《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》東へ 05

アンセルとエミリオをこちらの馬車に移す頃には、あたりはすっかり真っ暗になっていた。

アンセルの橫幅が広いから、ただでさえ狹い荷馬車の中はいっぱいだ。木箱を組み替えて工夫をしてもとても四人は眠れる狀態ではない。そのためルカは天幕を張ってそちらで眠ることになった。馬車に何かあった時のために持參していたのが早速役に立った。

火を使って料理をする気力はお互い殘っていなかったので、夜はすぐに食べられるビスケット狀の攜帯食料で済ませた。口の中の水分を吸い取られる奴だ。

犯罪者二人はルカの手で、森の奧にあるライウス商會の馬車の中に運び込まれた。

彼らが獣や魔蟲に襲われたら寢覚めが悪いという事で、結界を張ってやっていたので何だかんだでルカは優しい。

いや、お人好しと言えば自分もか。

結局マイアも気絶していた二人にしだけ治癒の魔力を注いでやった。

でも決して彼らに同した訳ではない。

正當防衛とはいえ、目の前でルカが人殺しになるのが嫌だったのと、罪は司法の手で裁かれるべきだと思ったからだ。

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ここからライウス商會があるキリクまでは馬車で半日ほどの距離なので、恐らく二人とも衛兵がやってくるまでは生き延びるのではないかと思う。

食事をして魔を清めたら、ルカは早々に天幕に引っ込んでしまった。

マイアも酷く疲れていたので、エミリオの隣にり込む。

馬車の中はルカが木箱を組み替えて、し広めのベッドを一つ作ってくれた。ベッドはエミリオとマイアが使う。

恰幅のいいアンセルは申し訳ないが床だ。木箱ベッドに寢かせたら、もしかしたら木箱が壊れるかもしれないという事でこの割り當てになった。

アンセルもエミリオも、昏々(こんこん)と眠り続けている。途中で治療魔をやめたから、その顔は赤黒く腫れ上がっていて痛々しい。

馬車の中はルカの魔で守られているから安全だ。

マイアは怪我人二人の寢顔を念の為に確認してからオイルランプを消して眠りについた。

◆ ◆ ◆

鈍い痛みと共に目を覚ましたエミリオは、視界にってきた可らしいの寢顔に天國に來たのかと思った。

何がどうなっているんだろう。商會の徒弟のカイルと護衛のリバーから毆る蹴るの暴行をけて、殺されると思ったのが直前の記憶だ。

意識を失う前に、晝前に出會った行商人の若い男を見たような気がする。

と、思い返したところで、目の前にいるが、その行商人の妻だということに気付く。

派手な見た目に似合わず夫のに隠れた控えめな姿と、貸切の溫泉の話をアンセルからされて、頬を赤く染めて恥ずかしがっていた顔が印象に殘っている。

化粧を落とし、眠っているせいか目の前にいるは晝間見た時よりもずっとあどけなく見えた。

甘くていい匂いがする事にエミリオは頬を染める。

この香りは間違いなく目の前にいるお姉さんの匂いだ。

母親を早くに亡くしたエミリオは大人のへの免疫がない。

至近距離にある若いの顔に、なんだか恥ずかしくてをよじったら、全に痛みが走った。

「う……」

たまりかねてくと、パチリとの目が開いた。

はがばりとを起こすと、エミリオに詰め寄ってきた。

「気が付いたのね? 気分は? 調はどう?」

「全が痛い……」

口の中も切れているようで返事をすると酷く痛んだ。

顔をしかめつつも答えると、は悲しそうに眉を寄せる。

「そうよね……たくさん酷い事をされたものね……」

「父さんは……?」

アンセルの事をすっかり忘れていた。慌てて聲をかけるとはエミリオの向こう側を指さした。

「大丈夫よ。セシルが助けたの。エミリオ君の向こう側で寢かせてるよ」

痛むを叱咤してどうにか寢返りを打つと、馬車の床の上で橫たわるアンセルの姿が見えた。

パンパンに腫れ上がり、とんでもない顔になっているしどこか苦しそうだがちゃんと息をしている。生きている。エミリオは安堵のため息をついた。

「姉ちゃんたちが助けてくれたのか?」

「そうだよ。手當をしたのは私だけど、悪者をやっつけたのはセシルっていう……えっと、その、私の旦那様なの……」

かあっと頬を染めて答える姿に、新婚なんだろうなとなんとなく察した。

「あいつらはどうなったんだ?」

「セシルがけない狀態にしてそちらの商會の馬車にれてきたみたい。キリクまで二人を送っていく予定だから、通報して捕まえてもらうつもり」

その言葉にエミリオはほっとした。

自分も父も助かったし、犯罪者二人はやっつけられたのだ。

何発も毆られたときは神様なんていないと呪ったが、街に帰ったら神殿に參拝して謝らなければいけない。神様はちゃんといて正しい者を助けてくれた。

「ここは……?」

見たところ幌馬車の中だ。

今が朝なのか晝なのかわからないけれど、幌ごしに明るいが差し込んできている。

「私たちの馬車よ」

木箱をうまく並べて広めのベッドを作ったようだ。

エミリオの下に敷かれたシーツの下のは綿だろうか?

なりも悪くないから、経済狀態は悪くなさそうだ。

「リズ、起きた?」

カーテン狀になっていた馬車の後ろ側の布が外から開けられ、見覚えのある青年が顔を出した。

彼がの夫のセシルだろう。

セシルの発言からすると、の名前はリズと言うらしい。

リズとセシル。エミリオは恩人の顔と名前を心の中に刻み込んだ。

「エミリオ君も起きたのか。良かった。調は?」

「全打撲痕が殘ってる狀態だから相當痛いと思う」

エミリオに代わって答えたのはリズだった。

「そりゃそうだよな。腹合は? 何か食べられそうか?」

お腹も空いているしも乾いている。だけど口の中が痛い。

「できればらかいものがあるなら……口が痛くて」

「麥の粥なら食べられそうか?」

尋ねられてエミリオはこくりと頷いた。

「呼び捨てでいいよ……セシル兄ちゃん」

おずおずと話しかけてみると、セシルは人好きのする笑みを浮かべた。

「そっか、じゃあエミリオって呼ぶな。飯ができたら持ってくるからゆっくり休むんだぞ」

そう告げると、セシルは馬車から離れて行った。外で煮炊きをするつもりなのだろう。

「エミリオ、一人でも大丈夫かな? 私もセシルを手伝ってくるね」

いつの間にやらリズは外套を著込み、髪を頭頂部でまとめあげていた。

エミリオが頷くとこちらに向かって微笑んでから馬車を出ていく。

一人になってからほどなくして食べのいい匂いが馬車の外から漂ってきた。

こんな時なのにお腹がきゅる、と空腹を訴えて鳴った。

生きている事を改めて実し、エミリオは深く息をついた。

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