《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》12
エインズのこの魔法。相手する者が初見であれば困し、対応に後手を食らう。魔力をもって実をし、剣技を振るう。
同時に三本もの剣とその各剣技に対処しなければならない。この魔法、神技を使用する者が優れた太刀筋であればあるほどその脅威は比例的に増す。
そしてこの、神技を使えるか否かがガイリーン帝國における剣王と剣聖の絶対的な境となっている。
タリッジは『三重』に限らず神技を使えない。故に剣王で甘んじているのだ。
そしてなぜ剣のクラスが剣王、剣聖、剣帝と別れているのか。それはそこにほぼ絶対的に覆らない実力差があるが故である。剣王では剣聖に敵わない。
神力を使用し、強化されているとは言え、そのきは人間のきの域から外れない。比べてエインズが現在使用しているような『三重』は強化されただけでは再現出來ない。
腕は増えないのだ。剣は増えないのだ。別個の剣技をもって斬撃をすことはあり得ないのだ。
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神技はそれをす。故に、神技。
エインズにとっては自らが使用する魔法の中の一つ。しかしタリッジにとっては絶対的に隔絶された実力差を意味する神技の使用。
タリッジのその鋭い眼に揺が生まれるが、それでもその三つの太刀に食らいつく。
「クソがっっ!!」
タリッジは初見ではない。だが、だからといって、剣王風が神技に対応など出來ない。
三つの太刀筋から、重要度の高さで処理するべきものを選別する。
タリッジは大剣でエインズの本の左腕がす剣を打ち払う。
二つの刃がぶつかり合う激しい音と共に、エインズの持つ末な剣は刀が砕かれる。
が、魔力によって実化している二本の太刀が隙だらけのタリッジの太と橫腹を同時に切り裂く。
飛び退くように回避行を取るが、間に合わない。致命傷にはならないものの、が噴き出すほどの負傷を負う。
エインズは追撃しない。
タリッジは斬られた痛みに顔を歪ませながら、呼吸を整える。
「なるほどね、君はこれを神技と呼ぶのか……」
刀を砕かれたエインズはその柄だけになった剣を放り捨て、義足で數回地面を鳴らす。
直後、一本の太刀が地面から生み出される。
それに目を向けることなく平然とエインズは生み出された剣を手にする。
「神力、神技を使いながら魔法も使うなんて、お前、一、なんなんだ! どこでその神技をに著けた! なぜ習得できた! 俺がどう足掻いても辿り著けないその域にどうやってお前は!」
肩を上下にかしながら呼吸をするタリッジ。その揺れる目はエインズに向けられたまま。
エインズはエインズで困した。
タリッジの言う神力とは魔法文化サイドから見れば、ただの魔力。そしてその魔力作をもって強化をしただけのこと。神技もただの魔法である。
タリッジの口からは魔法士という言葉も出ていれば、火槍や氷槍などの魔法についても見たことがあるようだった。であるならば全く魔法について知らないわけではないのだ。
「……そうか。彼、もしかするとガイリーン帝國の剣士というのは魔法を厳に理解していないのかもしれない」
合わせて神力について、神技についても。それらはただ剣技を極限まで昇華させた頂にあるものと認識している可能がある。
エインズの中で、タリッジへの興味、剣に対する興味が急激に増していく。
魔法が剣という枠組みの中で、それに特化する形で長を遂げている事実。
そしてそれが神技という名で呼ばれる一つの文化に昇華されている事実。確かに捉えようによっては魔法であって魔法ではない。
エインズは、知らぬ間に自分の口角が上がっていることに気づく。
「……はは。そうかよ。魔法士であっても神技を使えるってのに、俺は……。なんだそりゃ」
対するタリッジは渇いた笑いをこぼす。
常人では持ち上げることもやっとであるクレイモアに目を落としながらタリッジは心境を吐する。
「神技は使えねえ。だから邪道と分かっていながら魔法を習得しようと思ってサンティアに來てみたらこれだ……。こんなんじゃ敵わねえ」
戦意をなくし、クレイモアを握る腕がだらりと垂れ下がる。
「あのクソ野郎の神技に、クソ野郎の首を獲るためだけに剣を握ったこの腕は神技を習得しねえ。魔法だって理解できねえ。剣技に使えるものも見當たらねえ……」
今タリッジの目の前にいるエインズはに欠損を多く抱え、普通に考えれば使いにならないどうしようもない人間。それがどうした。流派は違えども、上級の剣技を習得しながら魔法士と言う。タリッジが目にしてきた魔法士の中でも優れた魔法の使い手であることも理解できる。
そんな魔法士が魔法だけでなく、神力を使う。それもタリッジよりも洗練されたものを。加えて、タリッジが文字通り反吐を吐きながら剣を振るった腕では辿り著けなかった神技すらも使いこなしている。
タリッジの心の中で、何かが折れるような音がした。
格に難はあれど、タリッジは本來真っすぐな人間であった。
キルクでの橫柄な態度や、橫暴な振舞いは、彼が彼を取り巻く環境から目を背けた行であった。
タリッジは自分でもそれが下らないことだと理解していた。
いつになっても神技のその一端にもれられない事実や、剣士にはあるまじき邪道である魔法の習得も葉わない事実。それが焦りや苛立ちを生む。そして自分の橫暴が許されているというぬるま湯に浸かっている心地よい現狀がそれらの発散を全肯定する。
タリッジはいつの間にか腐ってしまっていた自分に気づく。いや、エインズと立ち合い気づかされた。
「君、なにか事があるようだね。ただ食べるためだけにサンティア王國まで來たわけじゃなさそうだ」
「……はっ。別にお前には関係ねえ。言ったところでどうしようもねえし、どうしてくれとも思わねえ。ただあるのは今のこの下らねえ人間になり下がった俺と、仇を取る資格すら手にれられなかった俺だけだ」
今でも筋質のをしているタリッジだが、全盛期からは考えられないほどに無駄なも付いてしまっている腕や手を見て笑いが込み上げてくる。
「……」
エインズは手に持つ剣を地面に突き刺し、手を離す。
「君、名前は?」
エインズの質問に、タリッジはいまだ自分の名前すら憶えられていないことに自嘲してしまう。
「タリッジだ。魔法士でありながら俺には屆かねえ剣士の高みにいるお前には覚える価値もねえ人間だ」
「そうか、タリッジね。あと、さっきも言ったけど、僕は魔法士じゃなくて魔師だよ。魔師エインズ=シルベタス」
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