《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》10
晝食を終え、定刻を迎えると実技試験が始まった。
學試験は筆記試験と実技試験の両試験容を基に合否が下される。
エインズがセイデルから聞いた話では、ここ近年、試験の比重は均等になってきたそうだ。これまでの試験では目に見える判斷材料としての実技試験に重きが置かれていた。
しかし、魔道をはじめとする非戦闘分野が臺頭してきたこともあり、知識としての文、実技としての武、この文武はどちらも優劣なく重要と評価され始めたのだ。
「実技試験の容として、指定魔法の詠唱及びその発現、各自得意な魔法の発表の二つに大まかに分けられます。また、補助的な項目で剣もチェックされます」
すでに実技試験は始まっており、指定された初級魔法、中級魔法、そして発現出來ない者もなからずいる上級魔法がエインズの目の前で繰り広げられていた。
「特別目に留まるものはないですね」
離れたところから見ているエインズはセイデルに言う。
「そんなものですよ。なにせ彼らはこれから學びを得るのですから。完された者などいるほうがないのです」
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セイデルはエインズの言葉に笑いながら返す。
それを聞いてエインズも確かにと納得した。しかしそれでも、このくらいのレベルならばライカへのアドバイスは高度すぎたのではないかとじていた。
「次、ライカ=ブランディ。前に出なさい」
「はい」
試験に呼ばれ、前に出るライカ。
ライカ以前の者の多くは初級魔法であれば略式詠唱での発現。中級魔法になると、式詠唱。上級魔法までいくと、式詠唱をしても発現出來る者はなかった。
「まずは初級魔法から見させてもらう。火球と水球を発現させて下さい」
「分かりました」
ライカは落ち著いた様子で頷くと、「まずは火球から」と右手のひらを広げる。
「……」
拳一つ分よりもわずかに大きいくらいの火の玉が手のひらに浮かぶ。
それを見ていた試験、キリシヤを含めた他の験者がざわつく。
「おい、あいつ、無詠唱だぞ!」
「學前に無詠唱で発現できたやつなんて聞いたことないぞ」
そんな外野の聲に気が紛れることなく、ライカは次に水球の発現に取り掛かる。
「では次に水球を発現させます」
「……お願いします」
驚いているが、そこはさすが試験。
周りのように聲に出すこともなく、冷靜に試験を続けていた。
「……」
またしてもライカは無詠唱。
ざわつきは消えない。
「次に中級魔法ですね。ライトニングと火槍を発現させて下さい」
氷槍(アイススピア)、火槍(ファイアランス)、ライトニングは攻撃系統の中級魔法の中で汎用の高い魔法とされている。
「では行きます。——略式詠唱、『火槍』」
ライカのに薄く纏う魔力が彼の赤い髪を揺らめかせる。
「まさか!」
中級魔法を略式詠唱で試みるライカにさすがに試験も聲を出してしまう。
ライカは集中を途切れさせることなく、魔力を注ぐ。
ライカの頭上に1.5メートルほどの長さの真っ赤な槍が浮かび上がる。
刃先に炎を揺らめかせるその槍は、これまで式詠唱してきた験者のものよりも質の良いものだと試験はじた。
「エインズ殿! ライカ嬢はすでに中級魔法の略式詠唱まで可能なのですか!?」
「ええ。このところブランディ侯爵の邸宅にお邪魔してまして、自由に王都での生活をさせてもらっているので、その間家庭教師的な役割をしてました」
エインズは「まあ、何かしらの役割を擔っていないと自尊心が崩壊してしまいそうでしたから」と結ぶ。
この試験場のざわめきこそが、カンザスがエインズとソフィアを滯在させることによって生まれた大きなメリットの一つ。
エインズの正を知っているカンザスにとって、魔法分野においてエインズ以上の教師などいないことは容易に考えられた。そして、ライカがその教えを得られたというメリットがこの場のざわめきを起こしているのである。
その後もライトニング、氷槍とどれも略式詠唱で発現させていった。
中級魔法を済ませると場は逆に靜まり返る。
學院卒業までに生徒が辿り著く一つの目安が中級魔法の略式詠唱なのだ。それを目の前で、學もまだしていないがしてしまった。
「さ、最後に上級魔法を……」
試験も驚きのあまり聲が震えていた。
そして予想していた。彼ならば上級魔法を発現させてしまう、もしかすると略式詠唱で発現させてしまうかもしれないとまでに。
しかし試験のある意味期待が込められた予想は簡単に裏切られた。
「すみません、上級魔法は出來ません」
さっぱりと言い放つライカ。その表に悔しさ等も浮かべず、至極當然と言わんばかりである。
「……。別に、式を詠唱してもいいのですよ? 発現出來なくても構いませんし」
「いえ、わたしにはまだ早いから使うなと言われておりますので」
「そ、そう、ですか」
試験の狀況によっては合否に不利に働くかもしれない事を誰が? と試験は疑問にじながらも本人が言うのであれば仕方ないとこれ以上食い下がることはしなかった。
「では最後に得意な魔法を自由に発現させて下さい」
ライカは最後に略式詠唱にて中級魔法の火槍を同時に三本発現させて終えた。
再度會場にどよめきが生まれ、それを聞きながらライカは元の場所へ戻っていく。
「ライカ、いつの間に中級魔法の略式詠唱なんてできるようになったの!?」
戻ってきたライカを迎えるキリシヤ。
興さめやらぬ様子で、キリシヤのその様子はライカからしても珍しいものだった。
「あそこの優れた従者のおかげよ。その分、魔法の基礎という基礎、考え方から叩き直されたけど……」
普段からエインズをからかうライカだが、やはりエインズの魔法の知識量や考え方は素晴らしいものだった。
純粋に格が違った。
この試験會場においてどよめきの中心は間違いなくライカだ。しかし、エインズとの2週間もの取り組みはライカにとって凡人と天才を明確に理解させるものだった。
「やはりエインズさんはすごいお方なのね! 私も教えてほしいな」
憧憬の念を抱きながら語ったキリシヤの中で、さらにエインズの評価が増していく。
その後呼ばれたキリシヤの腕も周りと比べると優れたものだったが、ライカの後だったこともありどうしてもその存在は薄れてしまっていた。
魔法実技を終えた後に、木剣を使用した簡単な打ち合いを行う程度の剣試験が行われた。
そうして朝早くから行われた學試験は、が傾く頃に修了した。ここから総合的に判斷されて後日合否の発表が行われることとなる。
會場に來ていた多くの者はこれで終わりなのだが、エインズの本番はこれからである。ダリアスの従者、タリッジとの剣での打ち合いが行われる。
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