《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》25
「その方、名は何という?」
前のめりな姿勢で國王はエインズに尋ねた。
しかしエインズの耳には屆いていない。
「國王陛下がお尋ねになられている! 速やかに答えよ!」
騎士が威圧的に聲を張る。
しかしエインズは広間を観察するばかりで答える素振りはない。
「……エインズ殿」
前方のカンザスがし焦りを見せながら小聲でエインズに話しかける。
「エインズ様」
橫のソフィアもこれはしまずいとエインズに聲をかけたところで、エインズもようやくソフィアが意識下にった。
「うん? ……ああ、僕のことはソフィアに任せるよ。好きなように説明しておいて」
一度ソフィアに向けられた顔はすぐに床に向けられ、指でりながら観察を続けるエインズ。
ソフィア一人に向けた聲量だったが、それは靜まり返る広間には大きすぎた。青筋を立てる騎士、困の表を見せるキリシヤと反対の青年。
カンザスとライカの顔は青白いものに変わってしまっていた。
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玉座に座る國王のみが表を変えない。
「……」
ソフィアもどのように仕える主に応えればよいのか思いあぐねていた。
短い間。しかし國王とエインズを除く周りの者たちからすれば、生きた心地のしない時間が、それはゆっくりと、時間が止まっているのではないかと思うほどにゆっくりと流れているようにじられた。
「ふふふ、ふははは!」
その時間も國王の突然の笑い聲によって斷たれた。
「これほどの不遜な態度、獨特な雰囲気と存在、まるで魔と初めて會った時のようじゃ」
周りの人間とは正反対に笑みを浮かべながら背もたれにを任せた國王は続ける。
「橫の騎士よ。そなたの腰の剣の紋章、何度か見たことがある。銀雪騎士団のものよな」
國王の視線はエインズからソフィアに移り、話しかける。
「はっ! 私は銀雪騎士団所屬のソフィアと申します。この度は國王陛下にお目通りが葉い、恐悅至極にございます」
國王の意識がエインズからソフィアに移り、そしてエインズの先ほどの不敬罪とも取られる態度が見過ごされることになり、カンザスとライカは九死に一生を得たような心地であった。
「そうじゃ。銀雪騎士団じゃ。ガウス団長には何度と助けてもらっておる。そなたがここにいるとはどういうことじゃ?」
「はい。橫にいますは私がこのこの剣を捧げるべき『主君』にございます」
「っ! なるほどのう……」
キリシヤやカンザス、ライカは表を変えなかったが、國王と橫の青年と文は事の重大さに気づいた。
「ではソフィアとやら。コルベッリの一件、説明を聞かせてもらってもよいかの?」
「畏まりました」
そこから語られるはライカとの遭遇からコルベッリ捕縛までの流れとその容。魔法の知識を十分に持っているソフィアの説明に國王や玉座に並ぶ者たちは十分に理解できるものであった。
「……なるほど。それはこの者たちがおらねば、ライカ嬢の命も危うかったかもしれぬのう」
コルベッリが使用した魔法の厄介さ、扱う一つの魔法で鍛えられた侯爵家の騎士隊が崩壊まで追いやられた。『次代の明星』の魔法士の実力には國王といえど、唸るものであった。
「あの、すみません」
突如としてエインズが口を開いた。
「貴様! 口を開くことは許されておらんぞ!」
「騎士長、よい」
鋭い目をした騎士はどうやら騎士長だったようだ。騎士長の怒聲も國王の靜かな言葉でそこで消える。
「なんじゃ、エインズよ」
ソフィアの説明の中でエインズの名前も紹介されていた。
エインズは國王が座る椅子を指刺しながら、
「その玉座に座ってみたいのですが」
と語る。
「「……」」
再度靜まり返る広間。
「……き、貴様。もう我慢ならん!」
顔を真っ赤にした騎士長がエインズの元まで荒々しく歩みを進める。
「やめよ騎士長。エインズは功労者ぞ」
「それとこれは別でございます陛下! こやつは今まさに謀反を示唆する大罪を犯しております! 近衛騎士長としてこの愚行に裁きを與えねばこのダルテ、立つ瀬がございません!」
歩みながら抜剣する騎士長ダルテ。
エインズとの間に割り込むようにソフィアが立ち構える。
「どけ」
「主君をお守り致すのが私の使命にございますれば」
巨大な軀で凄むダルテと、相対して一切怯まないソフィア。
「玉座に座りたいなんて、謀反なんて、正気に戻ってエインズ」
ライカは青白い顔で、必死に聲をかける。
「ん? いや謀反なんてそんな。王様になりたいとかじゃなくてさ。その玉座、というよりこの広間全で構された式に興味があるんだよ」
「玉座の広間が式を構、している?」
エインズとライカのやりとりに國王のみが眉をぴくりとかした。
〇
朝日が差し込むとある王城の一室。
「リーザロッテ様、朝食をお持ち致しました」
ワゴンを押したメイドが扉を開けて中にる。
カラカラと音を立てながら、白いクロスがかけられた大きなダイニングテーブルの前に寄せられる。
「お熱いのでご注意ください」
ワゴンからテーブルに移されるステーキ皿は、激しい音を立たせながらを焼き油が飛び散る。
「ふああ、分かっておるわ」
肩ひもがずり落ちかけているネグリジェをに著けたシルエットはすらりとびる。差し込む朝日にネグリジェからけるその影は、彼の妖艶さをより際立たせた。
をばしながら欠をするは、素足でペタペタとベッドからテーブルまで歩いて、ステーキ皿の前に座る。
メイドはワゴンからスープにパンにと次々並べていく。
外では小鳥の囀(さえず)りが聞こえる清々しい朝に、リーザロッテはゆっくりとナイフとフォークを手に持つ。
慣れた手つきでを切り分けると、重々しく滴る赤を口にれる。
リーザロッテの顔は綻ぶこともなく、若干眉間にしわを寄せながら咀嚼する。
橫に控えるメイドもその景はこれまでに何度も目にしてきたが、慣れることはなく、見ているだけで胃もたれを起こしてしまいそうになる。
「ミレイネ、今日は普段より早いのではないか?」
リーザロッテはを流し込むようにスープを飲んでからメイドのミレイネに尋ねる。
「本日はブランディ侯爵當主、カンザス=ブランディ様が陛下と謁なされる予定とのことです」
「それと妾の早起きと何の関係があるのかしら?」
「ブランディ卿がこの度『次代の明星』の一人、コルベッリをお連れの方と協力して捕縛したとして報告に參られたとのことです」
リーザロッテはゆったりした手つきでパンをちぎり、スープに浸して、
「(はて、ブランディ卿の所の戦力ではコルベッリを撃退するに至らないはずであるが、その連れの者が余程の実力者なのかしら)」
口に放り込む。
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