《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》23 島

アンジェと名乗ったと共に、エバという名のを部屋に運び込んだ後、マートは家の中を見て回ることにした。

壁や天井は、どういう風に作られたのかわからないが、継目のない白い巖のようなものでつくられており、ベッドや棚といった調度品の類は全くないようだった。

一階には広いリビングと臺所、応接間、食堂、大きな浴槽のある風呂と個室が3つ、倉庫が2つ、そして、マートが最初にった馬屋といった間取りで、3つある個室のうち、1つをアンジェとエバが使い、頭目が1つ使っていたらしい。アンジェたちは、使っていたといっても、床に寢床として大きな木の葉が敷かれているだけで、あとはぬい針や糸といった裁などが部屋の隅におかれているぐらいで他には何も無かった。頭目の部屋には皮や布が敷かれていたが、清潔とは言い難い狀況で、空の酒瓶などが雑に転がっていた。

二階には會議でもできそうな部屋が2つと個室が8つあったが、いずれも部屋の中は空っぽで、長い間使われた様子もなく埃が積もっていた。

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どうやって生活をしているのかとマートがアンジェに尋ねると、食べは、家のすぐ外の畑と、エバが森や海に行って採取してきたもの、水も、家のすぐ外に湧いている泉から汲んでいたらしい。煮炊きは暖爐、水浴びは海でを洗った後、汲んでおいた水でを拭うという生活だったらしい。立派な風呂があるのにと聞いたが、蛇口はあるが、水が出ないとのことだった。マートも確かめてみたが、パネルらしきものはあっただけで、水の出し方はわからなかった。よく見ると、いろんなところに、ボタンのようなものが並んでいるパネルもあった。

“そのパネルは、おそらく、水が出たり、煮炊きをするための魔道じゃろう。他にもいろいろあるかも知れん。じゃが、どれも力となる魔石の力が切れておるのじゃろうな”

マートの様子をみて、魔剣がそう教えてくれた。

“そういうのって修理できるのか?”

“魔道と同じであれば、魔石を手にれて、パネルに押し付けるなりすれば、補充されるかもしれん”

“金持ちの家にはそういうのがあるのか。魔石は高いのに、すげえな”

そんなことを念話で相談していると、アンジェがマートに尋ねた。

「ねぇ、貓(キャット)、おなかすいた。扉の外に行ったら、何か食べるものある?」

「ん?おなかすいたって、何も無いのかよ。扉の外は、山の中だから何もねぇな。手持ちに干しとかい黒パンぐらいならあるけど、食うか?」

「干し!パン!頂戴」

「ああ、いいぜ」

マートは背負い袋から、保存食である干しと黒パンをとりだした。

「お禮は何がいい?」

「お禮って?」

「頭目に、食べを貰うには、なにか禮をしないといけないって言われてた。エバはよくで踴らされたりしてた」

「ぷっ」

マートは思わず噴き出して、頭を抱えた。

「そんなのはしなくて良い。とりあえずそれはやるよ。まだ日が高いから外に食べるものでも探しに行くか。ちょっと待ってなよ」

マートは、弓矢を背負うと、1人で家を出た。家の周りは柵のようなもので囲われており、門が1つあったが、その外には道など存在せず、彼もあまり見たことの無い木々が生い茂っているだけだった。ただし、その門を出て、木々の枝をかき分け左に行くと、すぐ砂浜にでることができた。

“しらねぇ木が多いな。第一、今は花祭りが終わったばかりで、春のはずなのに、ここはまるで真夏みたいなじで、すげぇ蒸し蒸しする。蟲も多いが、見たことの無い大きいのとかがいる。これはこれで、高く売れるかもだが、どこから手したって聞かれると困るかもだな”

“このあたりは、おそらくじゃが、そなたが住んでおる地域よりはかなり南のようじゃ。どれぐらい南かは夜に星を見ればはっきりするかもしれん。木々もかなり変わっておるが、わしも知らぬものが多い。必要であれば識別呪文を使うが、あまり回數は使えんのでな。これというだけにしておくが良いぞ”

“ああ、わかった。とりあえず獲を探すか。まずは空から地形を見たほうが早いだろうな”

マートは飛行スキルを使って飛び上がると徐々に高度を上げて、上空から一帯を見下ろす。そこに広がっていたのは、魔剣が言っていた通り、一面の大海原に囲まれた島だった。

島そのものは西に向いた矢じりのような形で、その矢じりの先である西から南北にびた部分は斷崖絶壁となっており、激しい波が打ち付けていたが、東側の辺は砂浜で、他の二辺がそのままびたような形で出來たサンゴ礁に囲まれており、おだやかなり江となっていた。

島のほぼ中央には標高のあまり高くない山があり、裾野までは濃い緑に覆われている。マートが居た家は山の東側、砂浜のごく近くに建っており、木々が生い茂っていたために気づかなかったが、すぐ近くに、山からの小さな川が一本流れていた。

島の大きさ自は東西に約3キロ、南北には約2キロほどだが、そこからさらにびたサンゴ礁が2キロほどあるようにみえた。

マートが見たところ、他に人の住んでいるような建などはなかった。

“誰も住んで居なさそうだな。西側の山のあたりで獲が居ないか見てみるか。これぐらいの広さだとあまり大きな獣は居ないと思うんだが……”

“そうじゃろうの。居ても兎やネズミといったところじゃろう”

“財寶といえるものは全然なかったが、この島が自由に使えるとすれば凄いよな”

そこまで念話して、マートはエバとアンジェのことを再び考えた。

“捕まってたと言ってたが、あの家は俺がもらったってことでホントに良いのかな?彼たちが住人じゃないか?”

“2人だけであれば、おそらく長くは生きてゆけぬだろうし、彼らも自分自で捕まって監されていただけと言っていたじゃろう。それでは、持ち主であるとは言えぬ。島全がそなたの島と考えてよいのではないのか?”

“俺の島……か。まぁ、誰も來なければ……だけどな”

読んでいただいてありがとうございます。

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