《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》29 霊魔法の手ほどき

老人は、他の3人を置き、マートだけを連れて、森の中にっていった。

「貓(キャット)よ、目を瞑り、耳を澄ましてみよ。風が枝を揺らす音、草や木の葉の揺れる音、鳥のさえずり、先ほどの達の話し聲もきこえるかもしれん。それらの他に、聴こえるものがないか、よくじ取るのじゃ」

彼は、言われるままに目を瞑った。鋭敏覚は敢えて使わずに耳を澄ませる。それでも、様々な音が聴こえてきた。

「集中してはいかん、力を抜くのじゃ」

彼は靜かに森の中で自然で立ち、何かが訪れるのを待つ。

・・・・・・(き…え・・・)

どれぐらいの時間が経ったろうか、マートには、なにかの聲が聞こえたような気がした。

彼は思わず耳に神経を集中しようとして堪え、首をすこし振った。

・・・・・・(きこえる?)

首をそっと縦にうごかす。

・・・・・・(ゆっくりと) ・・・(めをあけて)

マートの目の前には、20㎝程の長で、エメラルドグリーンの長い髪、すこし濃いをした半明のがふわりと宙に浮かんでいた。

・・・・・・(みえたよう) ・・・(じゃの ) ・・・(それが) ・・・(せいれいじゃ)

橫で、老人が呟いた。聲ではないが、聲がきこえてくる。マートもおなじようにしようと試みた。

・・・・・・(あ”)

・・・・・・(そうじゃ) ・・・(あわてず) ・・・(ともよい) ・・・(ゆっくり)

マートは霊に微笑みかけた。霊もにっこりとマートに微笑み返した。

・・・・・・(おれは) ・・・(ねこだ) ・・・(はじめ) ・・・(まして)

・・・・・・(こん) ・・・(にちわ) ・・・(ねこ)

「よし、よいぞ、貓(キャット)よ」

マートはそういわれて、大きく息を吐いた。霊はくるくるとマートと老人の周りを浮かんでいる。

「彼は、わしの友人で、木の霊(ドライアド)のグレタじゃ」

老人がそういうと、グレタとよばれた木の霊は、マートに軽く手を振った。

霊のスキルがあるものだけが、世界に多く存在している彼ら、彼らの存在に気がつくことができる。他の者たちにはその姿も見えぬし、聲も聞こえぬ。そして、親和度の高いもの。ステータスカードでいうと、★3つ以上あるものは、霊に働きかけ願いを聞いてもらえる。その結果が霊魔法というわけだ。それ以下でも、願いを聞いてもらえることもあるが、それには多くの代償を伴うことが多い」

「今、わしがそなたに行ったのは、グレタにお願いしてそなたに話しかけてもらい、その存在に気がつけるように促したのじゃ。素養があっても、自然に気がつくことは極めて稀なのでな」

「グレタは喜んでやってくれたぞ、実はそなたが來たときには、グレタはいつも周りを回って遊んでおったのじゃ」

老人がそういうと、グレタはすこし膨れた様子で、小さな手でポカポカと老人の頭のあたりを叩いた。

「すまんすまん、痛いぞグレタ。悪かった、これは緒だったのじゃな」

老人は口では痛いと言っていたが、それほど痛がってはいなかった。

「ヤドリギの話も、実はグレタが教えてくれたのじゃ。北西の泉に住む泉の霊(ナイアド)が自慢しておったとな」

そう老人が言うと、グレタは自慢げにを張るポーズをとったので、マートは思わず微笑んだ。

「グレタ、可いな」

小さな妖は、マートにそう言われると、頬を赤らめ、嬉しそうにした。

「とりあえず、霊魔法の初歩はこれにて終了じゃ。予定よりかなり早くおわったのう。じゃが、もう夕方じゃ、今晩は、わしの家でと言いたいところじゃが、狹いじゃろうから、庭ででも一泊し、明日の朝には出発するが良い」

「ああ、爺さんありがとう。伯爵家の2人はかなり疲れてたから、いい休憩になるだろう」

「帰りに、夕食のごちそうを採ってきてくれるか?弓を持っているところを見れば、新しく覚えたのであろう。鹿でも期待できるのかのう」

「ああ、途中で何匹も見かけたな。いいぜ、先に帰って火の用意でもしておいてくれよ」

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