広間の橫にある控室に集まる四人は、ヴァーツラフ國王、青年、キリシヤ王、文である。

「よろしいのですか、父上」

ヴァーツラフ國王に語りかけるのは、先ほどの場で一言も発言をしなかった青年。

「なにがじゃ、ハーラル」

青年、ハーラル第一王子は続けた。

「アインズ領のことでございます。後見の折衝を許すなどと」

「よいのじゃ。折衝を許したからといって、功するとは限らんであろう」

その言葉に文も靜かに頷く。

「何を言うのですか。ブランディ領とアインズ領は隣接しています。好待遇を保障した渉を進めればブランディ卿の考える結果に至る可能は十分にあります！」

ブランディ領とアインズ領が協力関係になるとどう変わるのか、ハーラルは続ける。

「アインズ領の魔法による軍事力並びに生活文化は脅威そのものです。これまで他領地に対して基本的に閉鎖的でありましたから國がれることはありませんでしたが」

ブランディ家はサンティア王國における古參の貴族である。その歴史的にも文化的にも統制が十分に取れた領地や市民、これにアインズ領の技が組み合わされれば、カンザスの國における発言力はヴァーツラフ國王にも屆きうるものになる。

「エリオット宰相までなぜそんなに楽観的なのだ！」

ハーラルが視線を向けた先のふくよかな格をした文、エリオット宰相は口を開く。

「ハーラル王子、アインズ領はそのり立ちからして特殊なのです。だからこそ、これまで閉鎖的な外をしてきたのです」

そこからエリオットは、王國の中樞にいる者しか知り得ない、アインズ領における信奉と自治都市とり得たその歴史を語った。

「だからこそブランディ卿が折衝したとしてもアインズ領の閉鎖的姿勢は変わらない、と？　このことを卿は知っているのか？」

「はい、そのはずですハーラル王子。なので私があの場で引っ掛かったといえば、その點のみ。ブランディ卿でもその背景を知っていますから、なぜ褒賞をもっと政治的効果のあるタイミングに使わなかったのか」

サンティア王國の宰相として君臨しているエリオットをしても理解できないカンザスの言。だが、これによって王國としても領地や金銭を放出する必要もなくなったので助かったとエリオットは考えた。

「そんな楽観的な結末に帰結すればよいが……」

ハーラルは不安を拭えない。

カンザスの広間での立ち居振る舞いや魔師にむける目。それらがハーラルに警鐘を鳴らす。

「聡くなったな、ハーラルよ」

待合室の扉が開かれ、真っ赤なドレスをに纏った妖艶な、リーザロッテがってくる。

「リーザロッテ閣下、ノックぐらいは……」

「煩いぞ、エリオット。そのくらいヴァーツラフは許すはずだ。であろう？」

エリオットの注意をけ流しながら、手に持ったグラスを軽く揺らすリーザロッテ。

どこか諦観したミレイネがグラスにワインボトルを傾ける。

「リーザロッテ様、先ほどは挨拶もできず、申し訳ない」

ハーラルは軽く頭を下げる。

リーザロッテは「よいよい」と制してからワインをに流した。

「何をしに來たんじゃ、リーザロッテ。小言はもうし後にしてくれ。まだ長時間ぐちぐち言われる覚悟がついとらん」

冗談じりな口ぶりのヴァーツラフに対し、リーザロッテは、

「何を呑気なことを言っておる。事は劇的にき出したのだぞ？」

「どういうことです、閣下」

「ふむ。……キリシヤはカンザスの娘と懇意にしておったな？」

リーザロッテはここまでの會話に參加していなかったキリシヤに聲をかけた。

「ご機嫌麗しゅう、リーザロッテ様。はい、そうでございます。學試験を通過できれば、今後ライカさんとは魔學院の同級生になると思います」

「そうよな。であるならばキリシヤ、この場から離れよ」

「どうしてでしょうかリーザロッテ様？」

「この後の話をそなたが聞くことを妾が許さん。それだけのことよ。よいな？」

有無を言わせずワインを飲むリーザロッテ。

「……分かりました。わたくしはここで下がらせていただきます」

「ミレイネ、ボトルを置いて、そなたももう下がってよい」

「畏まりました」

どこか嬉しそうなミレイネとキリシヤが部屋から出ていき、靜かになる。

「リーザロッテよ、なぜ娘を外させたのじゃ？」

「ふん、聞けば學院での生活に影響を與える。あやつには政治の世界にってほしくないのだろう？　ヴァーツラフ」

「……うむ」

それとこれが何に繋がるのか。

ヴァーツラフは頷くだけに留めた。

「さて、結論から語ろう。貴様らはこれから激の時代を治めることになる」

「どういうことじゃ」

「カンザスのは本當に食えん奴よ。妾にエインズの事を語らせなんだ」

「エインズというのは、先の魔師であったな。あやつがどうしたのじゃ」

そういえばリーザロッテとの會話の最中にカンザスが多の強引さを見せながら、挨拶を投げてきた場面があったことをヴァーツラフは思い出した。

「やつはエインズ。自らをエインズ＝シルベタスと名乗っている」

グラスを回し、揺らめくワインを見つめながらリーザロッテが語る。

「そなたらはこの名を知らんだろうが、別の読み方なら知っているだろう。魔神と稱され、『銀雪の魔師』にして『原典』の著者であるアインズ＝シルバータ」

「ま、まさか！！」

聲を上げたのはハーラルだった。

「妾も深く語りたくなかったから言わなかったが、アインズ＝シルバータという読み方は誤りだ。正式にはエインズ＝シルベタスと読む」

ここまで話し、ヴァーツラフは勢いよく立ち上がる。

「森に閉じ込めておった憎き我が師、魔神エインズが顕現したのだ」

リーザロッテの持つワインはひとりでに蒸発し、グラスはまるで生気を失った草木のように、朽ち果てるようにして崩れ去った。

「魔法・魔の黎明期を迎え、激の時代に突するわ。覚悟することだ、やつは良くも悪くも魔神。らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだが、目覚めた神ほど厄介なものはなかろうて」

リーザロッテの言葉によってこの時、この場所で一つの時代が終わりを告げた。

閲読頂きましてありがとうございました。

ここまでで第２章とさせて頂きます。プロローグ的な意味を込めて展開した第１章に続いて、語によりきを持たせるよう心掛けて書き始めた第２章。

初出報や設定等の説明がどうしても生まれてしまったため、どうなのでしょうか。読んでくださっている最中に退屈を覚えさせてしまっていないか不安でございました。

しかしながら、大変嬉しいことにご想や評価も頂戴しまして、モチベーション高く執筆を行うことが出來ました。ありがとうございます。

文才の無い自分は、文章力はどうにもならないので常に誤字字と言葉の使い方だけは注意を払っております。しかし殘念ながら確認れもございます。お気づきになられた際は、お教え頂けると大変助かります。

ここまでで一度完結とさせて頂きます。というのも、ストックが消失してしまっており、これまでのペースで執筆出來なくなりました……。なのでストックを蓄えたいと考えています。

お付き合い下さり、ありがとうございました。ストックをひっさげて、再び戻ってきます！　今後とも応援よろしくお願いします。

２０２１年１２月現在、

『隻眼・隻腕・隻腳の魔師』シリーズ

２作目「隻眼・隻腕・隻腳の魔師～聖は語らない～」連載中です。

（https://ncode.syosetu.com/n7497hi/）