《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》23

セイデルは魔力を纏わせ強化していた腳を前に踏み出すと同時に、地面へ無形の魔力を放出する。

その腳がストッパーとなり、停止できたセイデル。付隨して砂塵が舞い、エインズの視界を遮ることに功した。

エインズによる魔法の消去、これがどういった原理なのか分からないセイデル。

「(しかし魔を制限しているということは、あれも魔法であることはたしか)」

舞った砂塵によりエインズがセイデルの姿を確認できていない間に、セイデルは地面に氷槍の式を記す。

彼は魔法のマルチキャストが出來ない。加えて、マルチキャストに必須となる限りなく簡略化された式展開方法もに著けていない。

そのため不格好になってしまうが、こうして式を地面に記しているのだ。

砂埃が晴れつつあり、うっすらとエインズの影が現れ始める。

どうやらあれからもエインズはその場をいていないようだ。

「『冥府に流れる炎の川。死して殘りし魂が、還ることを決して許さず。生は灰に、死は灰に。ただ踴るは業火の炎。善人も悪人も後を踴らず』——炎地獄」

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セイデルが得意とする上級魔法、炎地獄。

それをエインズにぶつけるつもりなのである。

砂埃が完全に晴れて、エインズとセイデル共に互いの姿が見えるようになった。

「炎地獄ね。セイデルさんは炎魔法が得意と見えるね」

エインズは左手を前に出す。

セイデルは察する。エインズは間違いなく先ほどの魔法解除を行ってくると。

「させません!」

セイデルは魔力を腳に纏わせ、無形の魔力を地面に放出する。

「うん?」

エインズは、またセイデルが砂塵で視界を遮るつもりなのかと思ったがそうというわけではないようだ。

砂塵が巻き起こらない。

エインズは目を細めて、セイデルの足先を見る。

放出された地面には式が描かれている。

「いつの間に? さっきの砂埃の間にか」

天高く渦巻く炎龍。荒々しく炎の鱗を散らしながらエインズに牙を剝く。

その炎龍の周りを囲うように宙を浮く氷槍。

「考えたね。確かに僕の解除魔法は視認した一種類の魔法に対してのみにしか働かない」

エインズが回避行を取るよりも氷槍の速度の方が速い。

エインズは解除の対象を氷槍に定める。

「『解除』」

だが、すぐにセイデルの炎地獄がエインズに差し迫っている。

じわりと汗がにじむほどの高溫。

地面の砂は黒く燃え盡き、僅かに混じった砂鉄は一瞬赤くって燃え盡きる。

「上級魔法には上級魔法をぶつけてみようかな? ルベルメルさんの水剋火とは言わないけどね」

義足を鳴らすエインズ。

一瞬で氷地獄の式が展開される。

瞬く間に氷の世界に、真っ黒な焦土を銀に染め上げる。

幾重にも層を重ねた氷の柱は炎龍とぶつかり拮抗する。

「これでよし、かな」

エインズは炎地獄を防ぎ、目を離す。

だが、エインズが視線を向けた先にセイデルはいない。

(移した? となれば……)

すぐに背後を振り返るエインズ。

セイデルは指先をエインズに向けながら魔法を発現させる。

指先を激しく瞬かせ、目を焼かんばかりの線が走る。

——ライトニング。

エインズは避けられない。

「『解除』」

すぐに解除魔法を使用するエインズ。當然ライトニングはエインズのを貫く前に途絶える。

「それだけではありませんよ」

ライトニングを解除したエインズだったが、対するセイデルは汗を滲ませながら不敵に笑う。

エインズの背後、拮抗していた炎地獄と氷地獄は互いに相手を潰し合うような形で砕する。

炎地獄はのたうつように炎の鱗を辺りにまき散らしながら。氷地獄は瓦解し氷塊に崩れながら。

その間をって、セイデルが予め展開していた火槍がエインズの背後を迫る。

初めの氷槍もエインズの視線、注意を炎地獄へ向けるためのもの。

「(エインズ殿なら間違いなく炎地獄を対処すると思いました。ならばその後、自の狀況を確認し直します。私の姿が見えないと分かればまずは死角の確認に走ります。つまり、自の背後を)」

エインズの背中を貫かんとする火槍。

「(背後にまわっていた私を確認したこと、その死角を対処したことによる安堵。技で劣る私では、エインズ殿のこの一瞬の安堵という隙を狙った一撃しかありません)」

獲った! と歓喜するセイデル。

セイデルの死角からの一撃は、エインズの背後からを打ち抜いた。

目を見開き、驚きに満ちた表で地面に倒れるエインズ。

その姿を確認して、震える手でポーションを取り出すセイデル。

「高みはしていませんでしたが、まさかエインズ殿に一撃浴びせられるとは思いませんでした」

手合わせのつもりが白熱してしまった。

本來であれば、互いに寸止めで終了するものだが、セイデルとエインズの実力差である。セイデルがエインズを打ち取るほどの覚悟をもってして立ち向かわなければどうにもならない程である。

だが、ふたを開けてみればエインズを打ち取ってしまった。

猛烈に喜びのが沸きあがるセイデルだったが、すぐにその狀況に頭が冴える。

ポーション片手に、うつ伏せに倒れているエインズの背中をるセイデル。

「エインズ殿、申し訳ありません。すぐにポーションをかけますので!」

ポーションの蓋を開けるセイデルだったが、

「必要ありませんよ、セイデルさん」

「っ!?」

その聲はセイデルの背後からした。

目の前で倒れているエインズからではなく。だが間違いなくその聲はエインズのものだった。

まるで理解できないセイデルのその肩にエインズの左手がぽんと置かれる。

手の置かれた方に振り向くセイデルのその頬をエインズの指が突いた。

「同時再演、あれは魔力ですよ。かなり魔力を消費しましたけどね」

立っている方のエインズの言葉に、セイデルは伏せているエインズの姿を橫目に見る。

すると、その役割を果たしたと言わんばかりに青白い粒子となって消えた。

「……參りました」

肩の力が抜けるセイデル。

ポーションの蓋を締め直し、本のエインズと向き直る。

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