「リーザロッテ様がですか！？　それはそれは。近くお手合わせをさせて頂きたいものです」

「機會がありましたら。……リーザロッテ様というのは、広間の時の真っ赤なドレスのですか？」

玉座の広間にいた人でそれらしき人を挙げるエインズ。

「そうですね。詳しくは私も父から聞いていませんが、父の相談役といったところでしょうか」

「にしては、陛下がリーザロッテ様に頭が上がらないようなじも致しますが」

「リーザロッテ様はああいうお方なのです。高圧的に思われがちですが、その実、お優しいお方なのですよ」

だがセイデルは「しかしながら私では目を合わせることもままなりません」と首を橫に振る。

「エインズさんも學院の試験でこちらに？」

「いいえ殘念ながら。僕は試験の申込が出來ませんでしたから」

エインズの返答にキリシヤは「ではなぜ？」と疑問にじた。

「エインズはわたしの従者としてここにやってきたの。どうしても學院が見たいって言うからお父様がなんとか策を講じてくれたのよ」

それからライカとキリシヤが試験の自信はどうか、張しているかなど雑談をしていると魔學院の教師だろうか、男二人が四人のいる會場にやってきた。

男教諭は手に持った魔道を口に當て、集まる験者に向けて口を開く。

「定刻になったのでこれより、キルク魔學院の試験を開始します。まずは皆さん、前方にございます座席に著席してください」

試験會場がいくつかに分けられているとしてもこのブロックに集まる験者の數は優に百人を超えていた。

その集まる各々が口を開きざわめく會場に男教諭の聲がそのまま屆く訳はない。

しかしその問題を手に持った魔道が解決していた。効果としては聲の拡張。簡単な魔道の一つ、拡聲。

男教諭の言葉に年の皆が前方の座席に目をやる。

「まずは筆記試験になります。機の端に験番號が振ってありますので著席して下さい。一部の験者には従者がついておられるかと思いますが、その方への待機席も用意してありますのでそちらに移をお願いします」

本來であれば學院の館で筆記試験をするべきであるが、殘念なことに莫大な験者數に対して席が足りないのだ。それも、何人に対しても魔學院の門戸を開いているからである。

そのため天候によってこれまで何度か筆記試験が延期されたこともあるが、これはまた別の話。

皆、ぞろぞろと自分の番號の席に向かって歩き出す。

「それじゃエインズ、行ってくるわね」

「うん、がんばってね」

ライカは小さく頷き返してから座席へ向かっていった。

その橫でキリシヤと従者のセイデルが同じように言葉をわしていた。そしてライカと一緒に座席へ向かっていく。

「それでは私どもも移しましょうか、エインズ殿」

ライカやキリシヤの他にも従者を連れていた験者がいたようだ。座席の方へ向かわない者が何人もおり、その中にはセイデルのように燕尾服を著た者もいれば、メイド、ローブを纏っている者も居た。

彼らは待機席と言われていた場所へと靜かに歩き出していた。

セイデルもそうだが、従者の彼らもこれが初めてではないのだろう、慣れたじで席に座った。

従者が集まる中でもエインズは浮いていた。

「従者になるということは、それは高い爵位を持つ貴族と同じ品と振舞いを強いられることを意味します」

エインズの落ち著かない顔を見たセイデルが靜かに語る。

「しかし、中にはそのような品を持ち合わせていない輩もいますが……」

椅子に靜かに座る従者の面々の中に、一人だけ崩した姿勢でぞんざいに座る男がいた。

「もっとクッションのある椅子はないのかよ！　俺はダリアス＝ソビ様の従者だぞ！」

喚く男。

その矛先は試験を監督する學院の職員に向かっている。

彼の言は有名なようで周りの他の従者は辟易した表をしたいた。

「あの人は？」

エインズは男を見ながら小聲でセイデルに尋ねる。

「彼の名はタリッジ。ソビ家に仕えている者です。まあ周りを見ての通り、彼の橫柄な言は有名なものです」

セイデルは同じ従者という立場が心底嫌なようで、「ソビ家はライカ嬢のブランディ家と同じ侯爵の爵位を持っています。まさに虎の威を借る狐なのです」と渋い表をした。

「なるほど。あまり関わりたくないですね」

エインズは苦笑いをしながら言うも、

「いえ、それはきっと難しいかもしれませんよ？」

とセイデルに憐れまれながら返される。

験者が全員席に座り、問題用紙が配られると試験の「始め！」の合図に一斉に問題に取り掛かる。

筆記試験の問題は、計算・歴史・魔法知識・魔導書読解の分野で構される。

とはいえキルク魔學院は狹き門。計算は難解なものが多く、その他の知識問題も基本的なものから重箱の隅をつつくような問題まで出される。

一般にも學募集はかけられてはいるものの、どうしても高度な知識をれるとなると優秀な家庭教師が必要となる。そうなれば金銭的な問題が発生し、結局は金銭的に余裕のある貴族や商人などが優位になってしまうのだ。

ぼんやりと靜かに待機するエインズが見つめる験者の中には服裝から一般市民と分かる者もある程度の數見える。

中には本當に優秀な者もいるのだ。

「……魔法知識の問題が気になるな」

「見たいですか？」

ぽつりと呟いたつもりのエインズだったが、セイデルの耳に屆いていたようだ。

「見られるんですか？」

「主人にお教えすることは出來ませんが、見れますよ」

セイデルはそう言って、靜かに手を挙げる。

セイデルを確認した試験監督が靜かに彼のもとまで近づく。

「魔法知識の分野の問題を見せてしいのですが」

「しお待ちください」

一旦その場を後にした試験監督は、遅れて問題用紙を手に持って再度エインズとセイデルの前に現れた。

エインズは問題用紙をけ取り、パラパラと頁をめくる。