《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》13

「はいはい、魔師ね。どっちでもいい。さっさと終わらせてくれ。どうせここを離れてもソビ家んところに戻れば何かしら処分されるだろうからよ」

タリッジはソビ家の従者としての貢獻度は低い。

その挽回のために聖をダリアスへ渡すという目的も、目の前のエインズが相手であればタリッジの仲間では失敗に終わるのが目に見えている。

タリッジは々と、諦観してしまった。

「ここまで僕の興味を沸かせてくれたんだ。誓約に縛られることはないけど、ここでさよならというのも僕の人間を疑われる」

その言葉にタリッジは一笑する。付き合いはかなり短いが、それでもエインズの口から「人間」という言葉が出るとは思わなかったし、まるで似合わない言葉を使ったからだ。

タリッジは落としていた顔を上げ、エインズを見つめる。

自分とは違い、汗もかいていなければ負傷もしておらず涼しい顔をして立っている彼を。

その時、エインズが言葉を紡いだのをタリッジは聞き取った。

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「——限定解除『からくりの魔眼』」

白濁としたエインズの右の瞳が側から滲むようにして真っ赤に染め上がる。

まるでを吸ったのではないかと思えるほどに鮮やかな紅。

「……なるほどね」

その真っ赤な視線がタリッジを貫く。

「……タリッジ、君はこんなところで諦めるのかい?」

タリッジが赤い瞳に見據えられてからししてからエインズから聲を掛けられた。

「はあ? お前には関係ないだろう。俺はもう、……無理だ」

タリッジはもう、自分がここから先に行っているビジョンが見えないのだ。

「君の求めるところ、それを僕が教えてあげよう」

「なに?」

眉間にしわを寄せながらタリッジはエインズを見つめる。

「すぐに、とはいかないだろう。だけど僕は、君にその先を見せることは出來るだろう」

「お前、正気か? それとも俺を馬鹿にしているのか?」

ここでエインズに話す意義もないが、これでもタリッジは剣に関してはの滲む努力をしてきた。並の人間では想像できない程のものを。全ては彼の目的を果たすために。

「魔師としてここにいる僕が言っているんだ。冗談や酔狂で言うわけがないでしょ?」

「今更、他人に教わったからといってどうにも——、」

「タリッジ、剣を持て。今から『問答』を始める」

はっとしてタリッジは剣を持ち、構える。

エインズの雰囲気ががらっと変わった。これまでとは比べにならないほどの威圧を放っていた。

冷や汗が噴き出しているのをタリッジはじた。

「……オーバーヒート」

エインズの全から魔力が噴き出し始める。で込めていた魔力が、その膨大な量がには収まりきらず溢れ出ているような。

「略式詠唱『同時再演』」

先までは左肩口から魔力により実化した腕を発現していた。

この魔法は何を、どの範囲において再現するか自在である。しかし広範囲での再現、再演はそのきの複雑さが増すことにより実化の効果が反比例的に薄くなってしまう。

ゆえに高い効果で再演するには腕などの局部的なものにしなければいけない。

だが、今回エインズが再演するのは左腕だけではなかった。

魔力によって実化されたそれはエインズ自の威圧すらも放つ分。その本と二それぞれに髪の長さ等、細かなところで違いがあったがそれらは確かにエインズであった。

「……神技『真・三重』。はっ! なんだそりゃ。心底笑えてきやがる……」

だが、エインズのその碧眼・赤眼が真剣さをもってタリッジを見つめている。これまで向けられなかった関心をこれまでにないほどにタリッジに向けている。

それがタリッジには嬉しかった。

彼の直が再び彼に語り掛ける。

これから、ここから、タリッジは一歩も二歩も先に進めるはずだと。

「タリッジ。君は君自の力で神技に昇華させる必要がある。だけどそれに必要な『問答』は僕がしてあげるよ」

エインズらがタリッジへ飛び込んでくる。

そのどれもがタリッジのきを全て完全に読み切ったきをする。フェイントも効かない。不意打ちも意味をさない。

まるで心眼の極致。剣士の最高峰。

「敵いっこねえ。だけど、おもしれえ!!」

タリッジの心臓が高鳴る。が震える。武者震いする。

剣を初めて手にした子が剣豪と打ち合うように、一方的で無様な剣戟だったがタリッジを駆り立てた。

「これは……、さすがに」

ソフィアはシアラの後ろで呟きをらす。

目の前の景に絶句するしかなかった。

シアラがるその『炎』のなりをした魔という得の知れない力が一方的に殺していく景にソフィアはかなかった。

幾人もいた敵のそのどれもが、一瞬にしてその命を刈り取れたはずの炎は発狂するほどに苦痛を覚えさせた後で奪い去る。

自由自在にき、形を変える死神の鎌。地獄の淵で燃える炎。

それが小さなのその元を源に生み出される。

不思議なほどに、不気味なほどに風が吹き抜けないここは、人の焼ける異臭だけが漂う。聞こえるのは遠くで聞こえるエインズとタリッジの剣戟の音と敵の悲鳴や嗚咽、斷末魔と、の焼ける音。

炭化した臓が地面にいくつも転がり、原型はないがぎりぎり形を殘しているを、シアラは目も背けず踏みつぶす。

大の大人でも慣れない、吐き気を催す非日常的な凄慘な景にシアラは溶け込んでいた。

殘る數はわずか二人となっていた。

炭化しても形をこの世に殘しているのもわずかで、他の多くの者は灰すら殘さず燃やし盡くされたのだ。

「……次はおまえだ」

シアラのそのく短い腕が、ガクガクと笑う膝でやっとの思いで立ちながら剣を震えながら持っている男に向けられた。

男はすでに目の前の景に涙を垂れ流し、向けられた若々しい手に恐怖を覚え、その恐怖に心臓を鷲摑みされる。

鷲摑みされた心臓はうまくかない。

呼吸もままならなくなり、過呼吸気味になり苦しみを覚える男。

「……せ、せめて、一思いに……、たの、むからあぁ」

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