《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》13

聲が枯れ、が空転するコルベッリ。

右目は真っ赤に染まり、今にでもの涙を流さんばかり。

錠をかけられたその先、右手は完全にその生命を焼き盡くしてしまった。これにより幸か不幸かコルベッリは右手に痛みをじることはなくなった。

「まだ終わらんぞ?」

コルベッリの干からびた右手はさらにピキッと薄い殻が割れるような音を立て始める。その音は徐々に大きくなったかと思えば、土というよりかは灰に近い手にひび割れが生じた。

「……」

コルベッリ自の心はまだ折れていない。目はまだ死んでいない。しかし、長時間にわたって続いた激痛がすっと消えたことによる一瞬の安堵と混、そして潰れてしまったの前に、彼はその様子を黙って見ることしかできなかった。

コルベッリの口端から垂れる涎が顎先から水滴となって巖床に落ちる。そんな彼の意識は右手にしかない。

そんな生者と廃人の境をさまよう彼の右手が、殻の割れる音とは別に軽い音だが決定的に芯が折れたような音を鳴らす。

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カシャンと音を鳴らして右手から手錠が外れ、左手首一つでかかる錠はだらんと垂れる。

「……ぃ、……ひ」

聲が出ないコルベッリの目線が床に落ちる。

落とされた視線の先には巖床に落ちて崩れた、右手を為していた砂の山があるだけだった。

「どうだ、面白かろう? 手錠が外れれば貴様もここから逃げられるかもしれんぞ? なんと妾は寛大であろうな」

閉じていた扇子を開き、口元を隠しながらくつくつと笑う。

「だが右手と同じやり方では蕓がなかろう?」

「あ、……た、なに……の、だ……?」

コルベッリの口のきで、聲にならない彼の聲を聞いたリーザロッテは「そうさな」と答える。

「妾の名はリーザロッテ。……ふむ、ピンと來ておらんようだ。やはり妾の名よりも通稱の呼び名の方が獨り歩きに広まっているようだ」

隠した口元をわにし、見る者のを駆り立てる艶やかながその口を開く。

「『悠久の魔』と呼ばれているようだ。まるで老いぼれのようなこの呼び名、妾は好きではないのだがな……」

悠久の魔。『次代の明星』は魔法による選民思想を持つ集団である。その優位を瓦解せしめた『原典』の副本を數多く作製し、萬人に平等に魔法知識を知らしめた人。コルベッリらからすると忌々しい人

その人が今、コルベッリの目の前で上気した表に笑みを浮かばせて彼を見ている。

「……う、ううぅうあああ!!」

憎悪に満ちたコルベッリは、壊れたで強引に聲を上げて吠える。

「そう興せんでも、妾と貴様の月の時間はまだまだ続くぞ? 一人で果てるなよ、妾も逝かせてもらわんと困る」

まるでっぽいその艶めかしいが言葉を紡ぐ。

「限定解除『任意流転——』」

長い長い『一瞬』に、コルベッリは絶を、リーザロッテは愉悅に楽しむのだった。

それからしばらくして——、というのはリーザロッテのであり、牢の外で待機していたミレイネからすれば一瞬のこと、冷たく分厚い鉄のドアが開かれ、熱い吐息をらしながらリーザロッテが出てきた。

頬を紅させたリーザロッテに違和を覚えたミレイネだが、そこにれない。藪蛇に違いないと彼は察した。

「リーザロッテ様、よろしいのでしょうか?」

「……ああ、ミレイネ待たせてすまんな。もう良い。知りたいことは聞いたから後は國の方で好きなようにするとよい」

「いえ、本當に一瞬でしたので……」

リーザロッテの背で閉じられるドア。

その上部に設けられた覗き窓から見えるコルベッリの姿にミレイネは息をのんだ。

「とはいえ、アレにまだ利用価値があるかは分からんがのう。完全に壊れてしもうた」

っぽさを殘す息を吐きながら自らのを両腕でぎゅっと抱き寄せるリーザロッテの姿は幾多の男を魅了し墮とすだろう。

生きてはいるものの廃人と化してしまっているコルベッリを背後に高揚しているリーザロッテは不気味。

「(……やはり藪蛇でした)」

「では戻ろうか、ミレイネ」

安定しない巖床を、綺麗にヒールの音を鳴らしながら歩くリーザロッテの姿は様になっている。同じのミレイネでも惚れ惚れする程である。

「……聖、か。いつからそんな綺麗で大それた呼び方をされるようになったのか。あれは結局のところただの——」

リーザロッテの後ろを歩くミレイネには、彼が嘲りながら呟くその言葉が屆くことはなかった。

學試験が終了し、験生が解散した試験會場の一つで、エインズとタリッジが向き合っていた。

その両者からし離れたところでタリッジが仕えるダリアス。そしてライカ、キリシヤ、セイデルが並んで座る。

エインズとタリッジが向き合う中央にサンティア王國第一王子のハーラルが、この立ち合いの審判として立っていた。

「今からエインズとタリッジの立ち合いを行う。使用する剣は模造刀、攻撃魔法の使用は不可。勝敗は相手の降參や継続不可能と思われた場合。ただし、意図した殺しはもちろんなし」

ハーラルがタリッジとエインズに視線を送り、その反応を見る。

タリッジの方はすでに滾っているようで、目線をエインズから離さずに「ああ」と頷いて返す。

対するエインズは心底面倒そうに、並ぶ模造刀を見ていた。

そんな両者の反応を見てハーラルは同意したものと認識して、二人に剣を選ぶよう呼びかけた。

それぞれが剣を選び、相対する。

タリッジは両手剣を選ぶ。彼の屈強なは軽々とその剣を振るっていた。

対するエインズは一般的な片手剣を選ぶ。左腕一本の彼では両手剣は振ることは出來ないため、それらに見向きもせずため息をつきながら手に取った。

「二人とも、準備はいいかい?」

両手で剣を構えるタリッジ。そして、構えることなくだらりと下げた左手で剣を持つエインズ。

二人の熱量はまるで違う。そこに、舐められたとじたのかタリッジは脅しをかける。

「おい、お前! 殺しはないから安全だなんて考えるんじゃないぜ! 模造刀とはいえ、骨を斷つくらいは可能だからよ」

重さのある両手剣。それをタリッジのように筋力に任せた一振りなら骨はおろか、當たり所が悪ければ死ぬ可能もある。

ルール上、意図した殺しは反則だが、立ち合い中の不可抗力ならば殺してしまうこともあると暗にタリッジは脅しているのだ。

「いや本當に、なんで僕はこんなことやっているんだ? ……試験を覗いてみたじ、魔學院は僕の思っていたほどのものとは違うし、気づけばチャンバラに付き合わされているし」

そうエインズが呟いていたところで、タリッジの視線をじて「ああ、こわいこわい」と適當に返す。

「……殺す」

ぼそりと、誰にも聞こえないほどの聲量で溢すタリッジ。

「では、始め!」

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