六歳のときだ。

賢者パラケルススという偉人の存在を知った。

千年前現れた世紀の魔師。

最大の功績は、それまで曖昧だった魔という概念を系化させ、學問と呼ばれるものへと昇華させたこと。

だからこそ、魔の祖でもあり、至上最高の魔師ともされている。

その賢者パラケルススは７冊の魔導書をした。

原初シリーズと呼ばれるそれら魔導書は魔にとって必要な理論すべてが殘されている。

そして、原初シリーズすべてを理解すれば真理に辿りつけるとも。

俺は最初、これらを知ったとき思ったのは、

「俺も賢者パラケルススになりたい」

ということだった。

子供なら誰もが抱くような夢語。

ただ、俺は他の子供に比べて、その夢を実現するにはどうすべきか、本気で考えていた。

賢者パラケルススがした魔導書、原初シリーズ。これらをすべて解明し俺も真理に辿り著けば、それは賢者パラケルススになることと同じことだ。

これまで、あらゆる魔師が原初シリーズの解明に挑んでいる。すでに解明されている箇所も多く、それらは一般的な魔師も魔として扱うことができる。

だが、大部分が未だ謎のままだ。

特に七つの難問というのが有名であり、その一つでも解明できれば後世に偉大な魔師として名が刻まれるのは確実。

だから、俺も七つの難問に挑むことを決意した。

とはいえ、いきなり七つの難問すべてに挑むわけにもいかない。一つに目標を定める必要がある。

七つの難問の一つに、〈賢者の石〉と呼ばれる霊薬がある。

その霊薬はあらゆる難病を治すことができる萬能の霊薬。

千年前、賢者パラケルススは〈賢者の石〉をもって、多くの人の病を治しながら旅を続けたという伝説がある。

これまで多くの魔師が〈賢者の石〉の生を試みた。だが、誰一人として生に功したものはない。

俺は〈賢者の石〉の存在を知ったとき、すぐその魅力に取り憑かれた。

〈賢者の石〉にまつわる伝説を片っ端から調べ、今まで〈賢者の石〉を求めて失敗した數々の魔師についても調べあげた。

そんなことを続けていくうちに、知らずして俺はこんなことを思うようになっていた。

「〈賢者の石〉の生を功させるのは、この俺だ」と。

それは天命のようなもので、理屈で説明できるようなものじゃなかった。

それから俺はかじりつくように勉強した。

基礎がわからない狀態で、いきなり〈賢者の石〉の研究を進めても仕方がない。

それに原初シリーズは難解な暗號で埋め盡くされており、読むだけでも非常に困難な書だ。だからこそ原初シリーズだけを読んでも遠回りになる。原初シリーズを補足した魔導書が世には大量に出回っており、まずそれらの魔導書から理解することが必要だった。

そんなわけで、俺はいながらも魔導書を読み漁る々変わった子供になった。

とはいえ、それは魔師の家系である我が家において、非常に喜ばしい傾向だった。

「アベルはきっとすごい魔師になるわね」

魔導書ばかりを読み漁る俺のことを母さんはそう言ってよく褒めてくれたし、

「そんなに魔導書が好きなら、アベルにはもっと魔導書を買ってやろう」

父さんは俺に魔導書をたくさん買い與えてくれた。

「よく見てろ、アベル。これが〈火の弾(ファイア・ボール)〉だ」

それに父さんは俺のために、得意な〈火の弾(ファイア・ボール)〉を披してくれた。俺は魔を見るのも好きだったので非常に喜んだものだ。

と、こんな環境だったのもあって、俺はますます魔導書の勉強にのめり込んだ。

だが、７歳のとき転機が訪れる。

「君、魔力がゼロだね」

たまたま家に他人の魔力を知できるほどの高名な魔師が來たので見てもらった日のこと。

高名な魔師に言われたのだ。

「魔力がゼロだから、君は魔師になれないよ」

そう、魔師になるには、魔を発させるのに必要な魔力をに保有していなくてはならない。

その魔力がに発現するのは6歳から7歳頃と言われている。同い年の妹はすでに魔力を発現させており、俺は々焦っていた。

「今は魔力がないだけで、今後魔力が発現する可能はありますよね？」

俺はすかさず反論した。

「確かに魔力の発現が遅い子もいる。けれど、そういった子でも微かな魔力をじることができるんだ。君の場合、全く魔力がじない。だから將來、魔力が発現する可能はゼロだよ」

「う、噓だろ……」

絶した聲が響く。

俺の家系は代々魔師の家系で、両親共に魔師であり、同い年の妹も魔力を発現させている。

魔力は伝するのが一般的なため、俺も魔師になるのが當たり前だと思っていた。

なのに、俺の魔力はゼロだった。

けれど、本當の事件はこれからだった。

「アベル兄、早くこっちに來てよー！」

俺の數歩先で、妹がこっちを振り向きながら手を降っていた。

その日、俺は妹のプロセルと二人で買いにでかけていた。

魔力がゼロだと判明して落ち込んでいる俺を勵ますために、気を利かせた妹が俺を外に連れ出してくれたんだと思う。

「おい、し待ってくれ……」

そう口にした俺の表は固かった。

いくら買いとはいえ、魔力ゼロと判明して數日しか経っていない。まだ心の整理ができていなかった。

「もうアベル兄、遅いってばー！」

それでも妹が無邪気に笑うのはしでも俺に楽しんでもらおうという気遣いなんだろう。

そんな折――唐突に災厄が訪れた。

偽神ゾーエー。

8つの災厄と呼ばれる、その一角。

〈生命〉を司る偽神とも呼ばれている。

偽神を崇拝する異端者共が街を襲ってきたのだ。

異端者は偽神の手によって異能の力を手にれた者たち。彼らは、人外へと変貌しては、無盡蔵に人を襲い、侵略していった。

その現場に俺たちは偶然居合わせしまったのだ。

そんな渦中、俺はなにもできなかった。

俺は非魔師であり、妹はすでに魔力を発現させた魔師だった。

さっきまでただの兄妹だった俺たちは守られる者と守る者へと立場が二分されてしまったのだ。

――お前だけでも逃げてくれ。

俺を守るように立ち塞がる妹を見て、俺はそう言いかけた。足手まといの俺なんかここに置いて魔師の妹が一人で逃げれば、妹は助かるんじゃないか。そんな予がした。

だけど、いざ言おうとしても言葉にはならなかった。

恐怖でが震え、うまく喋ることができなかったのだ。

「アベル兄は安心して。私が守るから」

そんな俺の恐怖を察知してか、妹が背中ごしにそう言う。

あぁ、俺はなんてけないんだろう。

自分の無力さが嫌というほど苛立った。その苛立ちを地面に拳をぶつけて解消しようとするが、けない音が俺を余計虛しくするだけ。

「あっ……」

目を開け、自分が橫たわっていることに気がつく。

いつの間にか俺は気を失っていた。

辺り一帯は嫌になるぐらい靜寂で、戦闘がすでに終結したんだってことがわかる。

「おい、プロセルっ！」

慌てて起き上がり、妹の姿を探す。

妹は見るも無殘な姿で橫たわっていた。

「大丈夫か!?」

死んでいるんじゃないか、という予が頭の中をよぎり、それを取り払うようにして妹の様態を確認する。

「生きている……」

命にかかわる狀態とはいえ、生きてはいた。生きているならば、治癒魔さえあれば治る可能は高い。

よかったぁ、そう思い俺は安堵しつつ気がつく。

「なんだ、これは……」

妹のに刻み込まれるようにして、黒い紋様があった。

見慣れない紋様。

だけど、普段から魔導書を読み込んでいるせいだろう。

その正にピンときてしまう。

偽神ゾーエーによる呪い。

この呪いをかけられたものは壽命が減る。

いわば、短命の呪い。

現時點の魔では、この呪いを解く方法は存在しない。

唯一可能があるとすれば、〈賢者の石〉のみ。

ガチャリ、と歯車が噛み合う音がした。

人間誰しも人生でし遂げなくてはいけないことが1つはあるはずだ。

それが、俺の場合、これだったというわけだ。

「魔力がゼロだから、君は魔師になれないよ」

ふと、この前言われた言葉が頭の中で反芻する。

だから、なんだよ。

魔力ゼロだから魔が使えない。

そんな常識があるなら、その常識ごと変えてしまえばいい。

妹の壽命が盡きる前に〈賢者の石〉の生をする。

それは俺にとって、未來の決定事項だ。

【後書き】

●面白かった！

●続きが気になる！

●今後どうなるの！？

と思っていただけたら、評価をぜひお願いします。

評価は下にある【☆☆☆☆☆】からできます。

もしおもしろくないと思えたら☆１でも構いません。

ブックマークもいただけるとさらに喜びます。

何卒よろしくお願いいたします。