《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》東へ 04

※流・殘酷描寫があります。

アンセルの治療を一通り終え、マイアはエミリオの傍に移した。

アンセルの治療中にルカが服をがせておいてくれたので、エミリオの布にくるまれていた。

馬車の中が急に明るくなった。ルカがオイルランプを発見したらしく、そこに火を燈したのだ。

この季節は日が落ちるとすぐに暗くなり気溫が下がる。既に辺りはかなり薄暗くなっていた。

り薬を見つけたからアンセルさんの方は手當しておく」

「うん」

マイアは頷くとエミリオに向き直った。

アンセルほどではないがエミリオのも酷い。あちこちに鬱の痕があり怒りが湧いた。

腕にロープの痕があるのはエミリオも同じだ。こんなに細く小さな子供に暴力を振るうなんて信じられない。

これは、十歳前後の男の子に対する苦手意識とはまた別次元に存在するだ。

アンセルと同じ理由で全部は治してあげられない。

表の痣がわずかに薄くなり始めたあたりでマイアは魔力を流すのをやめた。

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(ごめんね)

心の中で謝って、エミリオのり薬をってやろうと思い周囲を見回すと、馬車の中にルカの姿がない事に気付いた。

どこに行ったのだろう。

(まさかとどめを刺しに……?)

確かめに行きたい衝に駆られたが、今はエミリオの治療が先だ。

マイアは橫たわるアンセルの傍にあったり薬を手に取ると、エミリオのってやり、服を元に戻してから布をかけてやった。

ルカが馬車に戻ってきたのはその時である。

「セシル……何をしに行ってたの……?」

「一応外の連中の止と馬の様子を見に。馬なんだけど一頭しか見當たらない。もしかしたら逃げたのかもしれない」

確かライウス商會の馬車は二頭立てだったはずだ。

「二人の治療は終わった?」

ルカに尋ねられてマイアは小さく頷いた。

「完治はさせてない。二人ともの中の損傷だけ治して、の表面の痣がちょっと薄くなり始めたあたりで治療をやめたから、たぶん意識を取り戻しても疑われる事はないと思う」

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「ありがとうリズ。本當は見捨てるべきかと思ったけど、子供が暴行を、と思ったら我慢できなかった」

マイアは首を振った。

一番にエミリオとアンセルを見つけたのがマイアだったとしても、きっと同じ事をしたと思う。

「この二人は俺たちの馬車に運ぼうと思うんだけどいいかな? 外の連中の治癒をする必要はないと思うんだけど、さすがに今の季節外に置いておいたら凍死する。かと言ってこっちの命を狙ってきた奴らと一緒に過ごすのはちょっとね……」

マイアもルカと同じ意見だった。聖として相応しくない考え方だと言われるかもしれないが、自分を攻撃してきた人間に魔力を使ってやるつもりにはなれなかった。

「……それでいいよ。私もあの人たちを治したくない」

そう発言したところで、マイアはルカの左肩に矢が刺さった事を思い出した。

「セシル! 肩は大丈夫なの!? 矢が刺さってたよね……?」

マイアは慌ててルカの背中側に回った。

矢は既に自分で抜いたらしく無くなっているが、服にはが空き、その周辺が赤く染まっている。

「見せて!」

マイアはルカの服に手をかけた。

「……かすと痛いんだ。手伝って貰ってもいい?」

マイアは頷くと、ルカの服を細心の注意を払ってがせた。そして左肩だけを出させる。

は既に止まっているように見える。止の処置なんてされていないのに。

「矢は自分で抜いたの?」

「うん、邪魔だったから」

「馬鹿! 不用意に抜いたらダメじゃない! が流れすぎたら人間は死ぬのよ!?」

強化魔の応用では止めたから大丈夫だよ」

「そんな事ができるの……?」

「うん。々の怪我でも戦い続けられるようにね」

本人がそう言うのならきっと大丈夫なのだろうけど、なんだか釈然としない。

マイアはルカの背中側に回ると、傷口に手を當てて魔力を流した。エミリオたちと違ってしっかりと治しきる。

「どう?」

「……治ったと思う。ありがとう」

ルカは肩をかして問題がないかを確認する作をした。

「じゃあ二人を運ぼうか。二往復するからリズはランプを持ってくれる?」

「わかったわ」

アンセルはかなり橫幅のあるおじさんだが大丈夫だろうか。

マイアの不安をよそに、ルカは軽々とアンセルを肩の上に擔ぎ上げた。

マイアは慌ててオイルランプを手にすると、ルカに先んじて馬車を降りた。

◆ ◆ ◆

どうしてこんな事になったのだろう。

霞む意識の中、カイルは自分のこれまでの行いを思い返した。

を扱う商家の次男に生まれたカイルは、十代の頃荒れていた。

家は長男が継ぐことが決まっており、両親はできのいい兄ばかりをもてはやす。そのうちに兄が妻を貰い、同居する事になって家の中に居場所が無くなったせいだ。

悪い仲間とつるむようになったカイルに両親は激怒し、友人の経営する商會で奉公するようにと無理矢理カイルをライウス商會にれた。

昨年亡くなったライウス商會の先代は厳しく恐ろしい男で、カイルのを叩き直すと宣言し、時に罰を混じえてカイルを商會の徒弟としてこき使った。

流されやすい格のカイルは早々に抵抗は無意味だと悟り、真面目にライウス商會で働くようになった。

先代が亡くなり、ライウス商會は先代の二人の息子が継いだ。

兄のロイドが商會長としてキリクの店舗を切り盛りし、弟のアンセルは仕れ擔當としてあちこちを飛び回るというやり方で代替わりを功させた。これは、兄弟間でめるに違いないと思っていたカイルには予想外で面白くなかった。

だが、商會の連中に見る目がない事はし楽しかった。

何しろこんなひねくれた考え方を持つカイルを信頼し、アンセルの仕れに同行する仕事を任せるのだから。

そして今回の旅でカイルは出會ってしまった。

護衛として雇った傭兵の男、リバー・グロウンに。

リバーは、荒れていた時のカイルが所屬していた不良年で構される徒黨(チーム)のリーダーだった。

リバーはカイルがかつての仲間だということに気付くと、言葉巧みに積荷を奪う計畫を持ちかけてきた。

いまだにリバーは後暗い連中と付き合いがあり、そんな彼にとって、ライウス商會の積荷は非常に魅力的だったようだ。

薬はギルドや國の締め付けが厳しく、裏の市場――闇市でかなり良い値段で取引されている。

リバーの口説き文句や提示された功報酬は非常に魅力的で、気がついたらカイルは首を縦に振っていた。

今思えばリバーの提案に惹き付けられたのは、先代の厳しい指導や、実家の問屋と違って兄弟で仲良く店を経営する姿に不満や鬱屈が溜まっていたせいなのではないかと思う。

太った中年と子供を制圧するのは簡単だった。

子供を人質に取っただけでアンセルはあっさりとこちらに屈したので、これまでの鬱憤をぶつけてやった。

ただ一つ気がかりだったのは、道中のアンセルのお節介だ。

馬車酔いで休憩していた夫婦の行商人にアンセルが商品を渡したりするから、二人にカイルの顔が見られてしまった。

夫婦を始末しようと言い出したのはリバーだ。まずは男を始末して、はいたぶって楽しんでから殺す。

しかしそんな邪な考えを抱いたのは結果的に間違いだった。

まさかただの細の優男と思っていた夫が、あんな手練だったとは予想外だった。

リバーの矢をかいくぐり、リバーとカイルの目の前に突如現れた奴のきは、まるで疾風のようで人間技とはとても思えなかった。

何が起こったのか理解できないうちに、リバーは利き腕を切り落とされ、こちらも右肩と左太ももを刺し貫かれ、あっという間にとてもける狀態では無くなった。

カイルのに細の剣を突き立てた時の男の目が忘れられない。

エメラルドのような緑の瞳は硝子玉みたいで何のも浮かんでいなかった。

本能的に理解した。こいつは関わりあいになってはいけない人種だ。

しばらくして夫婦の妻の方が現れたが、妻はこちらを素通りして、夫に迎えられるままに馬車へと向かった。きっとアンセル達の手當をしているのだろう。

ややあって、夫がこちらにやってきた。

とどめを刺しに來たのかと思いきや、止処置をされて驚いた。

「たすけて……くれるのか……?」

カイルの質問に青年は冷笑を浮かべた。

「まさか。妻の手前、一応の応急処置をするだけだ。運良く誰かが來るまで生き延びられる事を祈っててやるよ」

待ってくれ、と言いたかったが聲が出なかった。あまりにも青年の顔が冷たくて。

こんな所に放置されたら確実に死んでしまう。

凍死するか、の匂いに惹かれてやってきた獣に食い殺されるか、はたまた失死が先か。

ああ、駄目だ。を流しすぎたのか、段々意識が遠のいてきた。

リバーの口車になんて乗らなければよかった。

その思考を最後に、カイルの意識は闇に飲み込まれた。

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