《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》17 繭
「あったぞ、あの樹だ」
マートが指差した先は、シェリーには、闇の中で何も見えなかったが、マートによると木立が生い茂り、小さな雑木林のようになったところで、その木々の間には何重にも蔦が生えており、人がるにはすこし躊躇するほどだということらしい。
「あの雑木林全が巣になっているじだな。林そのものは幅50mほどしかないが、さてどうするか。もしかしたらヒュージスパイダーの子供もいるかもな。ほら、あれを見てみな」
シェリーは首を振った。
「悪いが何も見えないよ」
「大きな繭がたくさん並んでいる。のじからすると、クララはあれかな。早く助けないとな」
「とりあえず、人を呼んでこよう。キャンプ地までは30分もあれば著くだろう」
シェリーはそう言った。
「悪いが、俺1人で走った方が早い。ここで松明をもって様子を見ておいてくれるか?危険だから手を出すなよ」
「危険?ヒュージスパイダーぐらいなら私一人でも」
「いや、1匹だけならいいけど、松明の明かりだけで、複數出てきた場合は、ヤバイ。よっぽどじゃなければ助けを待った方が安全だ。いいか?」
ヒュージスパイダーが何匹も巣からでてくる様子を想像して、シェリーはぞっとした。たしかに日中ならまだしも、闇夜であれば、松明の明かりは10mほどしか照らしてくれず、相手は闇からとんでくることになるのだ。
「ああ、わかった」
シェリーはそう返事をしたが、その時にはもうマートの姿はなくなっており、急に闇が近づいてきたような気がして、薄気味悪くなった。実際、松明の明かりが照らしている外はなにもない闇で、はるか後方の、おそらく夜営地であろうあたりがぼんやりと明るいだけだ。空を見上げるとすこし星が見える。松明を左手に持ちかえ、右手で剣を抜くと、いつでも斬りかかれるように神経を研ぎ澄ました。
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マートは息せき切って夜営地に戻ると、フィンレイさん、アニスたち護衛、ジュディを集めると、見てきた様子を報告した。
「ヒュージスパイダー?そいつは厄介だね。晝間なら良かったんだけどねぇ」
アニスはし考え込んだ。
「クララがその蜘蛛に捕まったかもしれないのね。早く助けに行かないと。アニスさん、ヒュージスパイダーってそんなに強いの?」
「ヒュージスパイダーっていうのは人より大きい蜘蛛だっていうのは、ジュディ様も存知でしょう。一匹一匹はそれほど強くありません。問題は、この暗闇と巣があるって話なのです。下手したら數十匹居るかも知れない。それでも晝間ならよかったのでしょうが、この闇夜ですから、予期しないところから急に襲い掛かられる可能が高く、かなり危険です。本來なら朝まで待って討伐したいところですが、今の狀況ではそうも言っていられません」
伯爵令嬢相手だとアニスの口調も丁寧なものになっていた。
「巣に火と油を放り込んで焼くのはどうだ?糸は良く燃えるだろう?」
グランヴィルが言った。
「クララさんが捕まっているという繭まで燃えてしまうよ。そりゃぁ死んでしまうよりはマシだろうけどさ。それはできれば最後の手段ってことにしたいね」
「周囲が明るければ大丈夫なの?それなら私、明かりの呪文が使えるわ。もちろん攻撃呪文もつかえるから援護もするし、それでどうかしら?」
ジュディの言葉に、皆の雰囲気が明るくなった。
「ああ、それなら大丈夫かも。しかし全員が行くわけには行かないですし、巣の可能を考えると戦士5,6人はしいところですが……」
アニスがそう言い、隊商の雇い主である商人のフィンレイは決心したようだった。
「ふむ、アニス、ジュディ様と護衛騎士であるシェリー様にご協力いただいて、あとは、君とグランヴィル、ジェシー、マートでなんとかならないか?その間は、スティーブとジェラルド、あと、斥候のクインシーの3人でなんとかこっちは頑張ろう。そっちの救出作業が延びるようなら、明日の朝を予定していた出発は遅らせてもかまわない」
「ありがとう、フィンレイ。お父様には今回の件、きちんと手紙を書くわ」
ジュディも、そういうところは配慮できるのだろう。フィンレイにそう返事をした。
「じゃぁ、話は決まり。救出組はすぐに出発するわよ。ジェシーとグランヴィルは念のため、松明は多めに持ってね。貓(キャット)案して」
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