激に下がる。凍える寒さをじた次の瞬間には、取り囲んでいた魔獣たちがきも取れずに氷漬けにされていた。
三人は目の前の景に目を見開く。急に寒くなったと思えば、恐怖そのものであった魔獣たちが一瞬で氷漬けによって死んでいる。これが、魔法。
「お前、役立たず、だったん、じゃないのか?」
一人が頭の中を整理できないままにエインズに聲をかける。
「君たちに役立たずと言われようが何とも思わない。君たちは僕の名前を知らないだろうし、興味もないかもしれないけど、名乗らせてもらうよ」
「僕は、エインズ。今はまだ魔法士だけど、魔師を目指す者だよ。隻眼、隻腳、隻腕の三拍子が揃った役立たずだけど、まあ、それでも、なくとも君たちよりかは役に立つと思うよ」
作った笑顔で三人に振り向く。極寒の氷の世界でエインズの髪は銀に冷たくる。
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