《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》19 謎の聲

木にぶら下がったいくつかの繭を降ろすと、中からクララと、他に牛や羊、そして、何人かの人間の皮と服だけの骸が見つかった。

『治癒(ヒール)』『解毒(キュアポイズン)』

アニスの治癒呪文、解毒呪文で、クララは意識を取り戻した。。

「クララ!」

ジュディとシェリーがクララに駆け寄って抱きついた。

「お嬢様、シェリーさん、あの……私……は?草むらにったら、急に目の前が真っ暗になって……」

クララは狀況がつかめないといった様子で頭をふる。その様子を見てアニスが聲をかけた。

「あんたはヒュージスパイダーに攫われて餌にされそうになってたのさ。もっと説明してやりたいけど、いつまでもここには居られない。夜営地に戻るよ。ジェシー、貓(キャット)、 犠牲者たちの品を回収したら、卵とかがのこってたらいけないからヒュージスパイダーの巣を焼き払っておくれ。グランヴィルはクララちゃんが落ち著いたら背負ってやってくれるかい?」

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そうして彼らは無事、夜営地まで戻ったのだった。

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彼らの活躍で、翌日、フィンレイの隊商はほぼ予定通りに出発することができた。

マートは、警戒のために隊商からし先を歩きながら、ヒュージスパイダーとの戦いを思い返し、獨り呟いた。

「あの時、絶対、誰かの聲がしたよな。たしか、“後ろじゃ”……って、聞いたことの無い聲だった」

“ふん、あまりにも未だったのでな。助けてやったのじゃ”

再び聞きなれない聲がした。

「誰だ?」

マートはあわてて見まわしたが、人影などは無かった。

“何を見ておる。わしは剣じゃ。巨大な(ジャイアント)鉄槌(ハンマー)の頭目から手にれたじゃろうが……。もう忘れたのか?”

「?!」

マートはあわてて腰に差してある小剣を鞘ごと手に取り、不思議そうに眺めた。

“わしは、古代の魔法使いに作られた、いわゆる魔剣じゃ。知ある(インテリジェンス)剣(ソード)と呼ばれることもある”

「へぇ、そんなすげぇものが、どうして盜賊団の頭目の持ちになってたんだよ。そういうのって王國とか、あとはでっかい神殿とかの寶庫に飾られてるもんじゃねぇのかよ」

“古の跡で埋もれていたのを、あいつがみつけたのだ。そなた、儂と念話する(話す)ときは考えるだけでよいぞ。口に出すと周りが不審がるでな”

マートは思わず周りを見回し、魔剣も持ち直した。

“こうか?”

“ああ、それでよい。だが雑念が多いのう。腹が減ったなとか、怪しいから捨てた方が良いかとか、そういうのも伝わってきておるぞ。ちゃんと表層思考は切り分ける訓練をしたほうが良いな”

“ちっ、表層思考ってなんだよ。心が読めるってことか?”

“ああ、念話というのは、思っている事を伝えるのじゃが、その思考(思っている事)にも深層と表層と大きく2面ある。まるで言葉に出すように表層に出すように意識して、それ以外はあまり意識しないようにするのじゃ。そうすれば上手く切り分けることができるぞ”

“へぇ、そんなものか。念話ってことは、あんたは魔法が使えるのか?”

“ああ、いくつかならな。ただ、魔力がないからのう。魔師のように使える訳ではない”

“魔法の矢みたいなとか、バシバシって撃ったらカッコいいと思うんだが、そういうのは無理なのか?”

“それは無理じゃ。念話呪文は、れたり裝備している相手に限定されているがゆえに、そこそこ使えるが、あとは、を調べる識別呪文、自分でくための念呪文とく速度を上げる加速呪文が1日に數回といったところじゃろう”

“地味だな”

“ふふ、地味ではないぞ。加速呪文を使えば、1分程じゃが、他人の倍近い速度でけるのじゃ。あの盜賊の頭目もその呪文を使っておれば、そなたなど相手にならんかったわい”

“なるほどな。で、その頭目から俺に乗り換えた訳は?あの時、頭目が俺の剣をまともにけたのは、きっとあんたが何かしたんだろう?”

“ほう、なかなかそなたは頭が回るようじゃ。あいつは殘すぎた。もううんざりしたのじゃ”

“魔法使いに作られたにしては、良心があるってわけか”

“信じられないという思考がれてきておる。まぁよい。そなた、ヒュージスパイダーとの戦いのときに、【強化(ボディブースト)】【毒針(ポイズンニードル)】と呟いておったな。魔族のでも引いておるのか、人間にそのような力を持った者はおらんはずじゃ”

マートの頭に、そのを知られたからには、この剣を地に埋めるか、川に捨てるかという考えが巡った。

“慌てるな、そなたを脅かすつもりはない。わしは、ここ數日そなたの様子を見ておった。そして、所有者としてふさわしい素質の持ち主と判斷したから助けたのじゃ。さっきも言った通り、わしは念呪文が使える。じゃから、街で逃げ出すことも出來たのじゃ。それをせず、そなたを助けた。どうじゃ、信じてくれんか?”

マートはしばらく考え込んだ後、答えた。

“言葉の上手い厄介なやつだ。でも、良いだろう、わざわざ俺に説明してくれたんだ。信じよう。ただし、変な事をしやがったら、即、川底に沈めてやるからな。覚悟しとけ”

“うむ、ああ、わかった。気をつけよう。そして、そなたに耳よりの話があるんじゃが”

“なんだ?”

“あの盜賊団の頭目がお寶を隠しておるのを、わしは知っておるのじゃ。おそらく奴の手下も知らぬはずじゃ。それを手にれたいと思わんか?”

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