《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》27

「ガウス団長、カンザス=ブランディ侯爵がいらっしゃいました」

「分かった。こちらに案してくれ」

ここはアインズ領、銀雪騎士団の會館その一室である団長室。

著ている服を元で開けさせ、そこから悍な板を覗かせる短髪の男は銀雪騎士団の団長にして、アインズ領の統治を代理しているガウス。

書類の山に向かい、ペンを走らせていたガウスは部下の連絡に手を止めて椅子から立ち上がる。

程なくして部屋のドアが外からノックされる。

「どうぞ」

短く息を吐いてから応えるガウス。

開かれた先には部下に連れられた、優しい雰囲気を醸し出す男。その顔つきも優しさに穏やかさを見せた、対した相手に近寄りやすさをじさせる。

「(……カンザス=ブランディ)」

そんな外見とは裏腹に、王都キルクの政治というどろどろと底が見えない伏魔殿を長きにわたり生き殘っている強者。

実力はさることながら、その政治力や嗅覚は類いまれなものである。

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王都の派閥が、王族とソビ家そしてブランディ家の三つに分かれるほどに大きな力を持っている人

である。

「お忙しい所かたじけない、ガウス団長。わざわざ私のために時間を設けてもらい大変有難い」

「こちらこそ侯爵様にこんな辺鄙なところまで遠路遙々お越しいただいて恐悅至極。さあ、どうぞおかけください」

カンザスが來客用ソファに腰を下ろしたのを確認して、テーブル越しにカンザスに向かい合うかたちでガウスも腰掛ける。

「私も魔法士の、やはりアインズ領にりますとが引き締まりますね」

朗らかに語り始めるカンザス。

「カンザス様でもそうですか。私どももアインズ領を築き上げた先達らに恥じぬよう常にを引き締めていますから同じようなものですな」

ははは、と笑いながら答えるガウス。

カンザスを連れてきた部下は、テーブルの上に二人分の水が注がれたグラスと水差しを置いて部屋を後にする。

「こうあれでは、互いに心のを吐き出せないでしょうから、ここはどうでしょうかガウス団長。お互い嵐の中にを投じている仲、ざっくばらんに行きましょう」

「……まあ、そうですな」

カンザスは知っている、銀雪の魔師にして魔神と稱されるアインズ=シルバータの正がエインズであることを。

そしてその容は王都にいるソフィアからガウスも連絡をけ取っている。

「ガウス団長、単刀直にいきますが我らブランディ家と協力関係になっていただきたい」

真っすぐガウスの目を見て話すカンザス。

「我々アインズ領は王國に対していつも協力的でございますが? あまり値打ちをこきたくないのですが今の生活水準があるのもアインズ領発祥によるものが大きい。これが協力でなくてなんとしますか」

「ええ。今では當たり前になってしまっているこの環境、これもすべて銀雪の魔師と悠久の魔、そしてアインズ領によるもの。皆が平和に笑っていられるのもそのおかげです。だが、私が言っているのはそういうお話ではなく」

ガウスも分かっている。

カンザスが何を言わんとしているのかを。分かったうえで明後日の方向に話を持って行った。それにカンザスが乗ってきたならばそれはそれでいい。

つまりは、ガウスは線を引いたのだ。

互いにエインズの正を知る者同士、カンザスはアインズ領の人間ではない。今なら線を越えてこちらに來ることもせず引き返すこともできる。

わざわざカンザス自らアインズ領まで出向いている時點でそれなりの覚悟があるのだろうが、それでも最終勧告はしておくべきだ。

ガウスは一口分、水を飲んでから口を開く。

「カンザス様、貴方は何をんでおられる? 王國における絶対的な力か。次の玉座か?」

伏魔殿の猛者を相手に鋭い視線を飛ばすガウス。

「私が求めるのはただ一つ、皆が求める平和の実現」

「……」

「ガウス団長もご存じだろう、今の王國部における力関係は三分している。恥ずかしながらその一つが我らブランディ家だ。しかしこの狀況は健全ではない。絶対的統治者はおらず、各派閥が牽制し合い、金をかき集め、力をかき集めているこの狀況。必ず自壊する。その歪みがどこに出るかは自明の理。今の王家もよくやっているとは思う。だが、この平和は亀裂がり綻び始めている基盤の上でり立っている」

その基盤の壽命も近い、とカンザスは結んだ。

ゆっくりとグラスに手をばし、手にしたグラスを傾け、水を飲むカンザスの作に一切の震えも躊躇もない。

「絶対的統治者の是非、これに我らは関與するつもりはありません。ですが、絶対的統治者を是とするならば、それは賢明王でなければならないことは確か。カンザス様はそうなるおつもりか?」

「私でなくてもいいのですよ。ただ、現狀を考えると私がそれをすのが一番だと考える。私の娘と同じ歳くらいのハーラル王子やキリシヤ王もいらっしゃる。だが、彼らが統治する次世代で間違いなく基盤は崩壊する。ソビ家がそうさせる、そして巻き込まれるかたちでブランディ家もその中にっていく」

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