「あの……アベルくん、非常に困ったことが起きたんですが」

學院から寮の部屋に戻ってきたミレイアが申し訳無さそうな表をしていた。

「なにが起きたんだ？」

まさか、俺がまだ生きていることが他のやつにバレたとか、最悪な事態を思い浮かべる。

「えっと、その、ですね……」

言いづらそうにしているミレイアの後ろに、もう一人の影がいることに気がつく。

「まさか、本當に生きているとはね」

ミレイアの後ろにいたのはアウニャだった。

「まさか、しゃべったのか……？」

ミレイアがアウニャに俺が言っていることを話したんじゃないかと疑ってしまう。

それぐらいしか、俺が生きていることがバレる経緯が思いつかない。

「違うわよ。アスモダイが、処刑されるあんたが偽だって見抜いたのよ。あとは、本のあんたがどこにいるのか推理すれば、ここぐらいしかないのは自然とわかるでしょ」

「……そういうことか」

できれば、俺が生きていることを知っている人は最小限にとどめておきたいと思っていたが、バレてしまった以上、仕方がないのだろう。

「他の人に言うなよ」

「そんなことわかっているわよ」

當然、とばかりにアウニャが頷く。

この調子なら、恐らく問題はなさそうだな。

「って、あんた、ちよっと勝手に……」

ふと、アウニャがおかしな言を始める。誰かに対して言っているわけではなく、もう一人の自分に話しかけているかのような……。

「アベル様ぁ……！」

瞬間、アウニャの頭から角が生え、それからしっぽと羽まで生えてくる。

どう見ても、アスモダイのほうにを乗っ取られたんだってことがわかる。

「よかったぁ、生きていてっ！」

とか言いながら、アスモダイは俺に抱きついてくる。

「隨分と仲良さそうですね」

なぜかミレイアが冷たい視線を投げかけてくる。

「こいつとそんな仲が良かった覚えはないけどな」

「ひどいっ、キスまでした仲なのに……っ」

「えぇっ……キスってどういうことですか」

「こいつに無理矢理キスされたんだよ」

まぁ、正確にはアウニャのほうだった気がするが些細な問題だろう。

「てか、よく処刑された俺が偽だって気がついたな」

「ふふんっ、外見が一緒でも魂を見れば、アベル様と違うことが簡単にわかるかも」

得意げにアスモダイがそう語る。

「魂で人を判別できるのか？」

確かに、処刑された俺の中にっていたはアントローポスの魂だ。だから、魂まで判別できれば、俺ではないとわかるのは納得できる。

しかし、魂でその人を判別するなんて聞いたことがない。

「アスモダイはこれでも高位の悪魔。魂の見分けがぐらい簡単にできるかも」

「それって、アスモダイ以外でもできるのか？」

もし、アスモダイでなくても魂の見分けがつく人がいれば、処刑された俺が偽だってことに気がつかれてしまう。

「んー、普通はできないから心配する必要はないような……？」

アスモダイは首を傾げながらそう言う。

「そうか」

確かに、心配しだしたらキリがないな。魂の判別がつくアスモダイが例外なだけで、他にそれができる人はいないと考えておいたほうが、神的には楽だ。

「ねぇ、それよりアベル様」

「なんだ？」

「キスして」

唐突に、アスモダイがそんなことを呟く。

「ちょ、いきなりなに言い出すんですか！」

それにくってかかったのがミレイアだ。

「てか、あなた誰？　アベル様とどんな関係？」

「ミレイア・オラベリアです。アベルくんとはただの親友です」

「そう、ただの友達なら、私とアベル様がなにしようが関係なくない？」

「いや、ここ私の部屋ですからね。私の部屋で変なことしないでください」

「なにそれ、意味わかんないかも」

「とにかく、やめてください！」

「ねぇ、アベル様いいでしょう？」

アスモダイがミレイアのことを無視して、俺のほうを振り向く。

キスぐらい減るもんではないし、別にダメというほどダメではないが、ミレイアが嫌がることを進んでやるわけにはな。

ミレイアの不評を買って、この部屋を追い出されるわけにいかないし。

「悪いな、アスモダイ。キスするのはなしだ」

「むぅ、つれないなぁ。そうだ、キスよりももっとエッチなことするぅ？」

そう言って、アスモダイが制服のボタンを外していく。

すると、元があらわになる。

「ねぇ、いいでしょう？」

とか言いながら、アスモダイが俺の手をつかんで、自分の元にたぐり寄せる。當然、手のひらに収まるように、アスモダイのおっぱいが。

うわっ、らかっ。

ついでとばかりにんでみる。するとアスモダイが甘な聲を出し始める。

なんかエロい気分になってきた。

「アベル様ぁ」

とか言いながら、アスモダイが顔を近づけてくる。

これはキスする流れだな。

「いい加減にしてくださいッ！」

ビリッ、とアスモダイの全に雷が響く。見ると、ミレイアが契約している悪魔、フルフルを召喚して、そのフルフルの能力で雷をったようだ。

雰囲気に飲まれてしまっていたな。

ミレイアの存在一瞬忘れてしまっていたし。

「あ、あれ……？」

アスモダイがとぼけた様子でそう呟く。

いや、よく見たら角やら顔のれ墨が消えている。

ってことは、今目の前にいるのはアウニャのほうだ……！

「えっと、どういう狀況――」

とか呟きながら、アウニャは真下を見ていた。

その真下には、アウニャのをんでいる俺の手が。

「ふぇっ……え……っ」

途端、アウニャの顔が真っ赤に染まり、俺のことを睨めつけてくる。

これはあれだ。

完全に怒っているというやつだな。

「待て、誤解だ――」

「ぎゃぁああああッッ！！」

ビシンッ！　盛大なビンタをくらった。

◆

「なんか、その、ごめん……うちの悪魔が」

各々冷靜になってから、事を説明されたアウニャが落ち込んだ様子で、謝罪する。

「んだのは事実だしな。だから、俺も悪かった」

「というか、アスモダイはなんであぁも積極的なんですか？」

ミレイアが不満げにそう言葉を吐く。

「それは彼、の悪魔だし……」

七つの大罪というのがあり、それぞれに対応する悪魔がいたのを思い出す。

確かに、アスモダイはを冠する悪魔だった覚えがあるな。

「ってことは、これからもアベルくんをするってことですか？」

「うっ……そうなるわね」

アウニャが申し訳なそうにしていた。

「ねぇ、アベル」

「なんだ？」

「その……アスモダイにされても、私に手は出さないでね」

「……わかった」

なんともおかしなお願いだなと思いつつ、頷くことしかできなかった。

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