「『本気を出す』だって？　兄貴、まだ本気を出してなかったっていうのかよ？」

「その通りだ」

僕は本気の斬撃を繰り出す。さっきと同じ型だが――

「馬鹿な、威力も鋭さもさっきより桁違いに上がってやがる……！」

カストルのが。闘技場の壁に叩きつけられる。

「グハッ……！」

カストルは、よろよろと立ち上がる。

「ふざけるな……俺はなんとしても、兄貴を超えるんだ！」

カストルのから、異質なオーラが溢れ出す。目が見えなくても分かる、これは邪悪な力だ。

「クク、力が湧いてきやがるぜ。あの男にもらった球、使えるじゃねぇか。命を吸い取るとか何とか言ってたが、その程度安いもんだぜ」

「あの男というのは一誰だ？　カストル、その力は危険だ。早く球を捨てるんだ」

「うるせぇ、指図するんじゃねぇ！」

カストルが斬りかかってくる。さっきよりスピードも威力が上がっている。

「これでやっと兄貴と互角になれたぜ」

確かに、互角だ。技の選択と切れ味では僕の方が上だが、カストルは【剣聖】のギフトと正不明の邪悪な力によってパワーとスピードが僕を上回っているため互角に渡り合えている。僕が呪詛魔法によってを重くされていることも大きな原因だ。

このまま長引くとカストルのに悪影響が出るかもしれないな。速攻で片を付けなければ。

「俺は！　今日こそ！　兄貴を超えるんだ！」

カストルが猛攻を仕掛けてくる。気持ちの焦りからか、カストルが大技を繰り出し、一瞬隙が生じる。

――ここだ！

「終わりだ、カストル」

ロードベルグ流剣１４式”無影突”。発の早い突き技である。剣先がカストルの當てを捕らえる。

「２１式”左瞬撃”！　２２式”右瞬撃”！」

さっきも見せた連続技をカストルに叩き込む。

「まだだ！　０８式”瞬連牙剣”！　１１式”蒼斷”！　０４式、”紅斬”！」

「グアアアアァ！！」

連続攻撃をけて、カストルが大きく吹っ飛ぶ。

――しかし、まだ終わりではない。

「９３式”緋空一閃”！」

タメが長いが相手との距離を一瞬で詰められる大技”緋空一閃”を放ち、飛んでいったカストルの著地點に移しつつ斬撃を當てる。

「グハァッ……！」

勢を立て直せないカストルに、更に連撃を叩き込む。

「１１式”流星斬”！　５２式”流水剣”！　８８式、”大鮮烈空虹”！」

下から上へ、虹のような大きな円弧を描きつつ切り上げる大技”大鮮烈空虹”を喰らったカストルのが浮かび上がる。

「そこだ、４７式、”衝天突”！」

更に突き上げる一撃で、カストルのが宙高く舞う。そして、落下してきたところへ――

「１４式”無影突”！　２１式”左瞬撃”！　２２式”右瞬撃”――」

「なぁあれって、最初にメルキスが使った技じゃないか？」

「本當だ！　……ってことは、まだ連続攻撃が続くのか！？」

會場の観客も、気付いたようだ。

・剣の威力が一定ラインを超え、相手のをある程度吹き飛ばす威力があること

・型通りではなく、連続攻撃のために型を調整して技を放てること

この２つの條件をクリアしたとき、ロードベルグ流剣は一度相手にガードされず攻撃を當てると、力の続く限り無限に攻撃することが可能なのだ。

隙のない連続攻撃によって、相手に反撃の機會さえ與えず一方的に攻撃し続ける。これがロードベルグ流剣の奧義である。僕はこれを、【源魔法】のギフトを授かってから、村で剣の素振りをしているときに會得した。

ロードベルグ伯爵家にいたときには、父上にそんな話を聞いたことはなかった。これも、『奧義は自分で會得してこそ意味がある。ゆえに、敢えて教えないでおく』という父上の計らいなのだろう。ちなみに、僕が現狀見つけているだけでも１７種類の技を起點に無限連撃に持ち込むことができる。ロードベルグ流がここまで恐ろしい剣であるとは思わなかった。

２周ほど連続攻撃を叩き込んだところで、カストルがようやく戦闘不能になった。攻撃の手を止めると、カストルが地面に倒れ込む。

丁度このタイミングで、僕に掛けられていた呪詛魔法の効果時間が切れた。魔力は戻らないが、が軽くなり目も見えるようになった。

「大丈夫か、カストル？　今助けてやる。さぁ、その邪悪な力の源になっている球を放すんだ」

「嫌だ、これがないと俺は、兄貴に勝てな――」

無理やりカストルから怪しい黒い球を引き剝がすと、カストルのからさっきまでの邪悪な力が抜けていく。

カストルはそのままぐったりとかなくなる。やむを得ないとは言え、暴な方法で止めてしまったからな。

「王國武闘大會決勝戦、ついに決著です！　圧倒的な戦闘力上昇を見せたカストル選手を、メルキス選手の無限連続攻撃が打ち破りました！　大會優勝者は、メルキス選手です！』

今日最大の歓聲が巻き起こるが、今はそれどころではない。

「カストルを早く救護室に！　正不明の力で命を吸い取られて、衰弱して――」

「それには及びませんよ」

いつの間にか、僕の背後に３人の人影が立っていた。そして全員、人間ではなかった。

「その淺黒いと頭の角。まさか、魔族――」

「カストルは魔族の力をの限界まで使ったことで、がよく魔族の力に馴染んでいます。これは魔王様の良い核になれるでしょう」

３人の魔族は、魔法陣を展開する。

「「「我ら３人の命を捧げ！　この人間を核とし、魔王復活の儀をここに執り行う！」」」

「しまった、カストル！」

魔法陣のが、カストルのを包んでいく。そしてその中から、巨大な何かが姿を現した。