《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》20

「ここまで來ればひとまず大丈夫でしょうね」

「スラムの方には來たことがなかったが、こんなにも広いところだったんだな」

エインズとキリシヤ、セイデルに加え、リーザロッテと王國騎士に囲まれ窮地に立たされたダリアスとルベルメルだったが、ダリアスがエインズの助力もあり魔に目覚めたことですることができた。

今ダリアスら二人は、魔學院があった王都の北東部から最も離れた位置にある南西部スラム街まで抜け出してきたところだ。

一般街區にったときは人混みにまれ思うようにけず時間を費やしてしまったが、西部の商業區に出てからはスムーズだった。

學院を離れてそれほど時間も経っていない。それでも今ごろは國王やそこに連なる王國の中樞に伝えられているところだろう。

手配書がまわるまでにはまだしばかり余裕はありそうだとダリアスは一息つく。

「それで、これからどうするんだルベルメル」

「まずは汗を流しましょう、ダリアス様。私、書庫では冷や汗に脂汗、こちらまで駆けたせいで汗だくになってしまってございます」

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「そんなことをしている場合か?」

「急いては事を仕損じますよダリアス様。せっかく窮地をせたのです。ここはまず落ち著くとしましょう。私達の報が広まるにはまだし時間があることは、貴方も分かっているでしょう?」

まるでダリアスの心中を読み取ったかのように話すルベルメル。ダリアスはそんな彼との會話にいまだ慣れず、変な気持ち悪さを覚えていた。

「……そうだな。これからどこに向かうのか分からないが、長い旅路になるのなら當分満足にを洗えないだろうからな」

スラム街といっても、すぐ橫は商業區。南に下っていかなければ飲食店や宿などもそれなりに並んでいる。

「そういえば、この辺だったな。この前の原因不明の火事で一帯まるごと焼失してしまったのは」

そしてダリアスの従者であったタリッジがエインズの側についた事件でもある。

終わった話ではあるが、ダリアスにとってはふと思い出してしまう出來事。

「寄りますか?」

「……いや、いい。僕にとってはきっかけになった場所だったが、今となってはもう捨てていかねばならん殘滓だ」

「……」

ダリアスらが立っているところからもうし南に行ったところが焼失した現場である。

ダリアスは南を背にし、ルベルメルの顔を見る。

対して、きょとんとした顔でダリアスを見つめるルベルメル。

「ルベルメル、僕の名前はなんだ?」

「はい? ダリアス様でしょう?」

ルベルメルの目にはダリアスが映っている。

ダリアス=ソビ、ではない。

「そうだ、僕はダリアスだ。……向かおうかルベルメル。お前の知っている浴場は良いところなんだろうな?」

「……ふふ」

ダリアスの問いの意味が分かったルベルメルは、そこに魔に目覚め一皮むけたダリアスに殘る可らしさを見た。

何を笑っている、とダリアスがルベルメルに怪訝な顔をするがルベルメルは「いいえ、なにも。ダリアス様」と浴場へと先導する。

ルベルメルを先頭に二人は並ぶ建の一つにった。

三階建の建の一階に付があり、話をするルベルメルを後ろからそわそわしながらダリアスは観察する。

浴場ということもあり、建の中はじめじめと度が高い。

「ダリアス様、個室を取りましたので行きましょう」

「……あ、ああ」

初めてくる場所にダリアスは勝手が分からずぎこちない。

尋ねたいことが多くあるダリアスだが、今はルベルメルに任せているため、黙って彼についていくしかない。

木札を手にするルベルメルの後ろを歩き、ダリアスは付の橫を通ってうす暗い廊下を歩く。

廊下の先にはいくつも似たような無骨なデザインのドアがならんでいた。違いがあるとすれば、各ドアに番號が振ってあり、その數字の違いくらいだ。

ドアの前を通り過ぎる際に、中から悲鳴のような喜悅のようなの聲がかすかに聞こえてくる。

中で何が行われているのか。ここは浴場ではないのか。廊下のうす暗さに、じっとりとにまとわりつく気がダリアスを寒心させる。

「……な、なあルベルメル。この上はなんなのだ? 浴場が一階なら二階、三階はどうなっている?」

言葉の端々からダリアスのを読み取るルベルメル。

「この上は宿になっているのですよ? といっても、一泊もせず後にする方のほうが多いと思いますが」

「どういうことだ?」

「あら、ダリアス様は初めてなのですか? そうですか、それはいけませんね。高貴な分を捨てたダリアス様が一般市民の文化を知らないままでは」

艶っぽい聲で話すルベルメルに、意味も分からず眉間に皺を寄せるダリアス。

「……つきましたね。ここです」

ルベルメルは気に強い木で作られたドアを開けて中にる。

中は人數にして三人はのびのびとれるであろう大きさの浴槽に、々広すぎる洗い場になっていた。

ルベルメルの言っていた通り、個室である。

個室だが……。

「お、おい! 仕切りがないじゃないか。これでは僕がれないではないか! それともお前がらないのか?」

聲を上げるダリアスだが、ルベルメルは気にせず後ろ手にドアを施錠し、徐に著ている服に手をかける。

平然と服をいでいくルベルメル。

「ダリアス様。一般市民がどのようなところに住んでいるのかご存じですか?」

「きゅ、急になんだ? そして、どうして服をぎ始める!」

すぐさまダリアスは顔を背けるようにルベルメルから視線を外し、床の一點を見つめる。

「一般市民は、浴室が備わっていなければ壁も薄い雨風を凌ぐ程度の末な住まいで暮らしているのですよ」

はらり、とルベルメルの服が床に落ちる。

小さい音だが、いやにダリアスの耳に屆く。

「それとこれとでどう関係していると言うんだ!」

「では、そんな男はどこですると思いますか? そんな周りが気になる狀況で月の時間を過ごせると思いますか?」

下著がれ音を立て、ぎ捨てられる。

「お、おい! まさかお前!」

そこまで言われてダリアスは察した。ここがどういった場所なのかを。

「どうぞ、いつまでも突っ立っておられないでダリアス様もおぎになってください」

ルベルメルを視界にれていないダリアスには見えていないが、既にになったルベルメルがぺたぺたと歩き、「でしたら先にっていますね」とダリアスの橫を通り過ぎ浴槽に浸かる。

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