《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》21

席についたエインズが見たこともない料理に苦戦していたのを確認したカンザスは「マナーなどお気になさらないでくれ」とほほ笑んだ。

「それは助かります。僕、田舎生まれの田舎育ちなもので。こんな豪勢な料理も初めてで、どう食べたらいいのか分からないんですよね」

エインズが苦笑いしながらカンザスに謝する。

「あの右腕を出せばいいじゃない。そうすればもっと食べやすくなるわ」

「いやいや、一応魔なんだよ? ナイフとフォークを持つためだけにって、役不足すぎるよ」

「でも、私は食べやすいと思うけどなー。まあ、食べるのに時間がかかって料理が冷めきってもいいとエインズが思うんなら別にいいかもだけどねー」

悪戯っぽい表でライカは分かりやすくエインズを煽る。

「うぐぐぐ……。こんなご馳走を目の前に背に腹は代えられないか! 限定解除『奇跡の右腕』」

本日三度目の魔行使。

こんなことで魔を使うなんて、とエインズはけなく思った。

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ジャケットの肩に留めた手袋をはめてナイフを握る。両手を使うことで簡単にを切り分けて食べることが出來た。

それだけでエインズはのあまり、先ほどのけなさが一瞬で吹っ飛んだ。

「……これが、世界、か」

極まりながら言葉をらすエインズにライカは楽しそうに笑った。

「……なんだ今のは」

ライカとエインズの楽しそうな空間のすぐ橫で、同じように腰を下ろして食事を始めようとしていたカンザスは目を見開いていた。

「ソフィア殿。エインズ殿のあの右腕は、まさか」

「はい。エインズ様の魔でございます」

「本の、魔師か」

カンザスはここサンティア王國において魔師を自稱する者が真に魔師を意味するものではないことを知っている。

なぜなら、彼も魔を見たことがあるからだ。『魔法』の次元で考えられない、異次元の力の行使。『魔』をその目で見て震えた過去を思い出した。

「……聞き覚えがある。忘れもしない」

『限定解除』。この言葉にカンザスは聞き覚えがあった。忘れもしない、あのがよだつ魔を行使していたも魔の発現前に「限定解除」と発聲していた。

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「……悠久の魔

銀雪のアインズの次に魔に長けた存在と言われ、アインズが消息不明(恐らく死んでいると思われる)となっている現在、當代隨一の魔師。魔神の次席。それが悠久の魔である。

「カンザス様は悠久の魔にお會いしたことがあるのですか?」

「ああ。一度だけだがね」

そうですか、とソフィアはさして興味なさげに返した。

噂程度ではあるが、悠久の魔は銀雪のアインズを嫌っているらしいことはカンザスも知っていた。銀雪騎士団のソフィアからすれば、崇拝している魔師を嫌っている者など好むはずもない。

「エインズ殿、すまない」

カンザスは楽しく食事をしながらライカとの歓談を楽しんでいるエインズに斷りをれる。

「なんでしょう?」

「悠久の魔、という人に心當たりはあるかい?」

「いえ、まったく。魔ということは、その人はですか?」

「そうだね。ソフィア殿くらいの歳の見た目ではあるが、実年齢は分からない」

エインズは切り分けたを口にれ、幸せそうな顔で咀嚼し飲み込むと、

「やっぱり知りませんね。僕が知るなんてソフィアとシリカとライカくらいなものですから。その魔さんがどうかしたんですか?」

「いや、彼も魔を使っていたからね。ひょっとして、エインズ殿の知り合いなのではないかと思ってね」

「ほう、魔をですか。それは興味がありますね。會うことは可能ですか?」

エインズはナイフとフォークを皿に置き、カンザスを見る。

「すまない。私でもそう簡単に紹介できるような人ではなくてね。會ってどうするんだい?」

「エインズは魔の探求を目的に旅をしてるんだって」

ライカが答える。

「魔を?」

「はい。それで、可能なら他の人の魔を見たい。もしくは、お互いにその知識について語らいたく思いまして」

エインズは口の端についていたソースをナプキンでふき取って言う。

「なるほど。そういうことか」

「それでとりあえず王都のここ、キルクに向かって旅を始めたってわけよね」

「ええ。橫のソフィアに聞きまして、キルクに魔學院があるんだとか。是非とも僕もそこで學びたいなとこちらに向かいました」

そこからライカが會話の中心となって、どのようにしてエインズと知り合ったのか、コルベッリとの戦闘においてどのように助けられたのかをカンザスに話した。

ライカはまだ魔法に関して勉強中のであるため、戦闘における描寫については擬音が多く、あまり鮮明な説明とはならなかったが、合間合間でエインズが補足をすることでカンザスも理解することができた。

「それはそれは。なんとエインズ殿は若くして魔法魔にそれだけ長けているとは! とりあえず『次代の明星』の一員であるコルベッリを捕らえて頂いたこと心から謝申し上げる。早速明日に、登城して頂き謁見の場でご説明してもらいたい!」

「あまりそういった作法を知らないもので。無禮を働くかもしれませんが」

エインズは頭をかきながら苦笑いを浮かべる。

橫に座るソフィアはエインズから目配せをけ、靜かに頷くだけだ。エインズの行に自分は付き従うだけだと言わんばかりである。

「それじゃリステ、食後に二人を客間に案してくれ」

カンザスの言葉に後方に控えていたリステは軽く頭を下げた。

「お父様、まずは浴室に案したほうがいいと思うわ。砂埃や汗でが汚れているもの」

「そうだな。では二人が湯に浸かっている間に客間のセッティングをしておこう。ゆっくりと疲れを癒してくれ」

エインズは「どうも、ありがとうございます」と答え、ソフィアは「謝致します」と短く謝の意を伝えた。

そこから四人は雑談に花を開かせた。

エインズからしてみると豪勢な食事は、彼に十分舌鼓を打たせた。カンザスとライカにとっては今日の食事は普段口にするもので、特別何かというわけではないものであるが。

「えっ!? あれで普段の食事なの?」

「はい、そうライカ様が言っていました」

浴室でゆっくり汚れと疲れを洗い流したエインズとソフィアは客間まで先導するメイドの後ろを歩く。

來客用の浴室まであり、男でしっかり別れていたこともありそれぞれの浴室の広さはそれほどなかった。

しかし贅沢に慣れていないエインズは広すぎる浴室は逆に落ち著かないと思っていたため、狹い來客用の浴室の方が十分に気が安らいだ。

エントランスホールで見た大きな階段を登ると、廊下で奧に進んでいく。

ブランディ別邸は1階をダイニングや浴室など生活スペースとして使用されており、2階にカンザスの書斎や応接室、カンザスとライカの私室、そして客間がある。王都キルクにある別邸ということもあり、來客の宿泊が多いことを想定していないため客間の數はない。エインズとソフィアそれぞれに一部屋が與えられると、殘る客間は一部屋だそうだ。

別邸という割にはそれでも広い、と思うエインズであった。

「ソフィア様はこちらになります」

メイドによってドアが開かれた部屋がソフィアに差し出される。

「ではエインズ様。私はこちらで失禮致します」

「うんおやすみ、ソフィア」

ソフィアは「お休みなさい」と答え、部屋に消えていった。

殘るエインズと先導するメイド。

廊下を歩きながら、メイドが気配りを見せる。

「エインズ様、お部屋にワインをお持ち致しましょうか?」

「たしかにが渇いているけど、お酒はまだ飲める歳ではないんだ。水は部屋にあるかな?」

「はい、常溫のものが置いてございます」

「それでいいよ。気持ちだけもらっておくよ」

前で立ち止まり、ドアを開いて頭を下げるメイド。

「ではエインズ様、本日は主共々本當にありがとうございました。ごゆっくりとお休みくださいませ」

「こちらこそ、泊めてもらって助かったとカンザスさんに伝えてもらえるかな」

「承知致しました」

ドアが締められ、客間にエインズが一人になる。

部屋の広さは森で過ごしていた小屋くらいの大きさだろうか。しかし本棚で周囲を覆われていないため、すっきりと広くじた。

エントランスやダイニングに比べると質素なじもするが休息をとるだけの部屋である。それでも上品すぎる。掃除も行き屆いておりベッドは皺一つない。

部屋のテーブルに置いてある水差しからグラスに水を注ぎ、ゆっくりと飲む。

エインズの渇いたに、ゆっくりと水が染みわたる。

空になったグラスをテーブルに置き、エインズは一人では広すぎるベッドに橫になる。

「今日は激な一日だったな。驚き疲れたくらいだ」

真っ白な天井を見ながらぽつりと一人呟くエインズ。

驚きの半分以上が食べだったな、とくすりと笑う。

それでも、見たこともないほどに変わってしまったタス村の姿がエインズにとっては一番の衝撃だった。

ぼんやりと思い返しながら目を閉じると、そのまま睡魔に襲われ眠りについた。

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