「いい湯だな〜」

溫泉が完した日の夜。僕は、1人溫泉に浸かっていた。

完した溫泉に、テストも兼ねて貸し切りで浸からせてもらっているのだ。

浸かっているとからじんわりと疲れが抜けているのがじられる。ヒノキのいい香りに包まれて、なんとも気分がいい。

ちなみにお湯は、ナスターシャにちなんだドラゴン型の蛇口からお湯が出てくる。

溫泉に浸かりながら見れるように庭も作った。小さな池に、燈篭の燈りが映り込んでいる。竹で作った”シシオドシ”という小さなインテリアがときおり”カポーン”という音を立てていて、それがなんとも風がある。

四方は囲われているのだが、天井は空いていて星が見える。溫泉では溫められるのだが、顔は冷たい夜風が冷ましてくれる。それがとても心地よい。

「やっほー、お邪魔するよー！」

所の方から突如、マリエルがやってきた。全にタオルを巻いているので、は見えないのだがそういう問題ではない

「マリエル、こっちは男湯だぞ！　湯はあっち！」

僕は、竹で作った男湯と湯を仕切る壁の方を指さす。

「いいじゃんいいじゃん。今はまだ正式にオープンしたんじゃないんだから」

かけ湯をして、タオルを巻きなおしたマリエルが僕の橫にってくる。

「どうしてわざわざ一緒にりに來たんだ？」

「ほら私達婚約者だし？　將來的に結婚するんだし？　そそそその時のためにもうしこういうことにも慣れておいて良いんじゃないかなっててててて」

顔が真っ赤だ。早くものぼせたのだろうか。心配だ。

そこからしばらく、２人無言で夜空を見上げる時間が続いた。どちらからともなく、お湯の中で手をつないでいた。毎日同じベッドで寢ているが、お互い服を著ていない狀態だからか、いつもよりも距離が近くじられる。一晩中こうして星を見上げていたい気分だ。

このままマリエルを両腕で抱きしめたい気持ちもあるが、僕たちはまだ許嫁の段階。今はこの距離で良い。

マリエルが立ち上がり、ゆっくりと僕の前へと回り込んでくる。

「ねぇ、メルキス……」

そして――。

「おっとマリエル殿、溫泉でのマナーとして手をつなぐ以上の接はご法度ですよ」

「ぎゃわ！？」

いつの間にか後ろにカエデが立っていた。カエデも同じく全にタオルを巻いている。

「本來はタオルを巻いてお湯につかるのもマナー違反ですが、今回は主殿がいるので特別に良しとしましょう。しかし、溫泉でそれ以上の濃厚な接は見逃すわけにはいきません。我ながら空気を読めない発言と思いますが、ご理解下さい」

「べべべべつに、これ以上の接なんてしようとしてなかったし！」

マリエルはそういって元の場所に戻る。

「……タオル、外したほうが良い？」

マリエルが耳元でささやく。

……きっとこれも、父上がさらわれる前にマリエルに頼んでいた試練に違いない。

僕は心をされぬよう、神を鎮めることに集中する。

「おや？　このお湯、川の水を沸かしただけのものですが、何やらを癒す効能が宿っていますね」

お湯に浸かっているカエデが分析する。

「きっとナスターシャ殿のブレスの効果ですね。レンガを焼いた時も質がいいものが作れましたし。レインボードラゴンの炎には不思議な力が宿っているのでしょう」

などと話していると、所の方から音がする

「ふぅ、やっと今日の分のお湯を沸かし終えましたぁ〜。オンセン楽しみです〜」

うきうきのナスターシャが溫泉にやってきた。そして、

「キャアアアアア！　メルキス様も居たんですかぁ！？」

僕が居たことに気づき、慌てて走り出してーー

“バッシャアアアン！”

コケて、僕たちが居たのとは別の湯舟に派手に突っ込んでしまった。

ちなみに、溫泉は全部で３つに分かれており、それぞれ溫度が違う。僕たちが今っているのは真ん中の湯溫の溫泉だ。

「ナスターシャ殿、お湯にる前にはかけ湯をするのがマナーですよ」

「ご、ごめんなさいぃ……」

髪までびしょ濡れになったナスターシャが水面から顔を出す。

「うーん、ここのお湯、ちょっとぬるいですねぇ〜。もうし溫めてもいいですかぁ？」

「そうですか？　では是非お願いします、ナスターシャ殿」

人間形態のままナスターシャが口から加減した蒼い炎のブレスを吐いて、お湯を溫める。

「さて、私も熱いお湯が好みなので移するとします」

カエデがそう言って湯から上がり、ナスターシャが溫めているお湯に足を突っ込む。

だが、

「あっっっっっっつい！」

足の先を湯にれた瞬間、カエデが真上に飛び上がる。

そのまま落下すれば今度こそ熱湯に全浸かることになる。

「忍法、水蜘蛛の！」

カエデはなんと、お湯の上に著地して立った。シノビすごいな。

「普段クールなカエデちゃんががあそこまで慌てるなんて、なかなかレアなもの見ちゃったな〜。にっしっし」

僕の隣でマリエルが楽しそうに笑っている。

「ご、ごめんなさい！　人間のってそんなに熱に弱いんですね、知りませんでしたぁ〜」

「いえ、今のは私も不注意でした。今日は他に誰も來ないでしょうし、今日だけはナスターシャ殿の好きな湯加減で楽しんでください。私は別の湯に浸かることにします」

「いいんですか？　ありがとうございますぅ〜」

ナスターシャは嬉しそうにまたブレスでお湯を溫め始める。

お湯が煮えてぐつぐつ言っているのだが、それでもナスターシャは楽しそうにっている。レインボードラゴンの耐久力、恐るべし。

「いっそ、熱いお湯が好きなナスターシャ専用の溫泉を作ってもいいかもしれないな」

「本當ですか！？　だったら私、お湯じゃなくてマグマに浸かりたいです！」

「マグマかぁ……それはちょっと難しいかもしれないな……」

その後は、溫泉にどんな設備があったらいいだとかそんな他もない話をしてから、溫泉から上がった。

そして翌日からついに、正式オープンする。當然今日からはちゃんと男に分かれてるようになっている。

「あぁー、訓練の疲れが抜けていくぜぇ〜！」

タイムロットさんをはじめ村のみんなも、大満足してくれているみたいだ。

溫泉から出た後には、イチゴ牛やコーヒー牛が用意されている。

僕も、剣の訓練で汗を流した後溫泉でリフレッシュしてきたところだ。

「ああ、いいお湯であった。人間の文化も悪くないではないか」

そこで聞き覚えのある聲を聞いて、僕は振り返る。

「約束通り、村に遊びに來たぞ。我が弟子よ」

湯上がりにイチゴ牛を飲む大賢者エンピナ様がいた。