《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》02

窓から見える空は雲一つない青空で、それだけで気な気分になる。

エインズは散歩したい気持ちをぐっと抑え込み、庭の方へ向かった。

何の益も生み出していないエインズがすれ違っても、ここのメイド達は掃除などの作を一旦止めて頭を深々と下げる。

「きょ、今日はしっかりライカの様子を見るので!」

エインズなりの自分も役に立つというアピールなのだろう。

別に何も訊いていないメイドは「いってらっしゃいませ」と答えるだけだった。

それからもメイドを見かける度に足早に通り過ぎるエインズ。気が付けば駆け足になっており、あっという間に庭についた。

木剣だろう。カンっと軽い音が幾度と辺りに響く。

剣の屆く間合いまで詰め寄り、上段からの基本的な振りを繰り出すライカ。

それをソフィアは軽くいなし、橫に振るう。

上段から剣を振るったライカの橫はがら空きで、剣を片手持ちにしてソフィアの剣撃をける。

しかしける勢が良くない。剣先まで力が通ったソフィアの一振りを完全に防ぐことが適わず、ライカの手から素樸な木剣がこぼれた。

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「上段からの一振りは大分と良くなりました。しかし、両手持ちのその振りはその後に決定的な隙を見せてしまいます」

ソフィアは膝をついて息を整えているライカに語る。

「そのため、相手がけの勢を十分に取れる際に使用することはおすすめしません。今のようにけ流されてしまえばその後の結果は火を見るよりも明らか」

ソフィアは「無論、力押しの剣士であれば同じ結果とはなりませんが」と語りながら芝の上に転がった木剣を拾う。

「も、もう一回しましょう!」

ライカはソフィアから木剣をけ取り、それを支えにして立ち上がる。

「いいえ、とりあえず一旦休みましょう。基礎の型が完全にに染み付いていない今のライカ様では、逆に変な癖を殘してしまうことになります」

「……ソフィアさんが言うのならそうなんでしょうね」

立ち上がったライカの靴やパンツにはいくつもの汚れや芝が付いているのに対し、ソフィアの下半には一切それがない。

ソフィアの周囲には踏み荒らした形跡もないことから、ソフィアはその場から一歩もかずにライカを封じ込めたことが伺えた。

「二人とも熱がっていたね」

そんな中、エインズの場違いなほどに軽い聲が二人の間に割り込む。

「これはエインズ様。おはようございます」

すぐにソフィアは剣を下げ、頭を下げながら挨拶をする。

「おはよう。さすがは騎士だね。ライカへのアドバイスも理にかなった適切なものだ」

エインズは腕を組みながら、深く「うんうん」と頷く。

「はぁ、はぁ。……あらエインズ、今日は散歩しないのかしら?」

「きょ、今日はちょっと控えておこうかな、と」

「へぇ。本當はバツが悪くなっただけなんじゃないの?」

「うぐっ」

服の袖で流れる汗を拭きながらライカは意地悪な顔でエインズを見る。

「ち、違うさ! 僕も剣を嗜むから、ライカに剣とは何たるかをだね——」

「帯剣もしてない人が剣を、なんだって? ……まあ、うちのメイドの目が怖くなったんでしょ? 『あのエインズって子、碌な大人にならないでしょうね』ってでみんな——、」

「そ、そんなこと言われてるの!?」

焦ったようにエインズはライカに言葉を被せる。

「——言ってなくても思っているかもねー。なくともわたしはそう思うもの」

ぐはっ、と分かりやすくライカの言葉が突き刺さるエインズ。

「ライカ様、それはまるでエインズ様がただ無為にここ數日を過ごされていたような言い様ですね。エインズ様はもっと高尚な方です。日々の中で魔法魔の発展に繋がるきっかけを見出しているのです!」

そうですよね、エインズ様! と得意顔でエインズに顔を向けるソフィア。

「やめて……。勘弁して、ソフィア。それは追い打ちだよ」

肩を落としながら呟くエインズにソフィアは首を傾げた。

「まあでも、アーマーベアを斬り伏せるほどの剣の腕前なんだもんね。ちょっと興味あるし教わろうかしら」

「このエインズに任せなさい!」

エインズはをどんと叩く。

「でもが疲れているから休ませないとだめだからなー。そうでしょ? ソフィアさん?」

「はい。剣は振れば良いものではありません」

ソフィアの言葉にライカは「だってさエインズ。あー、わたしもエインズから剣の何たるかを教われなくて殘念だわー」と、わざとらしい演技をしながらにやりと笑う。

「うぐぐぐ……。ソフィア、だめだよ! ここで僕が役に立つところを、せめてここのメイドの皆さんに見せないと! パンくずをテーブルクロスに落とさず食べることも出來ない碌でもないやつだと、本當に口を叩かれてしまうよ!」

「さすがにそんな細かい口は言わないわよ。でも自覚はあったのね、食後のテーブル上の汚れ様。わざとそうしているのかと思っていたわ」

「エインズ様は男らしくパンを食べているだけです! パンがそれについていけていないだけで、悪いのはパンの方でございます!」

「ソフィアさん、さすがにそれは無理すぎるわ」

仕えているとはいえエインズに対して甘すぎるのでは、とライカは肩をすくめた。

「ではエインズ様。私にご指導して頂いてもよろしいでしょうか? アーマーベアと打ち合っていた際にお話しになった魔力作の併用を」

「ああ、あれか。いいよ」

エインズはライカのもとに寄り、木剣をけ取る。

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