《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》02 森からの

2020.9.23 半時間→30分

ハリソンたち3人は、マートが用意した木の上の寢床で一晩を過ごし、明るくなってから歩きはじめた。

「お前、凄いな、朝まで狼共が全然寄ってこなかったじゃねぇか。何か魔法でも使ったのかよ」

昨日狼の群れに何度も追われて苦労したレドリーがしきりに心している。

マートはフフンと得意そうに笑ってから応えた。

「どうせ、真似できねぇから教えてやるよ。熊の糞さ。地面にばらまいて人間の臭いをごまかしたんだよ」

「へぇ、熊の糞……そんなので狼は寄ってこねぇのか」

「くくく、簡単だなって思っただろ?単純に真似たらやばいから気をつけなよ。熊は縄張り意識が強いから下手にすると、逆に近くの熊が寄ってくることになっちまう。ちゃんとその縄張りの熊がどんなのか、どういう狀態かっていうのを見極めて使わねぇとダメなんだ」

「なるほどな。地元の森でよくわかってるから、使える技だってことか」

「ま、そんなじのものさ。ほら、ここは倒木の上を歩くんだ。周りのぬかるみは、底なしだからな。はまったら抜けれねぇとまではいわねえが、抜け出すのにすげぇ時間がかかるから気をつけな」

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3人に対するマートの指示は的確だった。そんな彼でも、深い森の中では方角を見失うのか、時折、木にするすると登って何か確かめていた。

「夕方には小川に出れそうだ。そこを越えればかなり安全になる。そこから30分程歩けば街道だ。マクギガンの街に詳しいのならでっかいナラの木が街道沿いにぽつんと2本並んで立ってるところを知ってるだろう。あのあたりに出る」

「おお、あそこまで行ければ、街までもうすぐじゃないか」

ゴールが見えた気分で、ハリソンたちの足取りも軽くなる。

そこからは、マートの言ったとおり、森の木々もしづつ度がうすくなり、一行は夕方し前には小川に出た。

「おぉ、やった、川だ」

ハリソンは走り出した。慌てて使用人と護衛のレドリーも追いかけていく。

3人はばしゃばしゃと濡れるのも厭わず川にり、手や顔を冷たい水で洗い始めた。マートは、その3人の様子を橫目でみながら、水筒に水を足した。

「これだと今日中に著きそうだな」

レドリーはそう呟いた。マートはああ、著くだろうと簡潔に答える。

「すごいな、普通だと1週間はかかるところを1日で著くなんて。どうだ?雇われてみないか?ぜったい金儲けできる。父に掛け合ってやるよ」

ハリソンはそう言ったが、マートは首を振った。

「いいや、今日は運が良かっただけだ。もっと時間がかかるときもあるからな。安定して商売にするのは難しい。どっちにしろ俺には冒険者のほうが向いてる」

マートはそう言った、彼は商人はたくさん頭を下げて稼ぐものだと思っており、そしてそういうやり方が苦手なのだった。

その後、一行は無事街道に出ることが出來、マクギガンの街の門が閉まる時刻にもなんとか間に合った。

街の中にはいって一息ついた後、マートはハリソンに片手をだした。

「ほら、約束どおり到著したぜ。金貨5枚だ」

「わかった、でも、ちょっと待ってくれ。店まで著いてきてくれたら払う。実は今、僕は持ち合わせがないんだ」

ハリソンは慌ててそう言った。マートは護衛役であるレドリーに視線を移す。

「いや、口約束だからって、うやむやにするようなことは無い。俺からもちゃんと口添えする」

レドリーはそう応えた。マートは仕方ないかというような顔をし、3人について店までついていくことになった。

ハリソンの親がやっているという布の店は間口も広く、客も上品そうで、普段マートが出りするには躊躇するほどの高級店で、かなり繁盛しているようだった。

マートはハリソンたちと一緒に通用口から中にったが、途中から彼だけメイドらしいに豪華な客間に案された。

「しばらくお待ちください。坊ちゃまはすぐ戻られるとのことです」

その若いは、ハリソンのことを坊ちゃまと呼んだ。これは、かなり分の高い人間だったのかと、マートが落ち著かない気分で居ると、しばらくして、初老の立派な服を著、太った男がハリソンを連れて部屋にやってきた。その後ろに執事らしい男とメイドも2人ついてきている。

「儂はハリソンの父親でウォトキンという。よくうちのハリソンを助けていただいた。マートと言ったかね。どうもありがとう」

「ああ、あのままじゃ死んじまっただろうな。育ちが悪いんでこの口調で勘弁してくれ。リリーの街の冒険者でマートだ」

マートは何度も手のひらを自分のズボンで拭うと、ウォトキンと握手をした。

「いやいや、かまわんよ。ハリソンもバカな事をしたものだ。レドリーもハリソンを止めることができないとは護衛失格だ。ふたりともみっちりと叱らんといかん」

そこまで言って、ウォトキンは後ろに控えていた執事らしい男に目配せをした。彼は一歩出ると、マートにし重みのある皮袋を差し出した。

「金貨10枚っておる。今回の禮だ。ハリソンは5枚と言ったらしいがな、儂の禮の気持ちを足しておいた」

マートは嬉しそうにそれをけ取った。

「ありがとな、ウォトキン……さん」

「いやいや、禮には及ばんよ。當たり前の事じゃ。一つだけお願いをして良いかな」

「ああ、いいぜ」

「今回の件、できれば黙っておいてやってしいのだ。ハリソンはリリーの街からマクギガンの街に荷を運ぶことすらできぬといわれたくないのじゃよ。急がぬ仕事だったとは言え、荷を持って冒険とは商人としては失格じゃ。試すのであればせめてもっときちんと準備と調査をしてするべきであった」

「わかったよ。俺もそんな吹聴して回るようなことはしない」

「ハリソンに聞いたが、お前さんはリリーの街からマクギガンの街まで2日で來れるのか?」

「まぁ、運がよければ……だな。季節によっては、迂回しないといけないところもある」

「そうか、うちはリリーの街にも支店がある。たまに仕事を頼むこともあるかもしれん。そのときはよろしく頼む」

「ああ、たまになら、けるぜ。冒険者なんで連絡がつかないときもあるけどな」

読んで頂いてありがとうございます。

尚、熊の糞と狼の話は、創作です。試したりする人は居ないと思いますが、保証できません!

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