――お祭りの翌日。村のあちこちでは、煙が上がっている。

代で番をしながら、鶏をあぶってスモークチキンやジャーキーに加工しているのだ。

昨日食べきれなかった鶏は、これで長持ちする。加工している人たちは、みんな食べる時をたのしみに笑顔で手をかしている。

「た、助けてしいのニャー！」

そんな時、村の門の方から悲鳴が聞こえる。聞き覚えのない聲だ。この村の住人の悲鳴ではない。

「誰かがモンスターに襲われています！　助けに行きましょう！」

僕は鶏の加工をしていた冒険者さん達と一緒に、村の門の方へ向かう。

門の前では、小さな沢山の人影がモンスターに襲われていた。大きさは子供程度。服を著ているが、二足歩行するネコそっくりの姿をしている。

「獣人族の一種、キャト族か！　話に聞いたことがあったけど、本當にネコみたいだ」

そのキャト族に、巨大なモンスターが襲い掛かる。

トロール。人男の倍以上の長を持つ、巨大な二足歩行モンスターだ。手にした棒をキャト族の１人めがけて振り下ろす。

”パシンッ”

タイムロットさんが一瞬で間合いを詰めて、片手で棒をけ止める。

「お前さん、獣人かい？　噂で聞いたことはあるが、初めて見たぜ！」

トロールの棒を摑んだまま、タイムロットさんが吞気に話し始める。

「人間さん！　お話してる場合じゃないニャ！　まずはトロールを何とかするニャ」

「トロール？　ああ、こいつか？　こんなモンスター、気にしなくても大丈夫だぜ」

タイムロットさんが話している間にも、トロールがもう一度棒を振り下ろそうとする。だが、タイムロットさんがしっかりと棒を握っているので振り上げられない。

棒を何とか取り上げようとトロールが全の力を込めるが、ビクともしていない。

「ト、トロールを片手で完封してるニャ？　人間さん、どういう腕力してるニャ……？」

「ん？　雑魚モンスターの攻撃を片手で止めるなんて、普通のことじゃねぇのか？」

タイムロットさん達は、最近覚がおかしくなっている。

”グオオオォ！”

トロールが怒りの咆哮を上げる。そして棒を手離し、素手でタイムロットさんを毆ろうとするのだが……。

「うるせぇな、今話してるだろうが」

タイムロットさんの斧が、一瞬でトロールのを両斷する。

「に、人間さん強すぎるニャ……！」

森の奧から、更にトロールが出てくる。１のトロールが、村の若い冒険者さんに後ろから襲い掛かる。

「人間さん、後ろニャ！　後ろにトロールがいるニャ！」

若い冒険者さんは、腰の剣に手を掛ける。

「人間さん、早く避けるニャ！　避けないと、トロールに潰され……あれ、何が起きてるニャ？」

トロールのきがピタリと止まる。そして、の各部に、いくつもの橫線がっていく。積み上げたコインが倒れるように、バラバラとトロールのが崩れていく。

「ま、まさか一瞬でトロールを何度も斬りつけていたのニャ……？　全く！　全く見えなかったニャ！」

僕には、若い冒険者さんがトロールに十連撃を叩き込み、剣を納めるまでの一連のきがはっきりと見えていた。それも、瞬きの間のような一瞬の出來事だったが。

森の奧から、まだまだトロールが出てくる。どうやら、群れで行していたらしい。

「す、數十はいるニャ！　みんな逃げるニャ！　あの數で囲まれたら勝てっこないニャ！　もうおしまいニャ！」

「ネコさん達の言うとおりですぅ！　もうおしまいです、勝てっこないですぅ！」

キャト族さん達にまじって、ナスターシャも絶していた。ドラゴン形態に戻った君の方が遙かに強いんだけどなぁ。

「落ち著いて下さい。大丈夫ですよ。僕が片づけます、皆さん下がってください。発、”ファイアーボール”！」

特大の火球がトロールの群れの中心に突っ込んで、大発を起こす。発に巻き込まれたトロール達は、跡形もなく消滅した。森にはいつもの靜けさが戻る。

「戦闘終了。もう大丈夫ですよ、皆さん」

「人間さん、ありがとうございますニャ！」

キャト族の皆さんはそうお禮を言って……。

「駄目ニャ。お腹が減ってもう力がらないのニャ」

倒れてしまった。

――――――――――――

「生き返るのニャ～！　このお、とっっっっても味しいのニャ！」

「一週間ぶりのお食事が、に染みるのニャ～！」

「生きていて良かったのニャ！」

スモークチキンやジャーキーに加工しようとしていた昨日のをふるまうと、キャト族の皆さんはとても味しそうに食べる。球のついた手で用に食を使っている様子は、見ているだけで心が癒される。

「ありがとうございましたニャ！　生き返りましたニャ！」

キャト族の皆さんが丁寧に頭を下げる。可い。

「僕らは”ミケ商會”。キャト族で作った商會で、あちこちでを売ったり買ったりして商売をしているのニャ！　ただ、１週間前にモンスターに襲われて、荷も資金も全て失ってしまったのニャ……」

「一週間の間、逃げるだけで一杯だったのニャ」

尾と耳がしゅんと垂れ下がる。

「もうだめだと思っていたのですが、確かこの辺りに村があったことを思い出して、すがる思いでやってきたのニャ！」

「まさかこんなに大きな村があるとは思わなかったのニャ！　こんなに立派な村なのに、話を一度も聞いたことがなかったのニャ！　不思議ニャ！」

「それはそうだよ！　この村が大きくなったのは、ここ數か月の事なんだからね！　それも全部、私の婚約者メルキスのおかげだよ」

マリエルが得意げにをそらす。

「ええ！　數カ月で村がこんなに大きく発展したんですかニャ！？　信じられないニャ！」

「せっかくだから、この村を案してあげるよ！　さぁ、ついて來て。絶対に驚くんだから！」

「ニャハハ。ボク達はこの大陸のあちこちを旅して、々なを見てきましたニャ。それに、今日はもう沢山驚いたので、これ以上驚くことなんてないですニャ」

しかしキャト族のそんな余裕は、あっという間に消し飛ぶのだった。