《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》20

「……おかえりなさいませ、お嬢様」

並ぶメイド達の先頭に立っていた一人が発する。

ライカの後ろから現れたエインズの出で立ちに驚いていたが、そこは職業柄仕える主君の前で言に出してしまうような不手際はしなかった。

「ただいま、リステ。彼らは私と騎士たちの命の恩人よ、失禮のないように」

「畏まりました。どうぞ中へ。當主様をお呼びしますので、ダイニングでお待ちを」

「私と、二人の分も料理をお願い。いたからけっこうお腹減っちゃった」

「畏まりました」

ブランディ家に仕えるメイドのリステは、殘ったメイドにエインズとソフィアの世話の指示を投げ、當主を呼びにそこから離れた。

「すっごいな! ザ・貴族! ってじ。ライカ、お嬢様じゃん!」

開かれたエントランスは広々と無駄な空間ばかりで威厳を示さんばかりの裝飾が施されていた。

床は一面絨毯で覆われており、エインズは心の中でこれまで過ごしてきた森小屋のベッドよりもよく眠れそうだと思い、悲しくなった。

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上を見上げれば相當金がかかっていることが見て分かる巧なガラス細工、支柱からコンソール、腕木まで金で裝飾された大きなシャンデリアが吊るされていた。

シャンデリアから視線を落とし、真っすぐ先には上階に向かう大きな階段。もちろん蹴上から踏面まで絨毯で覆われていた。

「エインズ様、これがこの國の貴族様です。財力にを言わせて、屋敷の絢爛豪華さで他者と張り合う悲しき(さが)を持った一族でございます」

「なるほど!」

「……あなたたち、恩人じゃなかったら不敬罪で即刻牢屋行きだったわよ」

ライカはため息をつきながら、いまだあたりを忙しなく見回すエインズを置きダイニングに向かう。

遅れてメイドに導されながらエインズとソフィアもゆっくりとダイニングへ足を進めた。

中央に大きなテーブルを構えるダイニングに著いた一行はメイドに導されて、それぞれ席に著く。ソフィアは「私はエインズ様のお隣に著きますので」とメイドに斷りをれて、腰を下ろした。

一切汚れが付いていない純白のテーブルクロス。その上に次々に料理が運ばれ、エインズの目の前に置かれていく。

「た、食べていいの? ……というか、これ、どうやって食べるの?」

見るもの全てが初めましてであるエインズ。何となく見覚えがあるといえば、パンと。しかしそれらも、エインズの知る黒パンやただ焼いただけのとは異なっていた。

「エインズ様、ブランディ家ご當主様へのご挨拶がまだでございます。もう々お待ちを」

ソフィアが小さく耳打ちをする。

ライカの格から忘れそうになるが相手は侯爵家である。エインズもソフィアの言葉に手をテーブルの下に隠した。

間もなくしてリステと一緒に細の男がダイニングに勢いよくってきた。

「ライカ、無事か!」

は肩を上下にかし、息を切らしながら話す。

「お父様、この通り私は何ともないわ」

ライカは椅子から腰を上げ、手を橫に開いて怪我がないことを見せる。

「そうか、それは本當によかった……。早馬の報告で、盜賊の徒黨に加え腕の立つ魔師に襲われたと聞いた時には心臓が止まるかと思ったよ」

はライカに強くハグすると、顔や腕、腳を手でり、大事がないことを確認する。

「カンザス様、お客様の前でございます。落ち著いて頂かないと、お二方が困していらっしゃいます」

転している男——カンザスに、靜かに注意を促すリステ。

「お客様? 私は誰も呼んでいないよ?」

そこでカンザスは、席で溢れ出る涎を幾度と飲み込みながら目の前の料理をじっと眺めるエインズと、その橫で靜かに目を閉じて座っているソフィアに気が付いた。

「彼らは? ライカのお客さんかい?」

「はいそうですお父様。彼らは私の命の恩人です。貴重なハイポーションを何本も無償で頂きましたし、敵の魔師を抑え込んだのも彼らになります」

「なんだって? ハイポーションを?」

驚いて二人を見るカンザス。

「エインズにソフィアさん。こっちに來て。紹介するわ」

ライカの呼びかけにソフィアだけが応じた。

ソフィアは目を開き、橫で料理に目を輝かせているエインズの肩を優しく揺すり、立ち上がる。

すぐにエインズも狀況を把握し、後ろから椅子を引いてくれたソフィアに合わせて立ち上がり、カンザスとライカのもとへ向かう。

床は絨毯であるため、義足の獨特な軽い足音は響かない。

カンザスも伊達にサンティア王國の侯爵を務めていない。

義足の左腳に空の右腕という異様な姿に一瞬目を見開いたが、それよりもエインズの纏っている獨特な存在じ取った。

「こちら、髪も長くてのように見えるけど、男のエインズ」

「どうも、エインズです。一応、魔師をやっています」

にも魔師を名乗る人間はないが存在する。しかしその誰もが尊大な態度をとるプライドばかりが大化してしまった間抜けである。

師にはそんな印象しか持っていないカンザスはエインズの下手な態度に驚いた。

「そしてこちらのが、ソフィアさん。あの銀雪騎士団の騎士を務めているのよ」

「初めましてブランディ卿。銀雪騎士団所屬のソフィアと申します」

ソフィアは恭しく頭を下げて挨拶をした。

「……銀雪騎士団、ですか」

「はい、エインズ様の従者をしております」

頭を下げたままソフィアは答える。

カンザスはソフィアの『従者』という言葉に引っ掛かりを覚えた。

銀雪騎士団といえば、魔神と稱される魔師『銀雪のアインズ』を尊び、仕える者である。そんな騎士が騎士団長相手にも使わない『従者』という言葉を用いたのだ。

邪推せずにはいられない。

「……ともあれお二方、娘を救って頂き本當に謝する。本日はどうぞごゆるりとおを休めてほしい!」

カンザスはエインズとソフィア、両者と握手をした後、席へ促した。

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