《【書籍化!】【最強ギフトで領地経営スローライフ】ハズレギフトと実家追放されましたが、『見るだけでどんな魔法でもコピー』できるので辺境開拓していたら…伝説の村が出來ていた~うちの村人、剣聖より強くね?~》第10話 『戻ってきてくれ』と言われてももう遅い
早朝。
僕は、村の周りを走っていた。伯爵家にいたころからの、毎朝の鍛錬だ。
村の周りを3周したあたりで、丁度村の正門に馬車が止まるのを見つけた。
「あれは……」
馬車から降りてきたのは、なんと弟のカストルだった。
「カストルじゃないか! どうしたんだ、わざわざこんなに遠いところまできて」
「くっくっく。思ったより元気そうだな、メルキス兄貴」
――なるほど。
まだ僕がいなくなって2日目だというのに、カストルはもう淋しくなって僕に會いにきてしまったんだな。
本當に、かわいい弟め。
「まさかまだメルキス兄貴が生きてるとはな。強力なモンスターがうじゃうじゃ出て、食うものにも困るほど貧しい村だって聞いたから、てっきりもうくたばってたのかと思ったぜ。けっけっけ」
「カストル……!」
僕のことを心配してくれたのか、カストル。なんて心の優しい弟なんだ。
「心配ない。僕は大丈夫だ。一緒に來たマリエルも元気にしているぞ。今朝も、僕の腕を勝手に枕にして寢ていた」
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「マリエル王がメルキス兄貴の腕を枕に!? もしかして、一緒のベッドで寢てるのか!?」
「ああ。昨日(の心を平穏に保つ修行)も激しかったぞ」
「は、激しかった? 激しかっただと……!?」
カストルが何やら悔しそうな顔をしている。そうか。カストル、お前ももっと上のレベルの修行に挑みたいんだな。
修行から逃げていたカストルが、修行に前向きに取り組めるようになったようで僕はうれしい。
「ま、まぁいい。それよりも、父上から伝言だ。『どうしてもロードベルグ伯爵家に戻って來たいというならば、今だけ特別に許してやらんでもない』とのことだ」
「戻って來てもいい、だって……!?」
なるほど。
これは――
父上も、僕のことを心配してくれてるんだな。
修行が辛くて、どうしても無理で挫折してしまったなら、修行を斷念して帰って來てもいいということだ。
「どうだ? 父上の優しさに謝して、泣いて喜べよメルキス兄貴。俺もまぁ、帰ったほうがいいんじゃないかなー、と思うぜ」
かつてないほど父上との、カストルとの絆をじる。気を緩めると、涙があふれてしまいそうだ。
きっと父上とカストルも、僕がいなくなって淋しがっているのだろう。僕がいなくなった後のロードベルグ家の様子が目に浮かぶ。
『父上、メルキス兄貴がいなくなって俺は寂しいです』
『寂しいだと!? カストル、々しいことを抜かすな!』
『そういう父上だって、メルキス兄貴がいなくなってから食がだいぶ無くなってるじゃないですか』
『ち、違う! これはダイエットだ! メルキスがいなくなったくらいで、俺は寂しがったりなど、寂しがったりなどしない! ……だが、メルキスが早く一人前になって戻ってきてほしいと思うのは、確かだ』
――きっと2人はこんな會話を繰り広げているに違いない。
僕も戻りたい気持ちはある。
だが僕はまだ半人前。修行を終えて一人前になるまで、ロードベルグ伯爵家には戻れない!
「カストル、父上に伝えてくれ。僕は(修行を終えて一人前になるまで)ロードベルグ伯爵家に戻らない、と」
「(巨王様とのイチャラブ辺境スローライフが楽しすぎるので)ロードベルグ伯爵家に戻らない、だと……!?」
カストルが歯ぎしりする。そうか、そんなに僕に戻ってきてほしいのか。淋しがりな弟だなぁ(でもそこがかわいい)。
「用はもうないな? じゃあ、僕はランニングに戻るよ」
これ以上ここでカストルと話していると、涙があふれてしまいそうだ。僕は走ってその場を後にする。
「心配してくれてありがとうございます父上。ですが僕は大丈夫です、何としてもこの試練を乗り越え、一人前になって見せます!」
僕は決意を新たにし、これまでより一層試練に熱意をもって取り組むのだった。
――――――――――――――
――翌日。
「只今戻りました、父上。メルキスは『ロードベルグ伯爵家に戻る気はない』と言い切りました」
「なんだと……!? ハズレギフト持ちの分際で生意気な! 絶対に許さんぞ!」
カストルからの報告をけたメルキスの父ザッハークは、額に管を浮かび上がらせて激怒していた。
「こうなれば力づくだ! 多金が掛かるが仕方ない! 俺の裏のコネクションを使って、メルキスに刺客を送り込む。殺しはしないが、領主が務まらない程度に再起不能にしてやれば、メルキスも戻ってこざるをえまい!」
「流石です父上! なんとしてもメルキスを呼び戻してマリエル王と結婚させて、ロードベルグ伯爵家を侯爵に引き上げて貰いましょう。へっへっへ!」
二人は笑いあう。
しかし、この選択もまた失敗に終わり、ロードベルグ伯爵家は破滅へ一歩近づくことになるのだった。
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