ダリアスはルベルメルが橫を通り過ぎる瞬間、すぐにルベルメルとは反対に顔を背ける。

ルベルメルが浴槽にったことにより湯が波打った音が聞こえ、ダリアスはそのままけなくなってしまった。

その場をけないダリアスと、湯に浸かるルベルメル。

二人だけの浴室に長い沈黙が続く。

ダリアスにはその沈黙が、湯気が立ち込める中で服を著ているのも相まって居心地の悪いものである。

「……ふふふ、々からかいすぎましたね。背中を向けてっていますので安心してくださいダリアス様」

ルベルメルのリラックスした聲が聞こえ、ダリアスは恐る恐る目を浴槽の方へ向ける。

彼の言葉通り、ルベルメルはダリアスに背中を向けるようにして浸かっていた。

「ここは先ほど話したような男の場所ではありますが、その分金額が安いのですよ。湯に浸かって気を落ち著かせる必要はありますが、だからといって豪遊は出來ません」

「……それもそうだが」

「そもそも私は人未満の男子を守備範囲にしていませんので取って食ったりなどしませんよ。……どうしてもとおっしゃるなら嗜み程度にお教えいたしますが、私の経験も我ながら世間一般的なものではないと認識していますので、ダリアス様にとって——、」

「分かったから靜かにしてくれ」

聞きたくもないルベルメルの行為経験を危うく事細かに聞かされるところになり、話半ばにダリアスが遮る。

「これは失禮しました」

まるで悪びれる様子もないルベルメル。

仕方がないと覚悟を決めたダリアスは、とうとう服をぎ始める。

途中、ルベルメルがこちらを振り向くのではないかと警戒していたダリアスだったが、それは幸いにも杞憂に終わる。

足でゆっくりと浴槽へと向かったダリアスは、湯に手をつけ溫度を確認する。

さすがは浴場として金銭をとっていることだけはある。熱すぎず、湯はを十分にほぐせる適溫に調整されていた。

「るが絶対にこちらを振り向くなよ」

「ええ、分かっていますよ」

ダリアスの視界にっているルベルメルは、髪が綺麗に切り整えられた後頭部と肩がし見えるだけ。

足先からゆっくりと湯に浸かっていくダリアス。腹部くらいまで浸かったところで浴槽から湯が溢れる。

張していたダリアスだったが、肩まで浸かるとがまるで湯に溶け出すように筋繊維一本一本が弛緩していく。

特に肩が顕著だった。

無意識のうちにかなり強張っていたのだろう鳶肩が、なだらかなものに戻る。

筋のほぐれを自でもじたダリアスは、ルベルメルの「急いても仕損じるだけ」という言葉を今なら頷けた。

どこまで行くのか分からないが、ここから先は長い旅路。加えて簡単な旅ではない。お尋ね者として、四六時中周りを警戒しながらの長旅だ。心ともにかなりの負荷がかかることが予測される。

湯に浸からずに旅を始めていれば、ルベルメルはそれでも問題ないだろうが、ダリアスは神かかそれとも両方か、間違いなく途中でガタが來ていただろう。

彼に謝せねばな、とダリアスが心の中で呟いたところでルベルメルが不意に話しかける。

「お加減はどうですか？」

まるでまた心の中を覗かれたのではないかとじたダリアスは思わず、崩していた上を真っすぐに直す。

ダリアスが上を起こしたことによって、張っていた湯に波が生じた。

それによってルベルメルの肩先からし下、背中が波の合間に見え隠れする。

「っ！」

ルベルメルのが見え、どぎまぎするダリアスだったが、すぐにその見慣れぬものに目が留まる。

「……おい、ルベルメル、その背中から肩にかけてある線は何なんだ？」

傷痕というわけでもなさそうで、蜿蜒(えんえん)とした曲線。

「おや、私にはダリアス様を見るなと言っておきながら、貴方は私のを見ていたのですか？　抜け目がないのですね」

「そんなことはいい。お前のそれ、怪我ではないのだろう？」

「それ、とだけ言われても普通は分からないものですが、この狀況においてダリアス様が言うそれが何を差しているのか分かりますね」

ルベルメルはダリアスの見ている目の前で立ち上がり、湯で隠れていたから上をわにした。

「っ！？」

言葉も出ないダリアスを待たず、ルベルメルは振り返る。

口を開けて呆然とルベルメルを眺めるダリアスは、その視線を彼の首、、腹、腳部へと移し、そしてまた上っていくように彼の顔にまで視線が戻る。

ルベルメルのを水滴が、彼のらしい丸みや曲線に沿って滴り落ちる。きめ細かなの上を雫が重力に従いるようにして垂れる。

ダリアスに対して真正面に立っているルベルメル。當然ダリアスは彼の、特有の膨らみや腰のくびれを目の當たりにすることになる。

ダリアスにも年頃の男子が覚える気恥ずかしさがあったが、今彼の目に留まっているのはルベルメルのらしさではない。

「……お前、それ……」

「私の魔、……いいえ違いますね、ダリアス様やエインズ様の『魔』を見て悟りました。私の魔法は々クセが悪いと言いましたが、こういうことでございます」

両手を広げて、ダリアスの目の前でくるりと一回転するルベルメル。

彼のには、黒い蜿蜒とした曲線がまるで模様を描くように前に後ろに上へ下へと走っていた。

異のを目の前に、ダリアスはその模様に目が行ってそれどころではない。

「私、自分が持つ魔力を作するのが大変苦手でしてね、と言いますか、絶的に出來ないのです。ですから、本來魔法が使えないのです」

「だがお前は、先ほど……」

ダリアスが差しているのは、書庫でのセイデルとの対敵。

「はい、魔法を使いました。発現できない魔法を、発現させました。そのための『これ』なのです」

「これは、なんなんだ？」

「この黒線は式なのですよ。この黒線全てで一つの魔法のための式。私自が『相克』の式をしているのですよ」

ルベルメルは笑いながら「ですから私は『相克』の魔法しか使えません。その他、上級はもちろん中級魔法も、初級の火球ですら発現できません」と続けた。

「……お前自が、魔法の、式……」