《魔力ゼロの最強魔師〜やはりお前らの魔理論は間違っているんだが?〜【書籍化決定】》―16― 妹戦

俺は最後の5戦目に出場するため、會場に向かっていた。

すでに4勝し合格が決まっているので、5戦目を勝つ必要はないのだが、5戦すべての試合は學後の績に反映されるらしいので、手を抜くつもりはない。

「では、これよりルーセウス學院出、プロセル・ギルバート験生と中等部に通っていないアベル・ギルバート験生による試合を行います」

対戦相手はまさか妹だった。

「なんでお兄ちゃんがここにいるのよ……」

唖然とした妹が直立していた。

本當は學式のときにびっくりさせたかったが、俺の計畫は破綻らしい。

「実はお兄ちゃん魔使えたんだ」

「はぁ!?お兄ちゃん魔力ゼロでしょ!?魔が使えるわけがないじゃん!」

「だが、すでに4勝して合格の切符を手にれたぞ」

「え……、噓よね?」

「本當だ」

そう言うと、プロセルは顎に手を當て、

「そういえば魔力がゼロなのに勝ち続けている験生がいるって噂が流れていたわね」

と口にした。

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妹にまで噂が広まっていたか。

「ひとまず信じるけど、お兄ちゃんだからって手加減はしないわよ」

「それは構わないが……妹よ。お前、何勝したんだ?」

「すでに4勝しているわ。お兄ちゃんと同じ」

「そうか。それはよかった」

と、グダグダ會話していると審判の「試合開始」の合図が聞こえた。

「〈土巨人の拳(ピューノ・ギガンテ)〉」

早速、妹が攻撃をしかけてきた。

妹とはある程度、距離が離れていたはずだが、巨大な拳はその距離を一瞬で埋める。

勢いよく振りかざされた拳は俺の頭上に振り落とされようとして――

「アベル兄、なんで抵抗しないの?」

巨人の拳は頭上で止まっていた。

どうやら妹が攻撃をやめたようだ。

「いや、だって妹を傷つけるような真似したくないし」

これがまだ三勝で、不合格の可能があるなら全力で戦う気になっていたかもしれないが、すでに合格が決まっている以上戦う必要がない。

「アベル兄」

そう言った妹の口ぶりは殺気立っており、怒っているんだってことが一瞬で察知つく。

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「私、アベル兄が本當に魔が使えるのかまだ疑っているんだよね。だから、本気できて」

「だけど……」

「本気で戦わないなら、アベル兄のこと嫌いになるよ」

嫌いになる、か。

それは困るな。

「わかった。戦うから、嫌いに、ならないでくれ……」

必死に懇願するように俺はそう口にした。

「最初から、そうしていればいいのよ」

妹はそう言うと、すでに生していた巨人の拳を消滅させる。

勝負を仕切り直そうってことらしい。

「お兄ちゃんからかかってきなさい」

そう言って、妹は指をクイクイと自分のほうに向け、ジェスチャーした。

仕方ない。そういうことなら全力で戦うか。

手にもっている魔石に意識を向ける。

その上で、魔法陣を展開させた。

「〈気流作(プレイション・エア)〉」

俺の十八番となりつつある魔、窒素をり呼吸をさせなくする。

「ぐ……ッ」

息ができなくなった妹は苦しそうな表を浮かべた。

無事、功したか。

すでに俺は勝ちを確信していた。

息ができない狀態なら喋ることもできない。

それはつまり、詠唱ができないってことだ。

詠唱ができなければ魔は発できない。

この狀況にさえ持ち込めば、逆転は不可能。

あとは、死なれたら困るから気絶しそうなタイミングを見定めて窒息狀態を解除すればいいか。

次の瞬間――。

プロセルが地面に拳を叩きつけていた。

そこに現れた魔法陣を見て、俺はなんの魔を発させたのか、察しがつく。

〈土巨人の拳(ピューノ・ギガンテ)〉。

気がついたときには、目の前に巨人の手が顕現していた。

無詠唱起

上級魔師でないと扱えないとされるそれを、まさか妹が修得していたとは。

このままだとやばい。

〈重力作(グラビティ)〉なら防げるか。

いや、地面と接しているものには重力を反転させても意味がない。

発しろ(エクスプロシオン)〉で巨人の手を砕くか。

待て、この距離で発させたら自分も巻き込まれる。

そう悩んでいるときには、すでに遅かった。

巨人の手が俺のを弾き飛ばしていた。

「ぐはッ」

會場の壁に背中を打ち付けられる。

まだかろうじて意識はある。

「ふぅ、やっと呼吸ができるようになった」

眼前には深呼吸をする妹の姿が。

「それでお兄ちゃん、まだ私と戦うつもり?」

しかも、したり顔で笑う妹の姿が。

しは手加減してくれ。死ぬかと思っただろ」

そう言って、俺は立ち上がる。

ズキズキと全痛むが、まだなんとか戦える。

「そのわりには平気そうだけど」

「いや、結構マジで痛かったんだが……」

骨にヒビがっている気がする。

殘念ながら俺には治癒魔は使えないので、このまま戦うしかない。

「そんなことより、さっきの魔は一なに? そよ風が吹いたと思ったら、呼吸ができなくなったんだけど」

「魔の研究果だ。知りたいなら講料をいただく」

「そう。なら、私が勝ってから無理矢理聞き出そうかしら――!」

無詠唱起

〈土巨人の拳(ピューノ・ギガンテ)〉、しかも俺を挾むように2つも!

「〈重力作(グラビティ)〉」

さっきは〈土巨人の拳(ピューノ・ギガンテ)〉をどうにかすることばかり考えたせいで失敗した。

俺の戦闘経験が淺いせいだろう。

判斷を誤った。

冷靜に考えれば、俺自の重力を変えて上に逃げればよかった。

「重力魔? そんな上級魔、お兄ちゃんがどうやって覚えたのかしら?」

上へと浮遊することで〈土巨人の拳(ピューノ・ギガンテ)〉から逃れた俺を見て、妹がそう言葉を発する。

「こう見えて俺は天才なんだよ」

「そんなの初めて知ったわ――!」

と、同時に妹が魔を放つ。

無詠唱魔

〈石礫掃(グレイバ)〉。

無數の石礫が俺を襲う。

これなら、なんとか防ぐことができる。

「〈重力作(グラビティ)〉」

無數の石に重力を加える。

襲いかかってきた無數の石は反転し、妹へ襲いかかった。

「――は?」

流石に予想はできなかったようで妹は驚きの聲をあげる。

「〈土の防壁《ティエラ・ムロ》〉」

妹は慌てて、を守るように土の防壁を出現させた。

「どうやら飛び道は効かないようね」

「まぁ、そうだな」

この高さにいれば〈土巨人の拳(ピューノ・ギガンテ)〉は屆かないようだし、〈石礫掃(グレイバ)〉はさっき見せたとおり防げる。

なら、このまま宙に浮いていれば、安全に済みそうだ。

それならば、こっちからいかせてもらう。

「〈発しろ《エクスプロシオン》〉!!」

発とはなにか。

それは空気の急激な溫度上昇で発生する衝撃。

空気の溫度を上昇させるには熱をればいいわけだ。

では、熱とはなんなのか?

原書シリーズを始めとした魔導書にはこう書かれている。

熱とは火の元素のひとつの形態であると。

そもそも魔において、熱と炎は明確に區別されていない。

だが、『科學の原理』にははっきりとこう書かれていた。

熱とは、質の運であると。

質を激しく振させることで、熱が生まれる。

それを知っていれば、容易に発をれる。

ドゴンッ! と土の壁を巻き込むように裂が発生した。

土煙が舞う。

プロセルがどうなったか、目視で確認できない。

だが、確かな手応えがあった。

「てか、明らかやりすぎたような。死んでたらまずいな……」

と、俺が不安になっていた最中――

キラリ、とが見えた。

魔法陣によるだと瞬時に判斷する。

だが、土煙のせいで詳細まで読み取れない。

「つかまえた」

眼前に妹がいた。

〈土の塔(トレイ)〉。

妹の足元に塔がそびえ立っていた。

この一瞬で俺の位置まで屆く塔を作ったのか。

あまりの生スピードに舌を巻く。

ヤバい。

なにか対抗策を――。

「な――ッ!」

「魔戦において、相手の口をふさぐのは定石なんだよね。まぁ、魔力ゼロだったお兄ちゃんは知らないんだろうけど」

妹が俺の口に手を突っ込んでいた。

無詠唱発ができない今の俺は魔を封じられたのと同義。

試しに噛んでみるが人間の手かと思うぐらいい。

もしかしたら〈化(ディフィ)〉を使っているのかもしれない。

「お兄ちゃんみたいに用には扱えないけど、私も重力をれるのよ」

妹は俺に手を突っ込んだ狀態でそう喋る。

喋れない俺はフガフガと答えるしかない。

そして妹はとどめとばかりにこう言った。

「〈加重(ペサド)〉」

ガクン、と俺のが下に落ちる。

妹も一緒に落ちる。

とはいえ、妹は俺をクッションにするようにして落ちていた。

なにもできない俺は素直に地面に落ちるしかなかった。

そう、俺は初めての敗北を味わったのだ。

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