《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》07

巨大な軀に、ぎらついた瞳。丸太のように太い腕、人の頭を摑んで潰せるのではないかと思えるほど大きい手で握るは、彼の軀に見合う巨大な大剣。

それをの前で盾のように広げ、彼とは正反対に細いつきの男の鋭い蹴りを凌ごうと試みる。

激しい剣戟に、嵐のように劇的に変化していく戦況。

右腕はなく、左腳に簡易な義足を履いている細い男の名前はエインズ。

斯く斯く然々な理由からエインズと打合いを行い、今こうして彼の蹴りを防いでいる巖のようなつきの男の名前はタリッジ。

試合が始まった當初、簡単にケリが付くと予想していたタリッジだったが、彼の予想通りに事は運ばれなかった。

「……くっ」

今こうして防いでいるのだってやっとのことである。

両者の間には的ハンデが數多くある。圧倒的にタリッジが優位。

しかし狀況は、その優位がなければかえって負けてしまうのではないかと冷や汗をかくほどの実力がエインズにはあった。

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刃は潰してあるものの、その刀と簡易な義足ではどちらの耐久力が上かなど火を見るよりも明らか、だとタリッジは思った。

だが、次の瞬間には大きな手で握る柄を殘し、そこからびる刀々に砕されていた。

タリッジの手に痺れはなかった。つまり、重く鈍い衝撃が加えられたわけではないことを意味する。

局所的で瞬発的な衝撃は、その波がタリッジの手に伝わるよりも早く刀砕したのだ。

呆然とするタリッジ。

それを冷めた目で見つめ、追撃の勢を取らないエインズ。

審判役を買って出たハーラルでさえ、その試合の予想外な幕切れに呆気に取られてしまっていた。

そこから先のことをタリッジはあまり覚えていない。

正気を取り戻したハーラルの一聲により試合が終結し、ハーラルが會場を離れた後、ダリアスから苛立った様子で聲をかけられ、ソビ家屋敷に戻った。

帰路ではダリアスからタリッジへの言葉はなく、ぶつぶつと彼は一人呟いていた。

そのダリアスの橫でタリッジはエインズとの打合いをずっと振り返っていた。

剣技としてはガイリーン帝國でも上級剣士と呼ばれるほどの腕はあったように思える。加えて、剣王以上の剣士が使えるとされる『神力』をタリッジが使えばエインズもタリッジと対等に渡り合うほどの『神力』を使用した。

なんならエインズの方がタリッジよりも洗練された『神力』を使っていたように思えるほどであった。

「……ここで神力を使うやつなんて初めて見た」

『神力』とは、から湧き上がる力をに巡らせ能力以上の強大な力を発揮することだ。しかしこれがにかける負擔は軽くない。

適したきに加え、きを理解していなければ『神力』によって膨れ上がった力が暴走してしまい自を破壊してしまうのだ。

だからこそ『神力』を使用できるのは剣技を十分に修めた剣王以上と言われているのだ。

「……流派は不明だがかなりの剣技、神力は俺よりも優れている。……なのに、どうしてだ?」

エインズの目に熱意がなかった。冷めきっていた。興味もなく、剣に対して思いれもも何もない。まさに道を扱うように振るっていた。使えなくなれば、あっさりと投擲し手放す。剣士のそれではない。

タリッジのじた歪さはまだある。

ある程度にまでその技量を昇華させた剣士なら誰もが持っている直、第六と言っても良いほどに重要となる素質。それがエインズにはなかった。

「まさか、……剣士じゃ、ないのか?」

傍から見ていたただの観客には分からない、二人の試合の歪さ。

考えれば考えるほど、その深みにはまってしまう。

さらに思考を深めようとしたところで、屋敷に到著した。

「……タリッジ、お前は部屋に戻っていろ。僕は父上に今日の報告をしなければならない」

「……分かった」

ぶっきらぼうに答えるタリッジに、ダリアスは眉間にしわを寄せながら不満をわにする。

「いいか。今日の試合は間違いなく父上の耳に屆いているはずだ! それがどういうことか分かるか! 僕が、詰められるのだ! お前のせいで、だ。腕に覚えがある剣士だというから雇っているのに、どうするんだ! いいか? 僕の父上への報告が終わるまでに、落ちた評価の挽回方法でも考えていろ!」

タリッジよりも小さなのダリアスがそれに怖じせず、タリッジの顔に指を突き付けて聲を荒げる。

言い放った後、ダリアスは彼の父親であるゾイン=ソビの書斎へ向かっていった。

一人になったタリッジはこの後の取るべき行を考える。

なんとかしてダリアスに貢獻しなければ、ソビ家から追い出されてしまう。

それではまずい。まだタリッジはサンティア王國で目的を果たしていない。

「……たしかあいつらがスラムの方で何か見つけたって言ってたな。なんだ、『セイイブツ』だっけか?」

タリッジは以前に小耳にはさんだ話を思い出していた。

魔法文化であるサンティア王國では『セイイブツ』が高値で取引されるという話だ。

「……それを手にれれば、今回のことはなんとかなるか」

タリッジは、ここに來てから出來た決して良いとは言えない仲間と落ち合うことをきめてダリアスが戻ってくるのを待った。

「……きっとあの坊ちゃん、顔真っ赤にして戻ってくるだろうな」

別に怖くはないが。

それよりも今はエインズとの打合いを振り返りたい。タリッジは靜かに目を閉じる。

「(次は俺の本來の相棒で、あいつと打ち合いたい! あいつと打ち合えば、俺の求める何かに近づけるはずだ……)」

彼の直がそう告げていた。

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