《貓《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】》43 転移トラップ2

マートが転移した先は、水の中だった。

思わず、マートは手足をかし、パニックになりかけたが、彼の場合、濁った水であっても、すこしぐらいは目が効くので、なんとか落ち著くことができた。これは、習得したばかりの霊魔法をほとんど試さずにいきなり本番かと考えつつ、マートは左腕の文様にれながら、ウェイヴィに願った。

“ウェイヴィ 水の中で呼吸を”

『水中呼吸《ウォーターブレッシング》』

“大丈夫よ。ゆっくりと水を吸って”

おそるおそるマートは水を吸い込む。肺の中まで水がった覚があったが、不思議と咽ず、苦しくは無い。ひとまずは大丈夫で、マートはウェイヴィに謝の思いを送る。

“ありがとう、ウェイヴィ。あとは水の中でも自由にけるように”

『水中行(スイムフリーリー)』

“そして、冷たい水に耐を”

『耐寒(レジストコールド)』

“これでいいわ。他の人にかける場合は一時間ほどしか効果は無いけど、あなた自の場合は1日は大丈夫”

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“わかった。してるよ”

呼吸を確保したマートは周りを見回した。頭の上に水の中を漂う死があった。顔に見覚えがある。キャロルだ。

マートは他に死がないかと見回してみたが、あとは、木屑やゴミのようなものばかりが漂っているだけだった。彼の居る部屋は3mぐらいの獨房で一方向は鉄格子、それ以外は石の壁になっており、空気はまったくない。

鉄格子は、まだ形を保って居たが、真っ赤にさびついており、かなり力をれると折ることができた。そうやって、マートは獨房から出し、廊下に出る。廊下は獨房よりすこしだけ天井が高く、その分20㎝程空気の隙間があった。

その隙間には、アニスたちの臭いは殘っていなかったが、1週間前の話だ。マートには、それがどうなのか判斷がつかなかった。水の中では臭いはよく拡散する分、直ぐにわからなくなってしまう。

再び水の中に戻って、部を確認する。彼が居る部屋は獨房がたくさん並んだ部屋だが、鉄格子も半數以上がさび付いて床に落ちており、また片側では天井が崩落していて、上の階に繋がっていた。

マートは迷ったが、獨房から一番近い空気がある場所は廊下である。なので、そちらをつたって移した可能が高そうに思われた。

“くそ、こんなの即死トラップじゃねぇか。キャロルのやつかわいそうに。どう思う?魔剣”

“人は空気がないと助からぬ。それも、この暗闇、水の冷たさ。他の5人も厳しいのではないかな?”

“いや、そう言うなよ。まだ死はキャロルの分だけだ。諦めるわけにはいかねぇ。どっちにしろ俺も出しないとな”

“そうじゃな”

マートは、獨房の廊下から、口と思われる方向に泳いで移し始めた。だが、その時、隣の獨房の中に、見慣れたバックパックがあるのに気がついた。鉄格子は閉まっているが、それを破壊して中にる。

よく見ると、それは、アニスのバックパックだった。上を見ると、天井は崩れている。

それを見て、マートは、アニスたちは廊下を行ったんじゃなく、上の階に上がったのだという事に気が付いた。マートはアニスのバックパックを、魔法のベルトポーチに収納し、そのまま上に向かって泳ぎ始めた。

一つ上の階は、倉庫のようなじでおおよそ30mほどの広い部屋だった。2つ出り口があり、天井ちかくの空気たまりには、あたらしく打ち込んだハーケンが殘っていた。

確かな痕跡に勵まされ、最初は臭い、音、最後はを頼りに水の中を進み、マートはようやく5人の居場所を突き止めたのだったが、その時にはすでに5人は、力が盡き、けない狀態になっていた。

「おい、しっかりしてくれ。ショウさん、姐さん、エリオットさん、クインシー、アレクシア」

マートは空気溜まりとなっているちょっとした出っ張りに座っている5人の頬を叩く。は冷たい。心臓の鼓は辛うじて打っていた。

「くそっ、を溫めないとダメだ。海辺の家に連れていくしかないな」

マートはそう呟き、何もない壁に、魔法のドアノブを突き刺した。

順番に彼らを背負うと、海辺の家の風呂場まで運び、服を著たまま、バスタブに寢かせる。湯の溫度は高めに設定して、流し続けた。

「目を覚ませ。ショウさん。ほら、起きろ、姐さん。エリオットさん、しっかりしろ。クインシー、アレクシア」

湯の中で、皆ので、り、肩を揺する。命の泉の水を口移しに飲ませる。そうやっていくうちに、皆、頬に赤みが差し始めた。

最初に目を覚ましたのはクインシーだった。

「なんだ、ここは天國か……?貓(キャット)?どうしてお前が居るんだ?」

風呂に浸かりながら、ぼんやりとしたじでそう呟く。

「ああ、ようやく気が付いたか。跡地下から回収してきたんだ」

マートは他の4人のをこすりながら、そう言った。

その4人も徐々に意識を取り戻し始めた。エリオット、ショウ、アニス、最後はアレクシアだった。

「皆、生きてて良かったぜ。が溫まるまで、しばらく湯につかってな。ちょっと食べ持ってくるからな」

そういって、マートは臺所に移し、簡単なスープを作って風呂場に戻る。

「ほら、ゆっくり飲みな。もう大丈夫だ」

読んで頂いてありがとうございます。

この章終了までで、10萬文字に到達しそうな見込みとなりました。たくさんの方々に読んでいただけて本當に謝します。登場人も増えてきましたので、序章の前に登場人を整理したものを掲載しました。ネタバレになる可能もありますので、この人だれだっけ?というときに活用ください(笑)

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