《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》17 第2部1章 終
「彼のクラスであのレベルだ。その上はどうなんだろうね……」
より高度な魔力作をするのかもしれない。はたまた、剣を模しているがその実、魔法を発現しているかもしれない。タリッジが剣王のクラス。その上のクラスの剣士はもしかすると。
そんな期待にエインズはを膨らませていた。
先の打合いをエインズがある程度意味をもって消化することが出來ている様子を見て、ライカはしほっとした気持ちになる。
「とはいえ今日の試験の様子を見たところ、魔學院が僕の思っていたものとは違ったからしがっかりしたけどね」
ライカは小さくため息をつくエインズを橫目に、
「……そりゃ、エインズの実力を考えるとそうなるでしょうね」
と苦笑いした。
そこからは話しづらい空気はさっぱりなくなり、夜の靜けさが広がる家路を二人は朗らかに話しながら歩いた。
ブランディ邸に到著すると、二人はすぐにダイニングへ向かう。ダイニングにはそわそわと落ち著きのない様子のカンザスとその後ろでリステが靜かに直立してライカの帰りを待っていた。
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ライカの姿が見えるとカンザスは思わず椅子から立ち上がりそうになるが、娘の手前逸る気持ちを抑え込み、若干浮き上がった腰を椅子に沈めた。
「お帰り、ライカ。そしてエインズ殿も。お腹も空いているだろう、すぐに夕食にしよう」
カンザスはライカの試験の手応えを知りたいのだろう、表には出していないもののリステに指示を飛ばす口ぶりはいつになく忙しない。
娘であるライカにはカンザスのそんな機微を容易くじ取り、可笑しく思った。
メイドに引かれた席にエインズが座った頃、ダイニングにソフィアがやってくる。
「おかえりなさいませエインズ様」
「ただいま、ソフィア。今日は何をしていたの?」
エインズの姿を見て、お辭儀をしたソフィアはエインズの言葉に耳を傾けながら席につく。
「今日はリステさんとお買いをしした後、エインズ様に教わりました強化の鍛錬を一日しておりました」
ダイニングに來る前に水浴びでもしたのだろう、ソフィアの髪の先はまだ水気が殘っていた。
「真面目だね。この前からどれだけ上達したんだろうね。今日打ち合った男ほどはまだ使いこなせないかな?」
「エインズ様、打ち合ったとは?」
「ああ、それはね——」
四人はテーブルの上に並べられた料理に手をばしながら、エインズはソフィアと、ライカはカンザスと學試験での出來事を話したのだった。
カンザスはライカの腕前が試験會場の注目を集めたことに聲を大にして喜び、ソフィアはエインズが剣王クラスの剣士と打ち合った様子を直接見ることが適わなかったことに酷く悔しがり、両者正反対の反応を示した。
ブランディ家に仕える料理人が腕によりをかけた料理も食べ終わり、ゆっくりと食後のコーヒーを楽しんでいたエインズにカンザスは質問を投げかける。
「話を聞く限り、ライカの試験も無事終わったようでエインズ殿には本當にお世話になりました。合否発表まで時間もありますが、エインズ殿はその間どのように過ごされるのですか?」
「そうですね。……そういえば、王城の玉座の件はどうなったんでしょうか。また改めてということでしたが」
エインズはカップをソーサーの上に置き、カンザスの方へ向き直る。
「確かに。一度私の方から打診してみましょう。すぐに了承の返事がもらえないでしょうが」
「いえ、別に。急ぐことでもないですし、構いませんよ」
そう答えてエインズはこれからの時間の使いようについて考える。
そして、ふと今日の學試験の時を思い出した。貴族でもない一般市民でも魔學院の門を叩くことが出來るが、彼らは一どのようにして試験に臨む教養をに著けているのだろうか。
金銭的に裕福な貴族や商人の家の子息令嬢であれば家庭教師が付けられる。しかし一般市民だとそうはいかない。誰かが善意で教えているのだろうか。
エインズはそこに興味を持った。
「そういえばキルクも一般街區の中心しか散策できてないし、西の方には行けてないな……」
「西は商業區になりますから私もそちらの方には行ったことがありません」
ソフィアはナプキンで口元を軽く拭きながらエインズに同調する。
「それじゃ、そっちの方に行ってみようかな」
「エインズ様、お供いたします!」
背筋をばして答えるソフィア。
それを向かいから見ていたライカは「私はキリシヤとの約束があるからパスするわね」と首を橫に振った。
「ちょっと、いや、かなり不安だけど、二人でそっちの方へ行こうかソフィア」
「エインズ様、ご安心を! 私がエインズ様に降りかかる災いを全て払い除けてみせましょう!」
意気込むソフィア。エインズが不安に思っている要因の半分はソフィアなのだがそれは口にしなかった。
食後のコーヒーをゆっくりと楽しんだエインズは、さっと浴場で汗を流し、カンザスから與えられていた客間のベッドに橫になった。
一日仕事だったエインズはすぐに意識を手放したのだった。
太も登り始めが窓から差し込む頃、メイドの呼び聲にエインズは目を覚ます。
寢起きすぐは頭も回らず左右にふらふらと頭を揺らしていたエインズだったが、びをして寢巻から著替えた頃にはすっきりと覚醒していた。
メイドの後ろを歩き、ダイニングに向かうエインズ。すでにライカとソフィアは朝食をとっている最中で、軽く挨拶をわした。
ライカの話を聞くに、カンザスはすでに朝食を済ましており、執務の関係で登城しているとのことだった。
ブランディ領自慢の麥を使用したパンはきつねに焼かれており、その芳醇な香りと甘さが渋いコーヒーに良く合う。
ブランディ家の夕食も料理人が腕によりをかけた品ばかりだが、朝の焼かれたパンとコーヒーの組み合わせもまた至福。なんなら朝食の方が楽しみかもしれない、エインズは湯気が立つカップを口元に寄せながらそうじていた。
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