《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》26

「そのお連れの方は魔を使うそうでして……」

「ああ、そういうこと。まったく人使いが荒くなったものね、ヴァーツラフ坊やも」

鼻で笑いながらリーザロッテはパンくずを落とす。

「リーザロッテ様、國王陛下でございますので、坊やと呼ばれるのは控えて頂けると……」

「妾からすれば坊やもいいところ。何も間違ってはおらぬ」

それから重い手つきではあるが、朝食を食べ終えるとミレイネに皿を下げさせる。

リーザロッテはネグリジェをいでになると、無詠唱で「ウォッシュ」の魔法を発させ、染み付いたの匂いを拭い去る。

クローゼットから真っ赤なドレスを取り出したミレイネはリーザロッテに著付けする。

大きな化粧臺の前に座るリーザロッテの髪を後ろからミレイネがまとめ上げる。

香水を軽くふりかけられた後、ヒールを履く。

「リーザロッテ様、すでに謁は始まっています。お急ぎ頂きたく」

「構わぬ、好きなだけ待たせればよい。ヴァーツラフも妾の貴重な朝の睡眠時間を削ってきたのだ。時間厳守までほざくとは業腹すぎるぞ?」

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カツカツと音を鳴らせて歩くリーザロッテ。彼きに合わせるように部屋の扉を開けるミレイネ。

「さて、広間はどこだったかな? 前に行ったのも隨分と前だったから忘れてしまったわ」

リーザロッテは扇子を広げて口元を隠しながら「まあそんな些事、どうでもよいか」と呟く。

「案いたします、リーザロッテ様」

ミレイネは心今すぐにこの高飛車なの鳩尾に一発喰らわせて肩に擔ぎ、玉座の広間に駆け込みたかった。

しかしリーザロッテはそんなミレイネを知ったことかと、不適な笑みを浮かべながらゆったりと歩を進める。

「ああ、しまった」

突然リーザロッテはわざとらしく聲を上げ、閉じた扇子でパシッと手のひらを叩く。

「……いかがなさいましたか?」

「ミレイネ、おぬし忘れておる」

「なにか?」

嫌な予をしながら答えるミレイネ。

「先ほどワインが出されておらなんだ。いかんぞ、妾はワインを飲まねばならぬ。今すぐ持ってまいれ、妾はここで待っておる」

ミレイネは、このクソが! と摑みかかりそうになる拳をぐっと抑え込み、

「……畏まりました」

と聲を若干震わせながら足早にこの場を去った。

「ふふふ。やはり神が未をいたぶるのは堪らんなぁ」

長い廊下には心底楽しそうに笑うリーザロッテの笑い聲が響く。

程なくしてグラスとボトルを抱えたミレイネが現れるが、

「ボトル一本もここで飲めるわけがないだろう、ミレイネ」

と、「妾はグラス一杯で十分じゃ」とミレイネからグラスを取り、注ぐように目線を送る。

第三者がその様子を見ていたとするならば、ミレイネのボトルを持つ手に力が加わり、ボトルにひび割れが出來てしまうのではないかと気の毒に思うだろう。

注がれた赤ワインを飲み干すと、再びリーザロッテは歩き始める。

「おや? 騒がしいではないか。これはダルテの聲ではないか?」

玉座がある壇上に直接つながる扉の向こうから、ダルテの怒聲が聞こえてくる。

「あやつの忠誠心という面においては、妾であっても本當に帽するほどのものよな」

小馬鹿にするように言うリーザロッテ。

ミレイネは一人、ワインボトルを持ったまま扉を開ける。

「本當にこれは、どういうことなの?」

そこには顔を真っ赤にして抜剣した近衛騎士長がいた。

「玉座の広間が式を構、している?」

エインズとライカのやりとりに國王のみが眉をぴくりとかした。

「うん、僕もこんなにも大がかりなものは初めて見たから好奇心が湧いて仕方がないよ」

玉座に座りたいという発言は悪気があってのものではないと説明するエインズだが、それで納得するダルテではない。

「貴様の好奇心がどうとか、真意がどうとかは問題ではない! 謀反を示唆する容を発言するに至った貴様の、王國への、陛下への忠誠心が問題なのだ! 『次代の明星』然り、魔師を騙る者たちは皆ふざけた者ばかりよ!」

荒々しく語るダルテの凄みは増していく。

「忠誠? そこに並ぶ人らが偉いというのは、その雰囲気でよく分かるよ。ただここは僕も引けない」

そこで立ち上がるエインズ。

膝をついていたことで見えなかった、その風貌がわになる。

空の右腕に左腳の義足。右の白濁した瞳は何も映していない。

にこれだけのハンデを背負っている者に負けるはずがない、とダルテは思った。

「僕がくのは魔や魔法のためだ。忠誠を誓うのであれば、魔法魔の在り方に対してであって、斷じて國ではない」

エインズは間に立つソフィアの肩を叩き、橫にずれるよう指示する。

ソフィアの「意」という小さな聲を殘し、エインズとダルテが至近距離で直接向かい合う形となった。

「ここでそれを証明してもいいよ。ほら、剣の間合いだろう? どうした?」

その言葉をもって、ダルテが剣を振ろうとした時だった。

「やめておけ、ダルテ」

の聲が広間に響く。

ダルテの腕もの言葉できを止める。

「貴様の適う相手ではないよ、ダルテ。控えよ」

「……リーザロッテ様。あなた様と言えど、近衛騎士長としてここは——」

「くどい。控えろダルテ」

有無を言わせぬその雰囲気にダルテも黙って、剣を鞘に戻す。

「遅いではないか、リーザロッテ」

「ヴァーツラフ。妾を使い走りにするとは偉くなったではないか」

聲をかけてきたヴァーツラフ國王に愚癡をこぼし、リーザロッテはエインズを見る。

「……ふんっ、気に食わん顔を久しぶりに見てしまった。ヴァーツラフ、この貸しは大きいぞ」

國王を橫目にそう語ると、リーザロッテの纏う魔力が発的に高まる。

視線を向けられるエインズ。

「エインズ……」

ライカの心配するような聲。

周りの人間もこの狀況を、固唾を呑んで見守るしかない。

しかしエインズはこれまで見せなかった獰猛な笑みを浮かばせる。

「君が相手になってくれるのかい? 期待できそうだ!」

「限定解除『奇跡の右腕』」

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