《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》18

「そういえば、エインズ様。あのを抱えていた年はどうなされたのですか? 私共に合流なさる前に年となにかなさっていたと思いますが。……は助かったのでしょうか?」

その言葉で、ライカの雰囲気もピリッと締まった。

の妹をその小さなで抱え、必死に救いを求めていた年に何の救いの手も差し出せなかったライカにはそれが気がかりだった。

「うん。妹さんはもう大丈夫だよ」

さらっと返すその言葉に噓は含まれていないのだろう。ライカは(ひそか)に安堵した。

「エインズ様が回復魔法をお教えなさったのですか?」

「いや、魔法は教えてないよ。リートは殘念ながら保有魔力総量が極めてなかったからね。あれは初級魔法も使えないほどだよ」

「その年、ええっとリートでしたか。ではリートはどのようにして妹さまを?」

「魔法が使えないから、魔を教えてあげた」

「「っ!?」」

その言葉にソフィアもライカも驚きを表した。

ら二人がイメージする魔とは、エインズのあの謎の右腕だ。

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盜賊たちの心臓をまとめて握りつぶした、あの想像の範疇を超えた力。その力と同様の魔をあの小さな年に教えたというのだ。

二人が驚くのも無理はない。

「リートには魔法の才能はなかったけど、魔の才能はあった。僕はその才能の開花の手助けをしただけ。そこからの魔の構築はあの子の力だよ」

「……あの子の魔っていうのは?」

ライカの聲は若干震えていた。

「『強奪による慈(エナジードレイン)』。他者の同意なしに魔力を奪い、対象者を治癒する魔だよ。魔力を持たないリートならではの魔だね」

エインズは目を閉じ、リートの時のことを思い起こす。

の探求を目的とした旅の中で、リートとの出會いはエインズにとって素晴らしいものだった。

エインズの目の前で、自然の摂理の枠組みから外れて世界に干渉するが構築される。エインズは何度かこの経験をしてきたが、いつ見ても飽きるものではない。

「それは、また恐ろしい魔ですね。同意なしに魔力の強奪が可能だなんて」

ソフィアは思わず息を呑んだ。

「魔というのは、『こうありたい』『こうしたい』という、その者の心の底からの渇だからね」

「だとしたら、リートは魔法士キラーになるってこと? 魔力を奪って無盡蔵に攻撃魔法が使えるんだから」

ライカはリートの『強奪による慈』の魔の恐ろしさをじていた。

「それはどうも出來ないみたいだね。彼の制約がそれを許さないんだよ」

「制約?」

「そう。何の制限もなくそんな強力な魔が使えると思う? 魔は魔法のような自然界の摂理からしているけど、別の制限がかかっているんだよ」

「それが制約ってこと?」

「そう。魔師の唯一の弱點。その制約を破ることは即ち、死を意味する。文字通り死ぬんだよね」

強力な魔を使う魔師の唯一の弱點が、何かしらの『制約』。

「リートは僕の弟子みたいなものだから特別に教えてあげるよ。まあ、教えたところでリートの場合は制約を突かれても直接的に死ぬこともないだろうけど」

馬車の振がそろそろエインズの限界にきたのか、彼は腰をとんとんと叩きながら続けた。

「今後他者に危害を與えることをずる、だってさ。それが制約。だから攻撃魔法を撃つなんてご法度だろうね」

「なるほどね。それだと確かに難しいわね。まあそれでも攻撃と違う分野においては化けには変わりはないけど」

危害を與えない魔法であれば無盡蔵に使える。大量に魔力を消費する超級魔法だろうが発できる。制約をけているとはいえ、あんな小さな年が脅威そのもの、化けに変わってしまったとは信じられない気持ちもあるライカ。

目の前で朗らかに語るエインズもその領域の人間。なんだったら、その化けを生み出した張本人なのだ。

そう認識すると、目の前に座っているだけでライカの背中につーっと一筋の冷や汗が流れる。

(まあそれでも『強奪による慈』で魔力を奪うことは許されているんだから、「危害」というのもどこまでのことを指しているのか。それによっては抜け道も十分に殘されているんだろうな)

口には出さなかったが、エインズはリートの魔にさらなる可能じていた。

あとはリート自がそこに気づけるか。そして、向上心と研鑚をもってその壁を突破できるかどうか。

次にリートを見るときが、制約に殺された亡骸なのか。それとも壁を破った、真に魔師足り得た姿なのか。

小さな年に期待を寄せるエインズは自然と口角が上がった。

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