《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》05
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王都キルクは人口が多いが故に、煩雑な街作りにはなっていない。
キルクの北に王城がそびえ立ち、東は文貴族と魔法士や騎士を含めた武貴族の邸宅が並ぶ居住區。西には商業區。
商業區で複雑にの売買が行われるのではなく、言わば卸売りが行われる街區である。それが故にいくつもの共同住宅が建っており、多くの商人がここで暮らしている。有力な者になれば、商業區で邸宅を構える者もいるがその數はごくわずかだ。
商業區で取引された商品は、エインズたちがキルクにった際に人でごった返していたキルクの中央で小売業者によって販売される。
人で賑わいを見せていたのはこのためである。南方から中央までのこの広い街區は一般街區と呼ばれており、貴族も商人も集まるこの街區の雰囲気を見ればサンティア王國の勢がある程度分かってくる。
この街の作りは一般市民にも良い影響をもたらす。一般街區で國の勢が分かるとなれば、サンティア王國の繁栄を誇示したい王族貴族は一般街區の大多數を占める一般市民に向けられた良い政策をしなければならない。
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長い年月繁栄してきたサンティア王國のその幹は王族でも貴族でも商人でもなく、王都キルクの街そのものにある。
キルクの北東部、王城と居住區の間に魔學院がある。
とはいえ、権力者の子息令嬢しか通うことが出來ないのかと言われるとそういうわけでもない。平等を謳うことは國の繁栄にも繋がる。もちろん貴族以上とそれ以下で管理上區別されるが、商人でも一般市民であっても門を叩く資格はある。
「踏み込みが甘いです。剣を振るうにあたって、腕だけでなく全のきに意識を向けて下さい」
ブランディ侯爵家の一人娘、ライカ=ブランディは今まさに學試験に向けて最終調整をしているところだ。
ライカの父、カンザス=ブランディも人並み以上の剣と魔法を扱える。しかしそれは、本人曰く秀才の領域での腕前とのことだそうだ。
剣を専門としている騎士のソフィアの方がその造詣は深い。魔法においては魔師エインズの足元にも及ばない。
エインズとソフィアがブランディ別邸に滯在することになり、ブランディ家はライカの剣と魔法の優れた講師という大きなメリットを得たのだ。
「詠唱というのは魔法を発現させる手段の一つでしかないんだよ。手段は目的にはならない。詠唱を覚えるという愚行に慣れてしまえば実力も魔法使い程度で収まってしまうよ?」
魔法の一般的な勉強方法は、『原典』の副本の読解と魔法を撃つだけの反復練習である。しかし、エインズのアドバイスはこれとは異なっていた。
エインズの教えは、魔法の腕を一朝一夕で上達させるものではない。しかし、魔法と詠唱という手段の関係を正確に把握することは今後のライカの魔法士としての人生を大きく左右するものとなる。
朝にソフィアと共に剣に勵み、晝食を挾んでエインズに魔法を見てもらう。夕食を早めに取り、夜はしっかり休息を取る。
疲れを翌日に殘さないことと、人前の12歳であるライカの長を効果的に促すためである。
その他の教養関係については侯爵家ということもあり、い頃から厳しくカンザスやリステから教え込まれてきているため問題はない。
そんな、全てが魔學院への學試験に向けた日々を送ること二週間。
翌日に試験を控えたブランディ家の夕食の場。
「エインズ殿、ソフィア殿。娘は合格しそうでしょうか?」
侯爵といえども人の親。
それも一人娘のこととなれば心配も尚更である。
「試験に魔法の使用もあるとのことですけど、正直僕はその辺分かりません。魔學院の魔法のレベルがどんなものかも知りませんし」
パンくずをテーブルクロスに落とさないよう神経質に食べるエインズ。
よほどライカのパンくずのいじりが効いていたのだろう。
「剣に関しては騎士にはまだまだ及ばないですが、剣試験がネックとなり不合格となることはないでしょう」
ソフィアも魔學院における剣のレベルは知らない。
それでも二人のライカに対する評価は悪くはない。
「ライカ、自分ではどうなんだ? その、なんというか……」
はっきりしない口調で尋ねるカンザス。
「お父様、大丈夫よ。絶対に合格するから」
「そ、そうだね。信じているよ」
學試験を目の前にした親子の會話にエインズが割ってる。
「あの、それで僕は魔學院に行けるんですか? どうやら學試験を通過しないといけないようですが?」
「それなんだがエインズ殿、すまない。試験をけるにあたって申込が必要なんだが、エインズ殿がキルクに來られる前に期日を迎えてしまっていて」
「えっ!? それじゃ、れないんですか?」
これでは當初の目的を達できず、ただ王都の観を楽しんでいただけになってしまう。
「學院の生徒としては不可能なんだが、ライカの従者としてなら可能なんだよ」
カンザスの話を聞くに、一定爵位以上の子息令嬢には従者を連れての學院生活が認められているそうだ。
高貴な家柄ゆえにトラブルに巻き込まれることが多いからである。これが魔學院における一般市民と貴族との區別の一つである。
「従者は一人しか付けられないんだが、その枠でなら魔學院にることができますので」
「行けるなら別になんでもいいですよ」
學院にれるのであればその形式にこだわらないエインズ。
「従者なんだからエインズ、わたしのの回りの世話をしなさいよ?」
にやにやしながら話しかけてくるライカ。
「任せなさい! 魔法の知識のためなら喜んで靴の汚れを舐め落としてみせよう!」
「……いや、さすがにそこまでの要求はしないわよ」
エインズの斜め上の回答に返って怯んでしまうライカ。
そんなエインズとライカの橫から、
「エインズ様。私はどのようにお供したらよろしいでしょうか?」
「ええっと、カンザスさん。従者の従者っていうのは……?」
「うん、無理だね」
考える間もなく否定するカンザス。
「どうしましょう……。困りました」
この問題をどのように解決しようか考え込むソフィアを見て、エインズとライカは顔を見合わせる。
「どうしましょうってそれは、」
「どうするもなにも、」
「「留守番しかないでしょ」」
二人は口を揃えてソフィアに返す。
「そんな、私をおいて! エインズ様!」
必死に訴えるが、カンザス、ライカ、そしてエインズの三人が靜かに首を振り、ソフィアはがっくりと肩を落とすのであった。
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