《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》28 第3部2章 終
首を橫に振りながら溜息をつくカンザス。悲しいことに今を真に平和と考えている彼らにそのはないでしょうね、とカンザスは目を伏せながら語った。
「侯爵でしょう? 王國のため、平和のために働くのが王國貴族の役目なのでは?」
「代を重ねればは薄まる。代を重ねればその威厳も薄まる。私が今侯爵として働いているのは、王家のためではなく王國のため。貴族とは王家のためではなく、王國のため市民のために注力する、それこそが私が考えるノブレスオブリージュ。その過程で私が玉座に座ることになるのでしたら座りましょう。聡い王となる必要があるのでしたら『私』を捨てて賢明王になりましょう。ガウス団長、今こそ私がける最初で最後の時なのです」
真っすぐと一切逸らすことなくガウスの目をまじろぎもせず見るカンザス。
そこに彼の覚悟が見て取れた。
ガウスは大きく息を吐いて、カンザスのそれに応える。
「……我らが歩むのは方が歩んだ轍。アインズ様——、いいえ、エインズ様がカンザス様の側におられるのなら、それもまた我らが向かうべき道なのでしょうな」
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「かの魔神、銀雪の魔師と時代を歩めるなど、非才のである私には栄の至りですよ」
「聖人シリカ様が殘した言葉が確かならば、行く先は修羅の道でございますがその覚悟もございますか?」
今度は逆にガウスがカンザスの目を見據える。
カンザスは靜かにガウスの言葉を飲み込む。
「既に私は、王城にて王族側に立つ悠久の魔相手に手袋を投げてございます」
「それだけの覚悟、……カンザス様は魔師のでございますな」
テーブルを挾んで、ガウスはカンザスに右手を差し出す。
カンザスも右手を差し出し、互いに力強く握り合った。
〇
「ではエインズ殿、お達者で」
「はい、カンザスさんにわざわざ見送ってもらえて嬉しいですよ」
キルク東部に位置するブランディ侯爵別邸、その門の前でエインズとカンザスは握手をわしていた。
エインズの橫にはソフィアとタリッジが並ぶ。
「エインズ、向こうであんまり騒ぎは起こさないようにね。一応、わたしの従者になった流れもあるんだからこっちにまで火のが降りかかるのよ」
「分かってる分かってる。僕だってその辺の常識くらい弁えているさ」
ライカの言葉に堂々と頷いてみせるエインズ。
しかしカンザス含めライカも彼の言葉を信用していない。
「ソフィアさん、頼みますよ? エインズは絶対暴走しそうになるんだから」
「もちろんですよ。私はエインズ様の従者ですから。主の補佐は私の役目、お任せください」
「……いや、お前もあいつと一緒になって暴走しそうだけどな」
皮るタリッジに厳しい視線を送るソフィア。彼に目を向けられ、おどけて躱すタリッジ。
ブランディ家からもらった食料などの荷は、エインズが嵌めている指環をしたアイテムボックスの中に収められている。
道中の足しにしてくれと言われたため、エインズはその厚意に甘えさせてもらうことにした。
「けっこう長い間、お邪魔しましたカンザスさん。また向こうから戻った時にはお土産でも持ってきますから楽しみにしていてくださいね」
「ははは、港灣都市には久しく行っていませんからそれは楽しみですね」
「ライカも魔學院の講義も程々に聞き流して、僕が教えたように研鑽し続けなよ? 次に會った時に魔法士くらいになっていてくれれば萬々歳だ」
「そうね。わたしにも守るべき親友がいるからね。彼を余裕で守れるくらいにはなっておきたいものね」
そう言い切る我が娘を優しい目で眺めるカンザス。
「ではそろそろ行きます!」
エインズはソフィア、タリッジを連れて歩き出す。
立派な邸宅が並ぶ住宅街を歩き、曲がり角に差し掛かったところでブランディ邸に振り返る。
腰に片腕をやるライカに直立してまだ見送るカンザス、その後ろでずっと頭を下げたままのリステ。そんな彼らが小さく見える。
どんな時代も、旅立つ時は期待による高揚と若干の寂しさがれ混じった不思議な覚を覚える。それもエインズは嫌いではない。
彼らに大きく左手を振って曲がり角を曲がるエインズ。彼らが見えなくなり、これまでブランディ家にお世話になった時間を思い返しながら余韻に浸る。
新しい発見ばかりだった王都での生活。
魔法文化に、食文化。魔道の発展とその実生活への適応。
次に向かう港灣都市にも期待を膨らませるエインズであった。
「エインズ様、港灣都市に向かう前に一般街區でお食事でもしていきませんか? 腹が減っては何とやら。長い旅路に力は重要です」
と、ソフィア。
「お前、食い意地張りすぎだろ。主以上に従者の方が食道楽に旅をしてどうするんだか……」
と肩をすくめるタリッジ。
「な、なんだと!? 私は別にそんなつもりはなくてだな、タリッジ! 貴様にはエインズ様のおを思う私の——」
早口でまくし立てるように言葉を走らせるソフィア。
またいつものようにソフィアとタリッジの言い合いが始まるのだろう。
神妙な面持ちで王都との別れを偲んでいたエインズだったが、それも二人によって吹き飛んでしまった。
今回の港灣都市までの旅路もまた、退屈しなさそうだと思うエインズであった。
いつも拙作をお読み下さりありがとうございます。すずすけ でございます。
ここまでで第3部が終了となります。
続く第4部でございますが、また投稿までにお時間を頂戴してしまうため
投稿再開までの期間が空いてしまいますがご了承の程、お願いいたします。
お付き合いくださりありがとうございます。
しでも楽しんでいただけたなら幸いにございます。
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