「魔力作？　剣を振りながら魔法でも使うの？」

ライカが尋ねる。

「いや違うよ。ライカにはまだ早いかもだけど、知識として聞いておいてよ。きっと為になるよ」

剣を左手に持ち、エインズはソフィアからいくらか距離を取って相対する。

「どこから話そうかな。……ライカ、魔法ってどうやって使うんだっけ？」

ライカはそばに控えていたリステに椅子を持ってこさせ、そこに座る。

「の魔力をり、外に出す。詠唱やイメージが魔力に道筋を與えることによって様々な形や質をもって発現する、……んだっけ？」

「そうだね。よく覚えている。魔法適とは厳に言えば、る魔力総量の大小が要因の一つ。そして、外に魔力を発する魔力作、詠唱などを用いて外に打ち出す魔力に魔法たらしめる道筋を描けるか、この三點だ」

「はい。私はその魔力作と詠唱の度がネックとなって魔法が使えません」

ソフィアは剣を握っていない方の手で覚を確かめながら答える。

「魔力総量は先天的な要素が大きい。もちろん、の長に合わせて後天的に増加することもあるが、劇的に変わることはない。詠唱などによるイメージの増幅は努力すれば何とかなる。だけど、魔力作はセンスによるところが大きい」

エインズはこう言っている。

魔法とは先天的な能力とセンス、そして努力の三つが合わさって初めて使える代であると。

「だけどソフィア、魔力作はさらに細分化されるんだよ。での作なのか、外への作なのかの二つに」

「と外……」

「そして作に関しては簡単だ。多コツは必要だけど、意識的にの魔力をじることから始めればなんてことはない」

エインズは木剣を地面に突き刺し、中指に嵌めた指によってアイテムボックスを展開させる。そこからポーションを取り出し、ソフィアに見せる。

「このポーションをソフィアも使ったんだよね？　傷が癒える時に、何かじなかった？」

「はい。のから込み上げてくる何かをじました」

「それが魔力だよ。これは、魔力を活化・増幅させるポーション。付隨的な効果として傷が癒える代だ。その覚を思い出してごらん？」

ソフィアは目を閉じ、意識をに向ける。

今はポーションによる魔力が活化していないため、慣れていないソフィアでは集中しなければをめぐる魔力をじ取ることが出來ない。

一分もかからずして、

「なんとなくではありますが、それらしきものはじました」

「一度じ取れれば作は簡単だよ。そして、ソフィアの場合はもうここまで行きつけばほとんど魔力作による強化はったのも同然だよ」

手に持ったポーションを再びアイテムボックスにしまうエインズ。

「待ってよエインズ。それだったらわたしも出來るわよ？　魔法も使えるし、作だってマスターしているわ」

腰掛けているライカがエインズに「それなのにどうしてわたしの場合はまだ早いのよ？」と問いかけた。

「それはのかし方を完全に把握していないからだよ」

「かし方？」

思わず首を傾げるライカ。

「たとえばライカ。目を閉じて両腕を橫に広げて、肩の高さで地面と平行を保ってみて？」

エインズが何を言わんとしているのか理解できないライカだが、言われたように目を閉じて腕を広げた。

「リステさん。ライカの腕はどうですか？」

エインズはライカの橫で見守っていたリステに尋ねる。

「そうですね、右腕が肩の高さよりも下がっています。逆に左腕は肩よりも若干高いですね」

「え？　本當に？」

ライカは目を開けて、自分の腕を見る。

「……よく分からないわね」

腕の高さなど第三者目線でなければ正確に分からないものである。

「これが答えの一つ」

ライカとソフィア、黙してエインズを見つめる二人に続けて語る。

「イメージと実際のきではどうしてもそこに誤差が生まれてしまう。今の簡単な作でも誤差は生じる。より複雑なきになれば尚更だね」

「はい。私でも剣を振るう際にわずかですがイメージとの誤差は生じているはずです」

ソフィアもエインズの言葉に同意する。

「練した剣士はその絶え間ない修練の先に、イメージと実際のきの間に生じる乖離を極限にまで無くす。それでも拭い去れない誤差は、」

「剣の振りであれば、全て把握しております」

エインズの言葉にソフィアは続けて結ぶ。

だからこそ、怒濤の勢いで展開が変化していく剣戟の中で剣を自分のの一部のように自由自在に振るえているのだ。

「そしてもう一つ」

エインズは重ねてライカに尋ねる。

「剣を上方に振り上げてから振り下げる時、使う筋はどこだい？」

「なんでそんなこと？　そんなの簡単よ。腕の筋、腕力でしょ？」

ライカの答えを予想していたように、エインズは靜かに首を橫に振る。

「それは正解には程遠い。ソフィア？」

「はい。全の筋を使います」

「そう、これが正解。簡単に例を出してみようか。剣がよりも前に出ている時は當然重心が前へ傾く。それを支えるには背中の筋、背筋を使用する」

エインズは続ける。

「一つの小さなきでも全の筋をかしているんだよ。だからこそ魔力をもって強化をする時にはのきを把握していなければ、一箇所を強化したところで、他方に負荷がかかり、崩壊してしまう」

だからこそ、合理を追求した一振りをモノにし、なおかつ筋のきを把握している練した剣士は強化がせるのだ。

「そういうことですか」

「よく分からないけど、いま分かっていないってことが私には強化がまだ早いってことなんでしょうね」

完全に消化しきったわけではないが、ライカもとりあえず納得はした。

「さあソフィア、強化を駆使してかかってきなよ。僕も使うから心配無用だよ」

突き刺していた木剣を抜いて構えるエインズ。