《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》東へ 06
微かな音に目を覚ますとリズが戻ってきていた。
エミリオは朝食を摂った後眠ってしまった事を思い出す。
お腹が満たされるとが休息をしがっているのか眠くなり、リズが出発の準備をすると出ていった事もあって、橫になっているうちに意識が飛んでいたみたいだ。
リズが朝食として持ってきてくれたのは、冷ました麥のお粥で、口の中が痛かったがどうにか完食できた。
戻ってきたリズは側に鏡の付いたメイクボックスを取り出すと支度を始めた。
頭の後ろ側で丸くまとめていた髪のを解くと、真っ直ぐだった艶やかな茶の髪がくるくるになっていた。
渦巻く髪を手櫛で整え、軽く編み込んでまとめてから化粧に取りかかり始めた。
こんな風に大人のの人が支度を整える姿を見るのは初めてだ。
白をはたき紅を引くだけで、どこかあどけない顔立ちが大人ののものに変わっていく。その姿にエミリオは思わず見とれた。
すると視線をじたのかリズがこちらを振り返った。
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「ごめんね。もしかして起こしちゃった?」
「元々寢てない。目ぇつぶってただけだし……」
け答えがぶっきらぼうになったのは、じっと見ていたのに気付かれたのがなんだかバツが悪かったからだ。
「リズ、アンセルさんの意識は戻った?」
馬車の中にセシルが顔を出したのでしだけほっとした。
「まだずっと眠り続けてる」
「そっか……起きるまで待ってる訳にもいかないからそろそろ馬車を出そうと思うんだけど……エミリオは起きてる?」
「起きてるわ」
リズが返事をすると、セシルは馬車の中にってきて、エミリオの傍に視線を合わせるように座った。
「出発の前に一応々説明しておこうと思うんだけど、いいかな? 本當はお父さんにも伝えたいけどまだ意識が戻らないから、一足先に君に伝える」
「わかった」
エミリオが返事をすると、セシルは満足気に頷いた。
「カイルとリバーだっけ? 君たちを痛めつけた不屆き者については、俺が簡単にはけない狀態にして君たちの馬車の中に送り込んでおいた。それはエミリオが目を覚ました時に伝えたと思うんだけど」
「うん」
「本當はそちらの商會の馬車も一緒にキリクに向かうべきだと思う。でも殘念な事に、俺たちが君たちの馬車を発見した時には、二頭いた馬のうち一頭が行方不明になってたんだ。そもそも俺たちがそちらの馬車を見つけたのは、カイルとリバーの二人がこちらに襲いかかって來たからなんだけど」
「……口封じのためだと思う。男を先に始末して、は後からゆっくり楽しんでからって言ってるのが聞こえた」
余計な事を言っただろうか。セシルの雰囲気が剣呑なものに変わった。エミリオにも何となく男たちの邪な意図がわかる。きっとセシルが先にやられたら、リズにいやらしい事をするつもりだったに違いない。
「手加減なんてせずにもっと痛めつけておけばよかった」
ぼそりとつぶやいたセシルの顔は真顔だった。
「……馬はどっちが逃げたの? 白い方? それとも鼻面に斑點がある方?」
「殘ってたのは斑點がある方だった」
なら逃げたのはブランだ。
逃げた先で無事でいてくれればいいが、獰猛な食獣に襲われていないか心配だ。
エミリオが顔を曇らせると、セシルは申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん、もしかしたら、戦した時の音に驚いて逃げたのかもしれない。馬が落ち著きなく暴れてたような気がするんだ」
「セシル兄ちゃんのせいじゃないよ。きっと父さんもそう言うと思う」
「そう言ってもらえるとちょっと気持ちが楽になるけど……問題はそれだけじゃないんだ。すごく言い難いんだけど、そっちの馬車は二頭立てだろ? 正直殘った一頭だけでキリクまで向かうのは難しいと思うんだ」
セシルの言葉は実にもっともだった。
ライウス商會の馬車は二頭の馬で引くことを前提に作られている。殘ったスポッティだけでキリクまで向かうのは、理的にかなり厳しい。
「こちらも心苦しいんだけど、犯罪者たちと一緒にそちらの馬車に関しては置いていくしかない。殘されていた馬はこっちの馬車に繋いで一緒に連れていく。……それと、一応そっちの馬車の中を確認して、君たち親子の旅券がった鞄は発見したんだけど、これ以外に絶対に持って行かなきゃっていう貴重品はあるかな?」
そう言ってセシルが見せてきたのは、アンセルが離さずいつも持っている肩掛けの鞄だった。
「馬車の中に金庫があるはずだけど……今はお金よりも街に向かう方が先だと思うからいいよ。早く父さんを醫者に見せてしい」
死んでしまったら何にもならない。
いまだに意識を取り戻さないアンセルが助かるかは別としても、できるだけ急いでしかった。
「わかった。じゃあすぐにでも出発しよう。なるべく急ぐから」
セシルはエミリオの頭を軽くでるとリズに向き直った。
「リズはどうする? 者席に行く?」
「ううん、二人が心配だからこっちについてる」
「わかった」
セシルは頷くと者席へと移した。
「辛かったら言ってね。眠っててもいいから」
「うん」
中が痛くて正直何をしていても辛い。
揺れる馬車移に耐えられるかは不安だったが、それ以上になるべく早くキリクに戻りたかった。
◆ ◆ ◆
なかなか目覚めなかったアンセルの意識が回復したのは、太が天頂に屆こうかという時だった。
もうし治癒魔を使うべきだっただろうかとやきもきしていたマイアはほっと一安心する。
アンセルはエミリオの無事を確認すると、安心したのが再び意識を失うように眠りについてしまった。
エミリオは淺い眠りと覚醒を繰り返していて、起きている時は馬車の振がかなり堪(こた)えるらしく辛そうだ。
痛みに苦しむ怪我人を見るのは心が痛んだ。
マイアには治す手段があるのに、保を考えると使ってはあげられないのだ。
(ごめんなさい)
マイアは心の中で謝りながら、揺れる馬車の中でぐったりと座り込んだ。
ライウス商會の親子が心配で気を張っていた間は何ともなかったのに、アンセルの目が覚めて安心したのがいけなかったらしく、急に気持ち悪くなってきたのだ。
今まで遠征の時、ちょっと気持ち悪くなる程度で済んでいたのは馬車の能のおかげだったらしい。
荷馬車の揺れは軍の馬車とは比較にならないくらい酷い。
「リズ姉ちゃん、大丈夫か……?」
自分も辛いはずのエミリオに心配されてしまった。
「私のはただの乗り酔いだから」
怪我人に心配され、マイアは力なく微笑んだ。
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