《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》11

シアラに向けていた殺意を込めた眼差し。その目をシアラは害悪として認識したのだ。

「楽にころさない! わたしはもうゆずらない!」

男の両の眼から文字通り黒炎が噴き出す。

シアラに殺意を向けていたその眼球を燃やす。

右腕はいまだ人が焼ける異臭を発しながら黒く燃え続けており、両目は側から外に炎を噴き出すようにして燃える。

言葉にならない絶がシアラを囲みながら異様な景を前に一歩もけない男の仲間たちの耳に屆く。

最後にシアラは、右腕と目に黒炎を纏う男の存在そのものを害悪と認識する。

黒い炎が男の全を覆い、しして絶が鳴りやむ。

黒い炎が晴れると、そこには何も殘っていなかった。

「お前ら全員、燃やす!」

脂汗を浮かばせながらその場からけない男たちを一人一人敵として認識しながらシアラは見渡す。

その眼の持つそれではない。

シアラの元で燈る黒炎が荒ぶる。

シアラたちから離れたところでエインズとタリッジは向かい合っていた。

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切っ先をエインズに向けながらタリッジが口を開く。

「このクレイモアなら前みてえに砕かれたりしねえ!」

対するエインズは剣も持っておらず、何の構えもない。

「昨日の君との打ち合いもまったくの無駄ではなかったよ。とはいえ、し興味をそそられただけだけどね」

今、この場において二人の間に何のルールもない。

引き分けの條件もなければ勝敗が決する條件もない。行き著くところまで行き、一方が地に伏せれば終わる。

タリッジの直が、彼に語り掛ける。

結果がどうであれ全力でエインズにぶつかれ、と。

「別に君と戦いたいわけでもないんだけどさ、まあでもシアラの邪魔になるんだったら僕が相手しないとね。どうやら僕に何か因縁を持っているみたいだし」

タリッジは強烈な殺気をエインズにぶつけているが、當の本人はまったく気にもしていない。

「……舐めるなよ。お前のその歪さ、それを丸にしてやる!」

そうすれば俺は求めるその先に至れる、と続く言葉をタリッジは飲み込む。

短く一息吐き、タリッジは『神力』で強化する。

ドンッと石畳を割るほどの勢いでタリッジはエインズの懐へ飛び込み、その距離をめる。

タリッジは初手から全力。

が、対するエインズの手にはいまだに剣はなく、軽く義足で石畳を一度叩くのみ。

「っ!」

駆けるタリッジの右方の地面が急激に盛り上がり、彼を貫くように柱がびる。

これは避けられないと判斷したタリッジは大剣、クレイモアで石柱を斬る。神力をその剣先まで纏わせ、強度と切斷力を向上させる。

バターを切るようにスパッと両斷する。

エインズは欠をしながら義足で規則的に地面を叩く。

その直後に四方から石柱がタリッジを襲う。

「……魔法士の分際で、クソが!」

神力を纏ったタリッジはその全てに対応し、エインズの攻撃の一瞬の隙を見て詰め寄る。

神力を纏わせた刀は鋭い斬撃となる。空を裂きながらエインズの目掛けて奔る。

エインズは魔力作で強化し、常人では目で追えない速さの斬撃を躱し、指を鳴らす。

宙に火槍が五本出現。その出來は學試験で見せたライカのものとは比べにならない程に洗練されたもの。

と同時に氷槍も五本発現させるマルチタスク。

氷槍を無詠唱で発現させながら、「指を鳴らす」といった極限にまで簡略化された——魔法化された式で火槍を発現させる。魔力を二つの別個の形で出力させる並外れた技。サンティア王國にいる魔法士その誰もがしえない離れ業。

計十本の槍がタリッジにその刃先を向けて、上方から、死角から降り注ぐ。

俊敏なきでいくつかの槍をやり過ごしながら、クレイモアで叩き落す。まるでレイピアを振るっているような速さで大剣を振り回す。

躱したはずの槍が軌道修正して再度タリッジを襲う。撃ちらしたいくつかがタリッジの軀に切り傷をつける。

痛みに顔を歪ませるタリッジを目にエインズは指に嵌める指に魔力を注ぎ、アイテムボックスを展開。中から末な片手剣を取り出し、刀に魔力を纏わせる。

「魔法士のてめえがッ! なんで『神力(しんりき)』を使ってやがるッ!」

エインズの強化されたのこなし、末な刀に纏わせる魔力、それらがタリッジには神力を使用しているように見えている。

(……神力? これはただの魔力だけど、彼は何を言っているんだろう?)

エインズからすれば、剣士であるタリッジが削りだが魔力作で強化しているように見えている。

(まさか彼の言っている『神力』っていうのは——)

であれば、タリッジは魔力を『神力』という別稱で認識していることになる。

エインズは、その細いからは考えられない重い一撃をタリッジにぶつける。

タリッジもそれをクレイモアで防いだが、後方へ飛ばされたことでエインズとの距離が開き仕切り直しとなった。

呼び名は違っていても剣文化と聞いているガイリーン帝國の剣士が「魔力」を認識している。これに至ったエインズの思考はタリッジ、いや、ガイリーン帝國の剣への興味を加速させる。

「……ならこれはなんて言うのかな?」

今度はエインズがタリッジに飛び込む。

「略式詠唱『同時再演(セイムアクター)』」

剣を持つエインズの左腕が肩のあたりから半明に二本生え、三本の剣がタリッジに迫る。

エインズ、いや、魔法文化のサンティア王國での認識では「魔法」。それを目の前のタリッジはどう認識するのだろうか、その興味がエインズを駆り立てる。

「なんで剣士でもねえてめえがッ! あのクソ野郎の技を——、『神技(しんぎ)』を習得している!!」

エインズの半明な二本の腕。それを、その神技をタリッジは見たことがある。忘れたことは一度もない。夢の中に出てくるほどに鮮烈に脳裏に焼き付いている。

——神技『三重(みえ)』。

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