《魔力ゼロの最強魔師〜やはりお前らの魔理論は間違っているんだが?〜【書籍化決定】》―43― アントローポス
ミレイアを殺した。
だが、霊域に変化はなかった。
まぁ、予想通りだが。
「おい、起きろよ」
寢そべっていミレイアに向かって、俺は言葉を放つ。
通常なら死んでいる一撃ではあるが、ミレイアは死んでいない。そのことを俺は知っている。
「貴様、これはどういうつもりだ?」
低く掠れた男の聲。ミレイアの口から発せられるとは到底思えない聲が聞こえる。
「へぇ、はじめましてだな」
起き上がったミレイアを見て、俺はそう口にする。
とはいえ、いつものミレイアとは雰囲気が違い、どす黒い影が全を覆っていた。
「ミレイアの中にいる偽神だろ。確か、名前は……」
「偽神アントローポス。それが我の名だ。心に刻むことだ」
「そうか、ぜひ覚えさせていただくよ。ちなみに、俺も自己紹介したほうがいいのかな?」
「ふっ、人間の名前など興味あるわけないだろうが」
「そういうもんか」
確かに、偽神様にとって俺なんて人間はそのへんに転がっている石ころとそう変わらないのかもしれない。
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「それで、さっきの質問だ。貴様、これはどういうつもりだ?」
そう言って、偽神アントローポスはが空いた自分のを指し示す。
「頼まれたからな、殺してくれって」
「ふんっ、あやつめ。我に反抗しおって」
偽神は鼻を鳴らす。恐らく、自分に反発したミレイアに文句を言ったのだろう。
「なぁ、偽神様に一つ聞きたいことがあるんだが?」
「バカか? 我が人間の言葉に耳を貸すわけがないだろう」
と、偽神は言うが俺はそれを無視して言葉続ける。
「偽神ゾーエーの呪いについて知っているか?」
「貴様よりは知っておる」
「そうか、なら俺に教えてくれ」
「くっははははっ! 人間が我に指し図をするな!」
偽神はそう言って、俺に人差し指を向けた。
次の瞬間、のあちこちに切目が現れる。
「あ」
と、言葉を発したときにはは切斷されバラバラになっていた。
痛みをじる暇もない。
ボトッ、ボトッ、と片となった俺のが床に落ちる音が聞こえる。
そして、最後には視界が真下へと落ちた。
「所詮、人間か。やはり脆いな」
偽神の聲が聞こえる。察する、どうやら勝利を確信しているらしい。
だから、俺はこう言ってやった。
「なに、すでに勝った気でいるんだ?」
と。
「ど、どういうことだ……?」
五満足の狀態で立っている俺を見て、偽神は言葉を震わせて、慌てふためく。
そんなに驚かなくてもいいと思うが。
「この異界の仕組みについて、ミレイアから教わったからな」
「くはははははっ、そういうことか。小癪な真似をしおって。まぁ、よい。所詮、人間の悪あがきだ。気に留める必要はない」
再び、偽神は俺のを切り刻んだ。
刻まれた俺のはバラバラな塊となる。
だが、それだけだ。
次の瞬間には、俺のは元の狀態に戻る。
「やはりミレイアの研究資料は間違っていなかったか」
暗號の形式で書かれたミレイアの研究資料。
すでに暗號は解読済みだ。
そして、その容の一つに、偽神の持つ力について書かれていた。
「〈混沌の境域(カオス・アーレア)〉。それがこの霊域の名前らしいな。その名前の通り、この世界に魂は存在できてもといった質は存在できない。そう、この世界で見えているものはすべて虛像だ。だから、いくらが死のうと本質的に死ぬわけではない。それがわかっていれば、お前の攻撃はなにも怖くない」
だから俺は偽神によってをバラバラにされようが、すぐに元の狀態に戻ることができた。
「くはははははっ、確かに貴様の言っていることは正しい。だが、それがどうした! いくらにダメージを與えられないとしても神的なダメージは無視できない。今から貴様を何度も何度も殺してやる。そうすれば、そのうち貴様のほうから殺してくれ、と懇願するだろうな!」
「なら、試してみるか」
勝負の鍵は、心の持ちようだ。
何萬回殺されようと心まで死ななければいいだけの話。
ふむ、意外と簡単だな。
「人間ッ! 苦しみ、悶えるがいいッ!!」
偽神アントローポスは俺を何回も殺し続けた。
この〈混沌の境域(カオス・アーレア)〉は質に干渉できないという一點を除けば何でもありなようだ。
だから、様々な殺し方を味わった。
時には、無數にあらわれた剣によって全が刺される。
時には、発によりが吹き飛ばされる。
時には、高い建からそのまま落下させられる。
時には、重りをつけた狀態で水の中にいれられる。
時には、が腐敗し全が崩れる。
時には、マグマの中に投される。
時には、獰猛な獣に中を噛み砕かれる。
時には、縄により首を閉められ息ができなくなる。
時には、馬車にを吊るされ引きずり殺される。
時には、に蟲が現れを食い散らかされる。
時には、逆さ吊りにされ頭にがのぼって死ぬ。
時には、砂漠の中に取り殘され、そのまま干からびる。
時には、空に飛ばされて、よくわからないうちに死ぬ。
時には、巨大な象によって踏み潰される。
痛覚はもちろんじた。
だから痛かったらぶし、苦しかったら目が涙で溢れる。
ただ、苦痛というのはの狀態を教えてくれる危険信號でしかない。
この世界ではいくら痛覚をじたところで、それは無意味なものだ。
そんな風に考えていたせいなのかはわからないが、痛覚が徐々に平気になっていた。
そんなことより、このおもしろい世界を堪能することに意識が傾いていく。
俺を殺すため、風景がとりどりに変わっていく。
この世界は一どうなっているんだろうか? そんなことを思いながら、目の前の景を目に焼き付けていく。
そして――。
數え切れないほどの死を向かえて、ふと、靜寂な時間が訪れる。
「な、なぜ、平気なんだ……っ」
見ると、へばっている偽神の姿がそこに。
狀況から判斷するに、能力を行使するのにも力が必要なようだ。
なぜ、平気なのか? そう問われても、すぐには答えは浮かばないな。
ただ、強いて言うならば、そうだな……。
「普通じゃ味わえない贅沢な時間を過ごせた、そう俺が思っているからじゃないか?」
そんなところだろうか。
恐ですが、下より評価いただける幸いです。
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