「……くそっ。いてぇ」

激しい頭痛で目が覚めたタリッジは、二日酔いに効くと言われている薬を水で流し込み、普段は飲まないコーヒーを飲む。

徐々に気持ち悪さや気だるさもすっきりしていき、部屋の中を見回す。

仲間の數人がおらず、昨夜よりも広くじる部屋の真ん中のほうで仲間たちが集まり、何かを掲げ見ながら酒を飲んでいた。

（こいつら、俺よりも酒がつえな……）

の大きさでいけばタリッジの方が數倍も大きいが、昨夜あれだけ飲んだというのに今もジョッキを傾けている仲間に苦笑しながら、タリッジはそちらの方へ近寄る。

「……ああ兄貴、おはようございます」

「ああ。なんか盛り上がっているみたいだが？」

そう先ほどまで掲げていたペンダントを覗き込むタリッジ。

「ええ、これが言っていた『聖』です。先ほどスラムの方から拾ってきまして」

手渡されたペンダントをじっくりと見るタリッジ。

「なるほど、これが『聖』か。それで、これはなんで貴重なんだ？」

「へい。『聖』とは無盡蔵に魔力を生み出す代なんです」

「……それでもいつかは枯れるんだろう？」

「いえ、魔獣のから取れる魔石のようなものとは違いまして。言葉通り、無盡蔵に生み出すんです」

そう説明を聞き、魔法文化のサンティア王國ではさぞかし貴重な代だな、とタリッジは納得がいった。

「そうか。これをソビ家の坊ちゃんに渡せば無事収まるってことだな、よくやった。……しかし數人見えないみたいだが、どうした？」

男は笑いながら「褒を期待してますよ兄貴」と言いながら頭を下げた。

「ああ。あいつらならを攫いに行くとかなんとか言って出ていきましたぜ。別嬪が一人と、奴隷商に卸せそうなのガキが一人。……まあ、小遣い稼ぎみたいなもんで」

苦笑しながら頭をかく男に、タリッジは「坊ちゃんの庇護があるとはいえ、程々にしておけよ」と軽く注意する。

それからタリッジはペンダントを掲げ、真ん中に付いている紫の小さな寶石をに當てながら眺める。

魔法や魔力といったものに疎いタリッジには、本當にこの安っぽいアクセサリーにそれほどの価値があるのかと思ったが確かにペンダントを持つ右手に不思議な覚があった。

剣士としての直がタリッジに訴える。

このペンダントからじる違和、どろっとした気持ち悪さを。

「なんであれ助かった。これをれる箱を適當に見繕っておいてくれ」

そう言ってタリッジはペンダントを仲間たちが囲むテーブルに置き、自分の椅子に戻りもうひと眠りしようかと考えた。

「それにしてもあいつら遅いな。……さてはあいつら、勝手に楽しんでいるんじゃないか？」

「くそったれが。抜け駆けはやめろって言ったのにな。戻ってきたらあいつらは當分の間酒止だな」

そうやって酒を浴びる男たちの背後でり口のドアが暴に開かれる。

「ったく、おせーぞ。お前ら、當分酒は止だからな！　勝手に楽しんだ罰だ」

そうタリッジを含めた男たち皆が視線を向けたドアの方には見慣れた仲間の姿はなく、異様な出で立ちの男とこんなむさ苦しい場所には不釣り合いなとが立っていた。

「そうかい？　まあ僕は別にお酒がなくてもコーヒーさえあればいいから構わないよ？」

「エインズ様、彼らの飲むコーヒーなどコーヒーのをした泥水に違いありません。私の淹れるコーヒーをお飲みください」

「……」

呑気なことを言う男——エインズの橫に立つソフィアも彼に合わせて軽口を叩くが、敵意むき出しである。

エインズのもう一方橫にはシアラが黙って男たちを睨んでいた。

「お、お前ら！　さっきのスラムのガキに突っかかってきたと男か！　どうしてここに！　あいつらが向かったはずだぞ！？」

すぐに異変をじた男たちはジョッキを放り捨て、自分の獲を手に取る。

「ああ、彼らならもういないよ。僕の橫にいるシアラが——、」

「……あいつらなら、わたしが灰も殘さず燃やし盡くした！」

エインズはシアラの頭にポンと左手を置き、

「ってことで、よかったじゃないか。君たちの酒代も幾分か安くつくんじゃないのかい？」

と皮りながらにっこりと笑う。

部屋の後方で勢いよく立ち上がるタリッジ。

「お前、エインズ！」

「君は……、昨日の。悪いけど、今日は君の相手をするためにここに來たわけじゃないからね。今僕は、魔師エインズ＝シルベタスとしてここにいる」

「……魔師。やはり剣士じゃなかったのか。だがそんなのは関係ねえ！」

タリッジは椅子の橫に立てかけていた大剣を手に取る。

「俺の相棒クレイモアがあるんだ！　昨日のようにはいかねえぞエインズ！！」

「……はあぁ。本當に君は鬱陶しいね」

剣を向けるタリッジと、それを溜息をつきながら眺めるエインズ。

その橫でシアラが聲を上げる。

「あっ！　あれはお母さんのペンダント！」

「うん？　あれがシアラが言っていたペンダントかい？　……なるほど、あれが聖ね」

エインズはシアラの指さす先にあるペンダントを観察する。そしてエインズは聖が何たるかをある程度理解した。

「いいだろう、シアラはあれに専念しな」

「絶対に取り戻す！！」

意気込むシアラ。

「はっ！　お前みたいなクズに何が出來るってんだ！　五満足で奴隷商に卸そうかと思っていたが、まあいい。四肢がなくても生きてりゃ豚の餌にでもなるだろうよ！」

男たちはシアラを標的に設定し、その獲を向ける。

それを気にも留めずシアラは紡ぐ。自分の魔を。自分のを。母親の形見を取り戻すための力、男どもを殺すための力、黒く醜くともシアラが本心から抱く意志の形。

持たざる者が、理不盡に遭うだけの者が、その弱強食の摂理に抗い、干渉するための力の構築。

「限定解除『黒炎の意志(ボリション)』！」