《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》07

爪や部が金屬のような堅い皮に覆われ、重を乗せた突進と鋭い爪による攻撃が持ち味とされている。全長は平均して3メートルほどあるが、見かけによらず俊敏なきをとる。

魔法士では詠唱途中に距離を一気にめられ爪で切り裂かれるため、剣士と組して対応するのが基本である。

「エインズ様、アーマーベアのきは私が抑えます。その間に魔法を」

剣士にとっても苦戦する相手だ。

固い皮は刺突も剣の刃も防ぎ、業の剣でなければ斬ることが困難な魔獣である。

「ソフィアだけだと対処しきれない?」

「対処はできますが、私の持っている剣ですと、けっこうな手數を要します」

「なるほどね。だったら僕に任せてよ。ソフィアは離れたところから見てて」

そんな馬鹿な、とソフィアは思った。

エインズであれば魔法を用いれば容易に倒せるだろうと心配はしていないが、剣を向けながら、剣士の天敵とも言われるアーマーベアに近づいていく。

「(剣聖クラス、もしくはかなりの業でなければ不可能。それに見た限り、エインズ様の剣は最低限のメンテナンスはされているが、安の域を越えない)」

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しかし忠誠を誓った主君が言うのである。

ここは後ろに退いて見屆けなければならない。

「ご武運を」

ソフィアは後方へ飛ぶ。

「祈るほどの相手ではないけどね」

エインズは、ソフィアが後方に下がったのを確認して「どこからでもどうぞ?」とアーマーベアを剣先で挑発する。

対するアーマーベアの軀は全長5メートルにも及ぶ。百戦錬磨であり、多くの剣士を喰らってきたのだろう。すでにエインズを餌として認識し、涎を垂らしている。

一瞬だった。

ドンッと発的な音がなると同時にアーマーベアの足先で土が抉れる。

単純な瞬発力を以てして、エインズとの距離を無くした。それはすでにアーマーベアの爪が屆く間合い。

右の爪を無造作に橫に振るう。

長く鋭い爪は、アーマーベアの腕の力も合わさり、剣で防ごうとも砕かれてしまう。

エインズの安では結果が見えている。

これまで対してきた剣士の持つ武を見てきたアーマーベアでも振るった瞬間に理解した。

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獲った、と。

剣と一緒にエインズのを両斷するか、両斷できなくとも、次の一振りで獲を仕留められる。問題は後方の。彼の持つ剣は男のよりも能に優れている。あれでは苦戦が強いられるだろう。

アーマーベアの意識は次に向いていた。

しかし、

「意識を逸らすのは心しないな」

ガキイインとぶつかり合う大きな音を鳴らし、アーマーベアの爪が安の剣に防がれる。

後方でソフィアが息をのむ。

アーマーベアも目の前の出來事に驚き、次のきが取れない。

「僕は君の餌じゃないんだよ。考えを改めて、一度出直しな」

エインズは剣を持った細い左腕で、アーマーベアの太い右腕を大きく上に弾くと、右腳を軸に左の義足でアーマーベアの固い腹部を蹴る。

蹴り自は鋭くない。

金屬に軽く木の棒を叩いたような、コツッと軽い音が鳴るだけだ。

しかし、

義足の當たった箇所が5センチほど窪み、勢いよくアーマーベアが後方へ飛んでいく。木をなぎ倒して、地面を何度か転がり止まる。

アーマーベアの口からはがこぼれる。

「エインズ様、これは?」

驚きを隠せないソフィアが後方から聲をかける。

「これはただの魔力作だよ。剣でもない」

の魔力をもって、筋力を増加させる。剣の強度を高める。義足の足先から濃した魔力を単純にぶつけるだけの魔力作。

魔法でもない。

「これくらいなら剣士のソフィアでもできると思うよ」

エインズのステージで考えないでしい、と率直にソフィアは思った。

しかし、これは今まで見たことのない技

魔法士は魔法においてのみ、その力を発揮する。

剣士は剣においてのみ、力を発揮。剣に魔力を複合させるという認識はなかった。むろん、現在前線で驚異的に活躍している剣士や剣神なんかが無意識のうちに同じことをやっている可能はあるが。

「認識は変わったかい? 次は剣も組み合わせて行くから、覚悟してね」

次の瞬間にエインズの闘気が溢れる。

その闘気にやられてアーマーベアはじろぐこともできない。

エインズがゆっくりと前方に傾く。

相手の懐に飛び込む準備姿勢だとソフィアは気づいた。ここからアーマーベアのような発的瞬発力をもって距離をゼロにすると想像した。

しかし、音はなかった。

目で追えるぎりぎりの速さだと思う。だが、自然なきと音を消したきによって、それ以上の速さにじた。ここにおいて魔力による強化は行われていない。

単純な重心移と、足の運び。

次の瞬間にはアーマーベアに剣が屆く位置につく。

焦るアーマーベアは両手の爪10本でエインズのを突き刺すように振りかぶる。

エインズは剣に魔力を纏わせる。

「いくら固い皮だとしても、部分的に弱い箇所もあるはずだよ」

と筋の間の筋のように。

寸分違わずそこに刃を走らせる。

しかしエインズがアーマーベアのを斬っている間に、迫る10本の爪が突き刺さってしまう。

魔獣の右腕と左腕を同時に切り落とす必要があった。

「略式詠唱『同時再演(セイムアクター)』」

を斬りつけるエインズの左腕。その肩の部分から半明な腕が2本出現し、それぞれが半明な剣を持っている。

この魔法は、名の通りエインズのきを「模倣」してく。この「模倣」がどこまでの範囲で模倣されるかでその効果の合が変わる。

単純かつ小さなきであるほど再現度とその効力は高く、複雑かつ大きなき(きなど)であるほど、切れ味が悪くなったりきのキレが再現できなかったりと効果は薄くなる。

3本の腕がアーマーベアを斬った。

両の腕が行く當てもなく地面に切り落とされ、部に深く刀痕が出來る。3箇所から同時に夥しいほどのが撒き散る。

「ガァッ」

うめき聲をあげながら、前に倒れ込む。

その首を橫から一閃れ、頭を切り落とす。

「ざっとこんなじかな」

ソフィアに振り向きながら剣についた糊を振り落とす。

「お、おみごとです」

ソフィアは瞠目していた。

「魔法、魔の顕現には、それに見合ったきや規則を深く知っておく必要がある。剣を知っていなければ『同時再演』の魔法も効果が薄いんだ。だから何においても知っているに越したことはない」

糊を振り払った剣を鞘に納めようとしたが、戦闘の激しさに剣が限界を迎え、刃の半ばからぽっきりと折れてしまった。

「どこかで新しい剣を買わないとな」

そう言って、エインズは何の未練もなく剣とその鞘をその辺に捨てた。

剣への思いれのない所にやはり剣士ではないのだ、とソフィアは認識した。

「さっき大きい音がしたけど、大丈夫!?」

草むらをかき分けて一人の赤髪のが現れる。

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