《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》02

「それでも痛いのは嫌だしし抵抗させてもらうよ。——略式詠唱『時計停止(クロックロック)』」

「ほう、魔法士ですか。聞き覚えのない魔法ですが、この間合いでしたら魔法の発現の瞬間には首を切り落とすことも——、」

「いや、それは無理だよ。だって君、剣持ってないじゃないか」

「何を馬鹿なことを言って——、」

は変わらず正眼に構えている。そこから日頃の修練もあり、微だにしていない。

しかし、その手には鞘から抜いたはずの剣がなかった。

「君の剣なら大樹の元に転がっているよ、ほら」

は驚きながらも、隙を見せないよう橫目で自分の剣の在処を確認する。

「……なるほど。侮っていました。それなりの魔法士ということですね。帯剣しているのに魔法士とはなかなか不思議ですが……。剣を失っても手刀をもって処理します。次は僅かな油斷も許しません」

の闘志が跳ね上がる。

これはまずい。火に油を注いでしまったかと男は後悔する。

「わ、わかったよ、もう。なんだか知らないけど、僕の知るタス村はなくなったってことなんだね! わかった、わかった。本當は知り合いの顔を見たかったけど、すぐ出ていくよ!」

男は降參と言わんばかりに、左手を広げて抵抗の意思がない旨を伝える。

は男の発したある単語に反応した。

「……あなた、どうして『タス村』のことを知っているのですか?」

「えっ? いや、今まで森に籠っていたけど長くタス村にお世話になっていたんだし、知ってるよ。ただ、なんだかタス村はもう——、」

は手刀の構えを解き、「……タス村の存在を知っていて、森に籠っていた……?」と、顎に手をやりながら呟いた。

「私もこんなことを予想していなかったので、名前を確認していませんでしたが、……宜しければ、お名前を聞いても」

「ああ、そうだね。いくら村に世話になっていたとしても初対面の人もいるか。僕はエインズ、エインズ=シルベタス。あ、シルベタスは家名じゃないよ」

男——、エインズは「一応、魔師を名乗れるくらいには魔法が得意かな」と苦笑いしながら挨拶をした。

「……森、……タス村、……魔師、……エインズ」

はうわごとのようにぶつぶつと呟いていた。

考え、そして何か結論に行きついたのか、は固まる。

「あ、あの、大丈夫ですか? どこか調でも?」

エインズは心配しながらの肩を軽く叩く。

「ひゃっ、ひゃいっ! だ、だだだいじょうぶです」

は我に戻り、姿勢を正した。

「いや、大丈夫そうには見えないんだけど……。ま、まあ、気が付いたのならよかったよ。それじゃ僕はそろそろお暇させてもらうよ」

エインズは逃げるかのように立ち去ろうとする。

「ちょ、ちょっと待ってください! エインズ様、しお話を!」

「いやでも知り合いもいないことだし、……なんだか怖いし」

の雰囲気が、剣を構えていた時からがらりと変わっているところにエインズは若干の恐怖を覚える。

「怖くないですよー。と、とりあえず一度! 騙されたと思って! 私たちの団長のところに來て頂けたら」

「普通騙されるのは嫌でしょ。まあ、朝食もまだだったし、食事をもらえるなら……」

その言葉には目を輝かせる。

「それはもう、ぜひ! 朝晝晩に間食も合わせて5食お出ししますから!」

は「さあ、早く行きましょう! 気の変わらないうちに」と手招きをする。

「そこまでは別にいいよ。というか、君の名前は? どこかに連れて行くのならせめて名前くらい教えてよ」

「これは申し遅れました。私、サンティア王國アインズ領自治都市、銀雪騎士団所屬のソフィアと申します」

「ええっと、ソフィアさん、でいいのかな?」

「エインズ様、ソフィアと呼び捨てにして頂いて結構でございます」

ソフィアは手から離れ、大樹の元に転がった自分の剣を鞘に納める。

「それじゃ、ソフィア。行こうか、騙されたと思って。僕の朝食がすぐそこに待っている」

エインズはソフィアの案についていった。

短くなりましたので、またお晝頃に次話を挙げます。

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