《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》39 海辺の家に魔石を

2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ

宴會でたっぷり食べて飲んで楽しんだマートは、翌日もすっかり寢坊し、その後も燻製を作るところを村長に見せてもらったりして、結局村を出発したのは、晝も過ぎた頃だった。そして、彼はし村から距離をとると、人目を避けつつ、魔法のドアノブで海辺の家に行ったのだった。

彼は一日のんびり過ごそうと考えたのだったが、それは、一歩海辺の家にったところで、裏切られることになった。

家の庭でなにやら騒がしい音が聞こえたのだ。

あわてて、庭に通じる扉を開けると、そこには、長2m程の大きなワイルドボアが一頭、庭を囲っている塀を破り、以前、エバたちが耕していた畑を荒らしていた。

ちっ と、マートは、舌打ちし、腰の剣を抜いて構えつつ、毒針スキルをワイルドボアに使った。

【毒針(ポイズンニードル)】

ワイルドボアは、マートに気づき、姿勢を低くして、突っ込んで來ようとしたが、すでにその足はもつれ始めていた。

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2,3歩地面を蹴った腳は、そのまま宙に浮き、ワイルドボアは鼻面から地面に著地する羽目になった。

マートはそのワイルドボアに近寄ると、剣で首筋を払う。が吹き出て、地面にだまりができた。

「予定外だが、まぁいいか。丁度試したかったしな。毒針の毒も、この種類ならには殘らないはずだ。念のために一部毒見はしないとだけどな」

彼はそう呟くと、300キロはあるワイルドボアのを、引っ張って解臺に運ぶ。もちろん、本來の力では無理なので、強化スキルをつかってだ。

ワイルドボアの後ろ腳に縄を縛り付け、解臺にぶら下げる。これと、その橫の簡単な小屋は、彼が最近付け加えた新しい設備だ。

首筋の他、足首と肩の付けにも切れ目をれ、抜きをしておく。そして、それを待つ間、畑の壊れた柵を補修したり、掘り起こされた畑を、これも新しく手にれた農で綺麗に元通りにした。

“なぁ、魔剣、思い通りにはいかないもんだな。誰も居ないと野生り込んできやがる”

“それは仕方あるまいよ。柵を強化して、あとはもうちょっと來る頻度を増やすことだな”

“せっかく、燻製の仕方を見てきて試そうと思ってたんだが、匂いで集まってきそうだ”

“そうじゃの。どうせ今日はに漬けておくだけじゃろう。明日、燻製をしながら柵を強化することを考えればよい”

“まぁ、そうだが、やっぱり1人だと限界があるな”

マートは、逆さ吊りになったワイルドボアの腹を裂いて臓を抜き、皮を剝いだ。ワイルドボアの臓は寄生蟲などが多いので、肝臓などの一部を除いて畑の一角にを掘って料にすることにした。

その後ははある程度の大きさに切り分ける。このあたりまでは、採集者として何度もしているので手慣れた作業だ。その次は脂を綺麗に取り除いて洗い、村で教えてもらった塩とハーブなどを足したにしばらく漬けておくことになる。

“結構手間だよな。これって…。焼くだけなら、こんな事しなくて良いんだが”

“村長も言っておったじゃろう。脂が殘ると早く腐るから駄目なのだと”

“まぁ、そうだけどな。腹の肋骨のところは脂も多くて面倒だから、焼いて食うのに回すか”

“儂じゃなく、早くだれか嫁をもらって、その娘と會話をしながら、こういう下ごしらえをしたらどうじゃ?”

“いや、結婚したとしても、こういうのは俺一人でやってると思うな”

そんな事を魔剣と會話しながら、マートはワイルドボアの中でも太や肩といった塊の部分は燻製にするための下処理をすませ、それ以外の部分は焼いたりして食べる為に加工をすませた。

そこまで済ませたところで、日は傾き、海辺の家には夜が訪れようとしていた。

何度も夜は過ごしたが、今日は魔石がある。それを試してみるというのが、今日の目的の一つだった。

彼はマジックバッグから、魔石を一つ取り出し、複數あるパネルの一つに押し當ててみた。

パネルが數カ所點燈し、家の何か所かに燈りがついた。

「おお、すげぇ明るい。照明も魔道か。ほんと贅沢な家だな」

マートは思わず聲を出した。家の中を見回す。一度徹底的に掃除をし、家類も彼が暮らすための部屋はれ替えたので綺麗なものだ。盜賊のアジトから頂戴したベッド類は処分するところがないので、使ってない部屋にほうりこんである。

マートは順番に殘るパネルにも魔石を當ててみることにした。

一つ目は、パネルはったが數字と文字が出ただけ。

二つ目も、三つめもそれは同じで、よくわからない數字と文字がでただけだった。

“なぁ、何かわかるか?”

“一つ目は空調じゃな。家の中の気溫を一定に保つ。二つ目は、臺所の諸設備、三つ目は風呂とトイレらしい”

“空調ということは、家の中を涼しくできるってことか?そういう魔道があると聞いたことはあったが、実際に存在するとはな”

“たしかに贅沢品ではあるし、盜賊のアジトには無かったのだが、そんなに珍しいものなのか?”

“王様のお城とかはどうなんだろうな?とりあえず、実際に見た事はねぇ。あと、臺所の諸設備ってなんだ?この間手にれた魔道コンロとかか?”

“魔道コンロもそうじゃが、あとは水が出たり、冷蔵したり、冷凍して食べを保管するための箱もあるじゃろう”

“冷蔵?冷凍?冷たくしたり凍らせたりってことか。そうすると食べは長く保管できるのか?へぇええ、この家にそんな魔道が備わってるのか。取り外したら凄い高値で売れそうだ”

“無理やり取り外すと使えなくなるぞ”

“ちっ、それだったら意味ねぇな…。冷たい井戸水とかは旨いだろうけど、それ以外に意味があるのか?”

“まぁ、噓だと思って試してみるがよい。あと、風呂はシャワーと浴槽に熱い湯と水が出るというのは、前に言った通りじゃの。トイレは排泄が水で流れる”

“ああ、それは楽しみにしてたんだ。を綺麗にするのに湯を使えるのも贅沢な話だよ。しかし、魔剣よ、あんた、なんでそんなに詳しいんだ?”

“儂が作られた時代と、この建が作られた時代とは技水準が似ておるからじゃ。逆にそなたが居る今、魔道を作る技が失われておるとも言える。魔法自もかなり衰退しておるな”

“そういうことか。そういえば、前に魔石はもっと安かったと言ってたな”

“ああ、そうじゃの。儂が作られ、封印される前の時代はもっと魔道は普通に存在しておったし、魔石ももっともっと安く、普通の街の者が手軽に魔道をつかっておった”

“そういう事か。すげぇ昔なのかな。あんたは魔道のつくり方とか知らねえのか?”

“それは知らぬ”

“そうか、まぁ、とりあえず順番に詳しい使い方を教えてくれよ。どれもすげぇ便利そうだ”

読んで頂いてありがとうございます。

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