《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》16
蹴られた刃先がタリッジの目掛けて飛ぶ間に再度エインズは地面を蹴って、離されてしまったタリッジとの距離をめる。
「くっ……」
刃先への対応に回避行がとれないタリッジは、大剣を盾のように構えて防ぐ。
咄嗟の行ではあるがエインズの悪あがきを完全に防ぎ切ったタリッジだったが、エインズの目的は、すでにきを止めた大剣にある。
タリッジとの距離を詰めたエインズは右腳を軸に左の義足の先端を突くような直線的で鋭い蹴りを繰り出す。
義足の先がタリッジの持つ大剣の刀を叩いたと同時に、その接した一點から刀目掛けて濃な魔力を瞬時に放出する。
「……は?」
タリッジの手に痺れはなかった。
およそ似つかわしくない程に軽い音をたてて大剣は砕した。
「……」
「……」
そこからエインズは追撃することなくきを止める。対するタリッジもエインズの予想外なきとその結果に呆然と固まるしかなかった。
「……っ! そこまで! 両者の武消失を確認したため、戦闘の継続は不可能と判斷し引き分けとする」
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意外な結末に、はっと我に返ったハーラルがその戦いに終止符を打った。
「はあぁ。別に勝ち負けに興味はないし、これで僕は帰っていいんだよね?」
エインズは蹴り上げていた左腳を下げ、瞠目しているタリッジやその周囲に散らばる二本の剣の殘骸に目を向けることなく、聲も出せず固まっているキリシヤとセイデル、そしてライカの元へ歩を進めた。
三人の元までやってきたエインズの表からは面倒事からの解放を読み取れる。
「エインズさん、すごかったです!」
そんなエインズの顔に、額が合わさりそうな程に接近して激しているキリシヤ。
「え、あ……。ありがとう、ございます」
キリシヤに左手をぎゅっと両手で握りしめられたエインズは戸ってしまう。
「私の目なんかでは途中までしか追えませんでした! びゅっと、本當に、びゅっびゅって、すごい速さで、びっくりしました!」
剣をえたエインズやタリッジ以上に、その迫力ある剣戟に興冷めやらぬキリシヤ。
「キリシヤ、しは落ち著いて」
そんな王の、友人の姿に苦笑いを浮かべるが嬉しくじたライカは彼をなだめる。
「エインズ、さすがね! 一応、勝敗は著かない結果だったけど今の打ち合いを見ればどちらが上だったか分かるわよ」
ライカがちらりと見やる先にはダリアスがいる。
呆然とした表をしていた彼も、々に散った剣の殘骸の中で立ち盡くすタリッジを見ながら徐々に苦蟲を潰したような表になっていく。
そんなダリアスの表を見て一泡吹かすことが出來た笑みを作るライカだったが、口角の上がっていないエインズを見て目を伏せる。
「……無理言って悪かったわ。ごめんなさい」
そう視線を外しながら呟くライカの姿にエインズは意外な一面を見たような気がした。
「まあ、終わったんだしいいよ」
し目を下げながら答えるエインズ。
エインズのすぐ橫からいまだ目を輝かせるように想を話し続けるキリシヤ、それに若干引きながらも相槌を打ちながら対応するエインズ。キリシヤの両側から笑うようになだめるライカとセイデル。
そんな喜満面な妹やその友人に水を差すのも無粋と判斷し、ハーラルは靜かにその場を後にする。
ハーラルは途中、ダリアスとすれ違う際に「學後はお互い學生だから、し控えめにね」と肩をぽんと優しく叩いていく。
「……お気遣い、謝致します」
悔しさに聲が震えていたダリアスも、ハーラルが去った後にタリッジに聲をかけて帰路についた。
エインズやライカたち四人だけが殘る広い試験會場にはキリシヤの聲だけが響いていた。
〇
早口で次々と言葉を紡いでいたキリシヤの口もそれからし経って納まりを見せた。
間もなく日も落ちきるということで、ライカやエインズと挨拶をわしセイデルを連れて帰路についた。
エインズたちも二人の姿が建で見えなくなった頃、家路につく。
は沈み、空は夕焼けに染まる橙から暗く夜のとばりが降り始める。
整備された道の両端に並ぶ街燈、それらに燈りが點る。
ぼんやりと照らされた道をエインズとライカは橫に並んで歩く。魔學院から居住區までの道を歩くほとんどは居住區に住まう子息令嬢である。そのため、學試験が終了してからかなり時間が経った今では二人の他に人の姿は見えない。
石畳を義足で鳴らしながら歩くエインズ。彼らは口を開くことなく、靜かに歩みを進める。人気のない夜の様子も相まって靜謐な空気が広がっている。
「……エインズ、改めてごめんなさい」
そんな口が開きづらい空気もあったのだろう、ライカの聲は細々としていた。
「別にもう気にもしてないよ」
ライカの指している容は、先のエインズとタリッジによる打合いのことである。
事が終わり落ち著きを取り戻しているライカは、変な自尊心によって空回りした挙句、心底面倒そうにしていたエインズに無理やりタリッジと立ち會わせてしまったという罪悪と己の恥ずかしさに苛まれていた。
「それでも、従者という建前を利用してエインズの意思を無視してしまったし……」
「まあ……。それでも収穫はあったし、無駄ではなかったよ」
エインズはそんな肩を落としているライカを見ながら優しく返す。
足元の石畳に目を落としながら歩いていたライカは、エインズの言葉に「本當に?」と弱弱しく目線を移す。
「うん。ガイリーン帝國は剣に長けているんだったよね」
「そうね。逆に魔法のレベルは王國よりも低いわね」
どちらかと言えば魔法に力をれているサンティア王國を嫌いしての剣特化路線を取っているとも言えなくもないが。
「だけど、剣にも魔力作が織りぜられていたよ。あんな暴な男でも魔力作の技はそこそこだったよ」
「タリッジが、魔力作を?」
魔法も使えなければ、その知識も遙かにないタリッジが魔力作に長けているとは思ってもいなかったため、ライカは思わず驚いてしまった。
「そうだね。途中からのきはまさにでの魔力作による強化。荒々しい彼でも今のソフィアよりも使いこなせていたよ」
タリッジは力強さという自分の強みを理解し、それを強化によって最大限に発揮していた。そこに繊細さはなかったものの、魔法士で溢れるサンティア王國でも脅威足り得るほど。
そしてそれはガイリーン帝國をチャンバラ文化だと侮っていたエインズの好奇心に繋がる。
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